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リアクション
ヴァイシャリーでの戦いから数日後 AM10:21 迅竜 格納庫
「うむ! 甲板の清掃作業はいいな! 綺麗にすれば彼――迅竜も喜んでいることだろう!」
朝早くから始めていた甲板清掃を終え、格納庫へと降りてきたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)。
その表情は達成感に満ちており、実に爽やかだ。
しかし、息つく間もなくハーティオンに声がかかる。
整備班から、大荷物の移動を手伝ってくれとの頼みだ。
「よし! 力仕事なら私に任せろ!」
清掃作業以外にも、迅竜内部の力仕事も彼の役目だ。
大荷物を抱えて格納庫の隅々までせっせと走り回るハーティオン。
その一方で、彼の仲間の一人である龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)はイコン整備区画で寝ているのであった。
ハーティオンの働きをよそに、ゴロゴロしているだけである。
『グオオオオオォォォ……グオオオオオォォォ……』
寝言に関しても普段通り、彼の言葉は異音だ。
もっとも、ハーティオンは内容が理解できるゆえか、異音の内容を知って苦笑とも微笑ともつかない笑みを浮かべる。
(『ZZzzz……。ZZzzz……。ううむ……もう食えんぞ……。……ぐわっはっはっは……。雑魚どもが……我が噛み砕いてくれるわ……』――か、実にドラゴンランダーらしい寝言だな)
荷物を運びながら、ハーティオンはふと胸中に一人ごちる。
(だが、ドラゴンランダーが寝言を言っていられるのは平和な証拠。感謝しなければな)
一方、ドラゴンランダーの横では星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)もゴロゴロしていた。
ただしこちらは休息を満喫しているのではなく、今まさに分析作業の真っ最中だった。
「データベースセツゾク中」
静かに呟くバグベアード。
「敵機体データ、取得。“ユーバツィア”、“フリューゲル”、“ドンナー”、“ヴルカーン”、“フェルゼン”、“ヴェレ”、“シュピンネ”」
粛々と名前を列挙するバグベアード。
いずれも迅竜機甲師団と激闘を繰り広げた強敵だ。
「戦闘パターン、攻撃パターン分析。装甲データ照会……。攻撃有効箇所カイセキ開始……」
そう呟き、バグベアードはしばし黙考する。
しばしの沈黙の後。
ややあってバグベアードは口火を切った。
「算出完了。部隊ヘノデータ転送開始」
データの転送を開始するバグベアード。
それが終わった頃、一人の女性が話しかけてきた。
「あら、もう終わったの。速いわね。流石だわ」
その女性――高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)に向け、バグベアードはぼやく。
「人ヅカイ荒イゾ、コノ部隊」
すると鈿女は苦笑する。
「まぁ、そう言わないの。部隊規模に対して整備、分析、研究の手数が全く足りてないから人員増やせ……とは言ってるんだけどね。なかなかそうもいかないみたいだから、今いる私達で頑張らないとね」
そう言う鈿女は、今日は珍しく薄いサンドカラーのツナギという格好だ。
いつもは黒のパンツスーツでキメている彼女も、今は作業における安全性と能率を重視してこの姿というわけだ。
本来なら、分析、研究を担当する彼女も整備へとまわらなければならないことの証でもある。
逆に言えば、それだけ今の迅竜機甲師団は人が必要だった。
戦いを重ねるごとに参加してくれる協力者も増え、機体も増えた。
もちろん、その中には整備士もいる。
だがそれ以上に、機体が増え方が激しいのだ。
もちろん、それだけ戦力増強がなされたという喜ばしいことである。
しかしながら、より整備の手数が必要になるといったことも、また事実なのであった。
鈿女は早速、整備作業へと入った。
まず彼女が手を着けたのは、グレート・ドラゴ・ハーティオンの整備。
次いで他のパイロットが駆るイコンの数々。
そして、『竜』シリーズの六機に至るまで、片端から点検整備を行っていれば、瞬く間に時間は過ぎていく。
「ハーティオン!この資材、盾竜のあたりに運んでおいて!」
ひとまず最後の作業指示を終えると、鈿女は額の汗をツナギの袖でぬぐう。
「ふぅ……。ひとまず私は部屋に戻って分析に入るわ。大丈夫だとは思うけど、何かあったら呼んでちょうだい」
一息つきながら、鈿女は一旦私室へと戻って着替えを取ると、居住区の一角――浴場へと向かう。
「やっぱり大浴場は良いわね」
風呂からあがり、黒のパンツスーツへと着替えた鈿女は私室へと戻る。
戻った鈿女は早速、敵機体の分析作業を開始する。
更には次から次へと上がってくる『竜』シリーズの強化案の対応をこなし。
空いた時間で、『竜』シリーズ一部高性能パーツをハーティオンや他の機体に流用する実験プランも作成する。
そうしているとすぐに一日は過ぎていく。
「ふぅ……」
一日を終え、鈿女は眼鏡をデスクへと置く。
パンツスーツを脱ぎ、ハンガーへかける鈿女。
ブラウスとブラ、ショーツのみという姿になると、鈿女はベッドに入る。
こうして鈿女の一日は過ぎていくのであった。
翌日 AM9:13 迅竜 格納庫
「おはよう」
パンツスーツでキメた鈿女は朝早くから格納庫に詰めていた。
「おはよう鈿女博士! 今日も精が出るな!」
それを迎えたのはハーティオンだ。
「もちろん。ここは私の技術の活かし甲斐があるもの」
理知的な光をたたえる瞳で鈿女が微笑んだ瞬間だ。
「むっ! このアラートは!」
艦内全域に響き渡るアラート。
すぐにハーティオンと鈿女は顔を見合わせる。
「出撃準備か!」
「ええ。そういうことね。あなたはもちろん、この迅竜にある機体は全部万全の状態にしといたから」
「助かる! 流石は鈿女博士だな!」
格納庫に着々と集まりつつあるクルーに向け、ハーティオンは言う。
「行こう皆! 誰かが我々の助けを待っている!」