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リアクション
★ ★ ★
「さあ、そろそろいいだろう。みんなを起こしてきてくれ」
散楽の翁が、アマオト・アオイとタイオン・ムネメとコウジン・メレに言いました。
サイクロトロンに張り巡らされたフィールドチューブ内が真空になるのをずっと待っていたのです。
この中でマスターたちの入った魔法石を光速近くにまで加速するため、中に空気があったのでは断熱圧縮で大変なことになってしまいます。
そのため、加速フィールドの固定と、内部の真空化に時間を費やしていたのでした。
実際にその作業を行った十二天翔のリクゴウ・カリオペ、タイモ・クレイオ、シンロン・エウテルペ、テンコ・タレイア、タンサ・メルポメネ、チュチュエ・テルプシコラ、パイフ・エラト、ショワン・ポリュムニア、テンク・ウラニアたちは疲れ果てて仮眠をとっています。
アマオト・アオイたちに起こされて、休んでいた十二天翔たちは、サイクロトロンの要所に散っていきました。現場で、細かいコントロールをするためです。
誰もいなくなった仮眠所に、なぜか小さな水竜の幼生がポツンと残っていました。スープ・ストーン(すーぷ・すとーん)です。
どうやら、たくさんのお姉さんたちの中がとても寝心地よさそうだったので、中に紛れ込んでぷにぷにと一種に寝ていたようです。さすがに人間体であったなら即座につまみ出されていたでしょうが、幼竜型のギフトの状態だったので、運よく見逃されたようでした。
「では、開封の儀を開始します」
散楽の翁が言いました。
近くでは、小鳥遊美羽とコハク・ソーロッドが、リン・ダージと共にお菓子を食べつつ見守っています。
他にも、ジェイダス杯で優勝し、今回のジェットコースター利用権を譲った遠野歌菜と月崎羽純や、秋月葵、ミルディア・ディスティン、キャンディス・ブルーバーグ、ラブ・リトル、源 鉄心(みなもと・てっしん)らが立ち会っていました。
周囲は、コア・ハーティオンと龍心機ドラゴランダーが、しっかりと警備しています。
もちろん、メイちゃん、ランちゃん、コンちゃん、ケンちゃんたちと、彼女たちの保護者となっていた、大神御嶽、天城紗理華、アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)、キネコ・マネー(きねこ・まねー)、ビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)たちも今か今かとその瞬間を待ちわびていました。
散楽の翁の説明では、この魔法石の封印は、結界の一部の時間を凍結して光子を不活性化させた物だということだそうです。よく分かりませんが、ニルヴァーナの古代技術なので、ある意味なんでもありなのでしょう。だいたい、ちゃんと説明されても、多分みんなさっぱりですし。とりあえずは謎技術です。
で、封印自体を光速に近づけることによって再活性化させ、通常の封印石のように開封できるようにするらしいです。
四つの封印石は、すでにサイクロトロンの四方にセットされています。
散楽の翁の指示で、アマオト・アオイがスイッチを入れました。いよいよ、加速が開始されます。
地球にあるサイクロトロンやシンクロトロンとは違って、ここの設備はイコンのフローターにも使われているフィールド加速器を、ヴィマーナ母艦が5000年にわたって吸収蓄積してきたエネルギーを転化した無数の魔法石を使って、数万基配置した物です。そのため、磁力などは発生せず、バリア内で安全に強力な加速を行うことができます。
目で確認することはできませんが、計器による観測データでは、順調に加速は行われたようです。
「もういいでしょう」
散楽の翁が、システムの停止を命じました。今度は、減速を開始します。なにしろ急には止まれませんので。
しばらく待って、やっと全てが停止し、十二天翔たちが魔法石を回収して戻ってきました。
四つの魔方陣の上におかれた魔法石は、強い光を放っていました。
「ここまでくれば、後は簡単ですよ」
タイオン・ムネメが、一同に言いました。実際、ここまで来るのがどんなに長かったことでしょう。
「解!」
散楽の翁がいくつかの印を結んでから唱えました。
「さあ」
散楽の翁が、メイちゃんたちをうながしました。
「おかえりなさーい」
それぞれの武器の姿に戻ったメイちゃんたちが、魔法石に御挨拶をして砕きました。
魔法石の放つ光が目映いほどに強くなり、一同が目を細めました。その光が大きくふくらんでいき、やがて人の姿をとります。
「マスター!!」
そこに現れた四人の騎士たちに、人間の姿に戻ったメイちゃんたちが飛びついていきました。
騎士たちは男女二名ずつで、ゆったりとした薄手の白いローブを着ていました。封印されるときに、衣装を合わせたのでしょう。
ランちゃんのマスターが、ヒーク・オリエンスです。がっしりとした体躯の男性ですが、翠色のやさしい瞳と、癖のある短い金髪をしています。
コンちゃんのマスターが、イックリーク・メリーディエです。しなやかな四肢の男性で、長い黒髪の物静かな青年です。
メイちゃんのマスターが、アリクビ・オッキデンスです。豪奢な赤毛をした凛々しい女性です。
そして、ケンちゃんのマスターが、イビ・セプテントでした。銀髪を肩口で切りそろえた蒼い瞳の美少女で、見た目はごく普通の女の子のように見えますが、四人の中ではひときわ存在感を持っています。
この四人が、彼らだけで5000年前に突如現れたヴィマーナ母艦に突入して、世界樹イルミンスールの手前でシステムを停止させたのです。
「カン・ゼ様、あなたでしたか。ちょっと変わりました? 封印を解いたと言うことは……」
散楽の翁の姿を見て、イビ・セプテントが言いました。
「もう、必要ないと言うことですよ」
「そうですか」
散楽の翁の言葉に、イビ・セプテントが嬉しそうに言いました。やっと、肩の荷を下ろすことができます。
「おめでとー」
そう言って、小鳥遊美羽が拍手をしました。それに合わせて、みんなが拍手と共にメイちゃんたちを祝福します。ついでにチラシを渡そうとしたキャンディス・ブルーバーグが、空気を読みなさいとラブ・リトルに蹴飛ばされました。
「無事、復活できたようだな」
警備を続けながら、感慨深げにコア・ハーティオンがつぶやきました。
『ガオオ……』
でも、何も起きなくて暇だーっと龍心機ドラゴランダーが軽く唸ります。
「ずいぶんと長い間、お疲れ様でした」
源鉄心が、騎士たちをねぎらいました。
拍手に応えて、メイちゃんたちが、丁寧にお辞儀をします。
「この時代は、いいものなのかもしれないね」
イビ・セプテントの言葉に、甦った騎士たちは静かにうなずきました。
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