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王子様と海と私

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王子様と海と私

リアクション

【サーフィン、そして戦闘中】

「わあ、思ったより高いですわねー」
 遥か眼下の海岸を見下ろしながら、ヴァレリアは楽しそうに笑う。
 が、リヴァイアサンの方はヴァレリアを振り落とそうと暴れる。
「サーフィンがしたいのかしら? わたくしも楽しませて!」
 ひゃっほー! とテンション高く叫ぶヴァレリア。そうこうするうちに、リヴァイアサンはビーチに乗り上げていた。
 リヴァイアサンの足元に、人影がある。
 ラルウァ 朱鷺(らるうぁ・とき)は、やたらとテンションの高い第六式・シュネーシュツルム(まーくぜくす・しゅねーしゅつるむ)と共に海岸からリヴァイアサンを見上げていた。
「リヴァイアサンですか。ちょっと食べてみたいですね」
 テンション高くリヴァイアサン目掛けて突っ込んで行く第六式の背を見ながら、朱鷺はその場に留まった。
「リヴァイアサンって、誰も食べたこと無いんじゃないですかね? ちょっと食べたくなりました」
 第六式はリヴァイアサンを見上げて笑っている。
「アヒャヒャ。あの伝説の海のモンスター、リヴァイアサンかネ。このオレ様の剣のサビにしてくれるネ」
 リヴァイアサンは第六式を睨みつけた。
「そう! 何を隠そうオレ様はマスタースケルトン! 骨しかないネ! つまり津波攻撃も水鉄砲もキカナイ!!」
 自慢げな第六式目掛けて、リヴァイアサンは氷のブレスを吹き付けた。
「例えバラバラにされても、アラホラサッサッサの合図で、ガチョーンガチョーンと音を立てて、元通りのイケメンスケルトンに戻るのネ」
 アラホラサッサッサー、といいながら、第六式は崩れた骨をカラカラと元通りに組み合わせた。
「ヒャッヒャッヒャ! リバイアサンを狩って、冥王の次は、海王の称号をGETしてやるネ」
 ちなみに、第六式はそのような称号は持っていない。
 大騒ぎをしながら第六式が戦っているのを、朱鷺は楽しそうに見ている。
「ワタシは最近、NEETになって引きこもっていたので、少し、体の節々が痛いのですよ。ちょっと準備運動をしないといけません」
 ビシッと指さす朱鷺の先に、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)ラブ・リトル(らぶ・りとる)忍者超人 オクトパスマン(にんじゃちょうじん・おくとぱすまん)がいた。
「さぁ、そこで見ている皆も一緒に準備運動しましょう」
 朱鷺と目が合ったコアは、恭しく頭を下げた。
「シャンバラ教導団のハーティオンだ!」
「はろはろ〜ん♪ シャンバラ教導団のNO1アイドル(自称)ラブちゃんよ〜♪」
 呆れ顔のオクトパスマンは気にせず、朱鷺は日本一有名な体操の歌を歌いはじめた。
 聞いた者の脳裏に夏休みの朝の風景が広がる。
「さっぱり運動を覚えていませんね。とりあえず、メロディーに合わせて踊りましょう」
 ずんちゃかずんちゃかずんちゃっちゃ♪ と朱鷺が歌いながら踊っているうちに、第六式はいなくなっていた。
 崩れた骨の欠片もどこへやら、見当たらない。
「しょうがないですね。朱鷺の出番ですね」
 ずんちゃかずんちゃかずんちゃっちゃ♪
「……あれ? 闘い方も忘れてしまいました。さて、どうしましょうかね」
 朱鷺は大きく首を捻って悩む。
「とりあえず、逃げましょう」
 すたこらさっさっさー……とやたらテンション高く、朱鷺は去って行った。
「い、一体なんだったというのだ……」
 釣られて準備体操は万全なコアが、朱鷺の背を見ながら呟いた。
「それにしてもなんと巨大な海竜……しかも囚われの人質までいるというのか! ますます持って見過ごす事はできん!」
「……さーてと」
 意気込むコアに背を向け、ラブは浜辺にパラソルを備え付けた。
「じゃ、あたしはゆっくりしてるから、あんた達頑張ってね〜♪」
 海に遊びにきただけ、と言わんばかりにラブはパラソルの下でゆったりとくつろぎ始めた。
「肉体労働はあいつらが勝手にやるから、あたしは日向ぼっこするんだもんね〜♪」
「蒼空戦士ハーティオン! 参る!」
 とああーっ! という叫びとともに、勇心剣を手に雄雄しくリヴァイアサンへ立ち向かっていくコア。
「覚悟!!」
 リヴァイアサンの首筋に掴まったコア。コアを振り落とそうと、リヴァイアサンは体を海の中へと引き戻して行く。
「ぬう?! み、水の中に向かうのか?!」
 慌てるコアなどお構いなしに、リヴァイアサンは首を振るった。
「い、いかん! それはいかんぞ! 正々堂々ビーチで戦おう! 私は、水中は苦手で……」
 ぼちゃん。叫び虚しく、コアは沈んで行った。
「スミスミ〜ッ!」
 高笑いする、オクトパスマン。
「いいザマじゃねぇか、えぇ?! ハーティオン! てめえはその水底から俺様のファイトを見てるんだな!」
 沈んで行くコアは、バトルマスクのおかげで呼吸できるものの浮上できない。
 必至に泳いでも、推定体重600キロのメタルボディを浮き上がらせることは容易ではないのだ。
 コアを尻目に、泳いでリヴァイアサンの近くに向かって行くオクトパスマン。
「まあ、助けに来て下さったのね!」
「ああ? 助けに来ただ? バーカ言ってんじゃねぇ小娘!」
 オクトパスマンはヴァレリアの言葉を一蹴し、高笑いをする。
「俺様はこの竜野郎を血の海に沈めてやりてぇだけなんだよ! この深海の悪魔オクトパスマン様の残虐ファイトを楽しみやがれーっ!」
 オクトパスマンは顔から伸びる尖った触手をリヴァイアサンに突き立てながら、攻撃していく。
「しっかしオクトパスマン、ノリノリね〜……海で戦う機会あんま無いからホントこういう時楽しんでるわ〜」
 ラブはリヴァイアサンを切り刻もうとするオクトパスマンを遠巻きに眺めながら、他人ごとのように呟いた。
(まー、あんだけやりたいほーだいやってたら他の誰かに成敗されそうだけどね)

 いつもならコアが「やめるんだ!」と言い出すところだが、コアは今沈んでいる。
「フィギュラハーッ! バカな人間どもがーっ! 俺様はこの竜を血祭りに上げられりゃそれでいいんだよーっ!」
 そんなオクトパスマンのすぐ前で、ヴァレリアが震え始めた。
「助けて下さらないのなら……」
「あん?」
 キッとオクトパスマンを見据えるヴァレリア。
「助けて下さらないのなら、構いませんわ! リヴァイアサン、やっておしまい!!」
 というものの、もちろんリヴァイアサンはヴァレリアの命令を聞くこともなく、かといってオクトパスマンにやられ続けることもなく。
 周囲一体を凍らせるようなブレスを吐きながら、巨体を振り回して暴れ回る。
 リヴァイアサンは勢いよく水に身を沈めた。
「そんなことで、俺様を振り落とせるとでも思ったかっ」
 突然、オクトパスマンの背後から触手が伸びた。……強化オルトロスだ。
「なっ……触手に触手が絡む!?」
 オルトロスたちに触手が絡んだまま、オクトパスマンは海の中に沈んで行った。



「案外まだオルトロスが残っているな……」
 守護の闘気を纏った酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、リヴァイアサンの元に向かう人たちの邪魔にならないように、強化オルトロスたちの相手をしていた。
 エリート水兵服と荒馬のブーツ、ダークビジョンを身につけた陽一は水中でも活動できるようにして、ソード・オブ・リコの巨大光剣を手に、オルトロスを薙ぎ払った。
(まだ海中にいるな……)
 地中深くに潜んでいるオルトロスたちに、陽一は向かっていく。
 プロボークで挑発してオルトロスの意識を自身に向け、ディメンションサイトで周囲の状況を把握する。
(二匹……いや、もっと深くに沈んでいるヤツもいるな)
 メンタルアサルトでフェイントをかけ、オルトロスの攻撃を誘発しつつ、行動を予測して立ち回る陽一。
 迫ってくる触手は次々と切断し、オルトロスの戦闘力と意思を削いでいく。
(……囲まれたか?)
 数匹のオルトロスに囲まれた陽一は、闘気の光剣を一旦消滅させた。
 ポイントシフトで視界内のオルトロスとの距離を一瞬で詰めると、刀身から放出した巨大光剣をキャノン砲の様にその体目掛けて撃ち込んだ。
 逃げ出したオルトロスを、陽一は逃がさないように追撃して行った。
「お騒がせ姫再びだ」
 その頃地上では、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が苦笑していた。
「自分で戻って来れそう……な気もするけれど、助けてあげないとね」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)は、顔を見合わせる。
「せっかく海に遊びに来たのに色々と台無しだね」
「女の子は、いつでも王子様の来訪をまっているのよね。いつまでだって夢見るものなのよ」
 うふふ、と微笑むリリアに、メシエはやれやれとばかりに溜め息をついた。
 メシエは魔王の目で隠れているオルトロスの位置を見抜くと、ホワイトアウトの猛吹雪を巻き起こしてオルトロスの視界を奪う。
「こいつ、もしかして女の子の水着姿に釣られて集まってきたのかしら?」
 どことなくいやらしい顔をしているオルトロスにリリアは眉を顰めて、シーリングランスをオルトロス目掛けて放った。
 リリアは特殊攻撃を防ぎつつ、ソードプレイでオルトロスの触手を切り落としていく。
 そんな二人の一歩後ろにいるエースは、海岸に植えられているハマヒルガオをエバーグリーンで増殖させた。
「ごめんね、騒々しくして。君達の力を貸してくれるかい?」
 ハマヒルガオの淡い紫の花にエースが微笑みかけると、花はグングンと成長していく。
 翠賢弓アムルタートでオルトロスを射るエースに合わせ、増殖したハマヒルガオ達がオルトロスを束縛して動きを封じる。
「どうせなら、もう少し見目麗しい魔物の方が良かったのだけれどもねぇ」
 メシエは闇黒死球を生み出し、オルトロス目掛けて放った。
 ゆっくりとオルトロスに近付いて行く魔球は、通過した先のオルトロスを石化させた。
「海の底に沈めるか、砂場のオブジェにするか悩むところだね」
 エースとメシエ、リリアの健闘もあり、徐々にオルトロスの姿は消えて行った。
「この騒動が収まったら、かき氷でも食べてゆっくりしよう」
「ええ。せっかく海に遊びに来たんですものね」
 メシエとリリア、そしてエースの三人は、残りのオルトロスを駆逐すべく戦っていたのだった。