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第 2 章−エリザベートの協力……?−

 鋭峰に先んじてシャンバラ大荒野に降った大雪を前に遊び始めたエリザベートと現地で合流した御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は【レビテート】で雪の上をフワフワと飛行しつつヒンヤリとした雪の冷気に心地良さそうだ。
「んー、気持ちいいー! おにーちゃんや環菜おねーちゃんも来れたら良かったのに残念だよね……陽菜ちゃん、まだ小っちゃいし無理もないかなぁ」
 ノーンが浮遊する目の前では、エリザベートが再び埋まって喚いている。
「また埋まったですぅ〜、誰か引き上げて下さいですぅ」
「わっ……! 私も埋まったの! レナンちゃん、助けてなの!」
 エリザベートと一緒に雪に埋まったエセル・ヘイリー(えせる・へいりー)が、パートナーのレナン・アロワード(れなん・あろわーど)に助けを求めた。
「勢い良く歩くからだろ……ったく、何やってんだ」
「お手伝いしてあげるよ、引っ張るからしっかり捕まっててね」
 レナンがエセルを引き上げ、ノーンがエリザベートを引っ張って埋まった雪からどうにか助け出した。
「ありがとうですぅ、しかし困ったですぅ……歩く度に埋まるのは予定外ですぅ」
 うーん、と4人で考え込んでしまうと、不意にエセルが提案した。
「……レナンちゃん、【野生の蹂躙】で魔獣さん達呼び出して雪の上を走って固めてもらうのはダメ?」
 レナンが反論する前にエリザベートが名案とばかりに持参した『エリザベートの椅子』に腰掛けて低空飛行状態になった。ノーンは【レビテート】で浮いた状態を保ち、エセルも『空飛ぶ箒』に乗っている。
「……おい」
「レナンちゃんの事は魔獣さん達攻撃しないと思うから、大丈夫だと思うの、頑張ってなの!」
「わたしが後でお菓子あげるから頑張ってだよ!」
「レナンに託したですぅ〜、任せたですぅ」
 盛大な溜息の後、半ばヤケクソで【野生の蹂躙】を使い、魔獣達が雪の上を縦横無尽に走り抜けるとある程度踏み固まったようだった。
「これで安心して歩けるですぅ〜、レナンご苦労ですぅ」
 雪の上に降りたエリザベートがご機嫌でキュッキュと音を立てながら歩くとノーンは1つ閃いたとばかりに提案した。
「せっかくの雪原だから、雪合戦やりましょう!」
 ノーンの提案に、エセルとエリザベートは一もにもなく乗り、レナンは渋々ながらも彼女達に付き合うのだった。


 しかし、その一方で――
「くっ……! なんなのだ、あの魔獣達は!」
 エリザベート達の目に入らないように撤退する機会を窺っていたハデスは、【野生の蹂躙】で雪原を走り回った魔獣達から逃げる羽目になってしまった。


 ◇   ◇   ◇


 ノーンが提案した『雪合戦』はまず旗印を持って雪玉を投げ合い、当てられたら進軍を止めたり一歩下がったりというペナルティを付けて雪玉を当てれば進軍といったものであった。
「実はあんまり勝敗も気にしないんだよね、とにかく皆で楽しみたいんだもん!」
「いいですぅ、そうでなきゃ遊びに来た甲斐がないですぅ」
「私もやるの! レナンちゃんもやるの」
「……はいはい、解ったって……」

 それぞれ旗を持ち、まず雪玉一発目――
「エリザベートちゃん、今の当たったんだもん! 一歩下がらなきゃダメだよ」
「う……煩いですぅ、ちょっと掠っただけなんですぅ」
 ノーンとエリザベートが押し問答しているとエセルも2人に雪玉を投げてきた。ところが投げた方向というのが――
 ポフッ
「私もエリザベートちゃんに当たったの、下がらなきゃダメなの」
「う……後ろから投げてきたのは無効ですぅーーー!」
 エセルが投げ、正面から来た雪玉をノーンは難無くかわしたが後ろを向いていたエリザベートはもろに当たってしまった。頑張って抵抗したエリザベートだったがノーンとエセルのタッグに押し切られてしまう。
「く、悔しいですぅ! こうなったら……レナン! 覚悟するですぅ!」
 『アウィケンナの宝笏』を両手に持って、レナンへ向けて雪玉を杖で打った。エリザベートからレナンへは障害物のない一直線上という事もあって真っ直ぐ飛べば或いは当たったかもしれない。
 しかし――
 ポトポトポトン
「……」
「……」
「ま、避けるまでもなかった」
 大きく弧を描いたと思えばレナンの所へ届く前に全て落ちてしまった。悔しがったエリザベートが地団駄を踏むと再び埋まったのはまた別の話である。

 雪玉二発目、三発目とノーンは【雪使い】で雪玉状に集めた雪を操り、思わぬ方向からぶつけ、着々と旗を進ませていく。
「ったく、雪玉じゃ【超感覚】もイマイチ利きが悪いな……あと一歩でノーンに追いつくってのに」
「レナンちゃんが追いかけてくるから、わたし逃げなきゃって思うんだもん」
「というか、何故ノーンまで「ちゃん」付けるんだ、ったく……」
 文句を言いつつも、なんだかんだと楽しんでいるレナンとノーンが一足先に雪原端に辿り着き、どんぐりの背比べの如く進んでは下がるを繰り返したエセルとエリザベートが漸くゴールした。
「ふう……私はちょっと休憩するですぅ、雪玉を作っていたら手がすっかり冷えたですぅ」
 ほんの一瞬、【炎の聖霊】を呼び出したエリザベートは軽く暖を取るのだった。しかし、この一瞬の炎が調査団を待ち構えるペルセポネを思わぬ事態へ導く事になってしまうのだった。

「あれ? ないない……ない!?」
 ノーンに分けてもらったお菓子を摘んでいたエセルはイルミンスールの制服のポケットを探って何かを失くした事に気が付いた。
「どうしたの? エセルちゃん」
「ないの……レナンちゃんに宝探ししてもらおうと思って持ってきた宝が」
 レナンは急に青ざめた。エセルが持ってきた「宝」というのは彼が収集しているお宝ではと――
「地球のコインなの、銅で出来てる記念コインで……レナンちゃんが欲しがってたから」
 特に古いものではないが何故か歴史的価値を見出してしまったレナンは、度々エセルにコインを譲ってくれと交渉していたようであった。つまり、そのコインで宝探しをして遊ぶつもりだったがそれどころではなくなってしまったらしい。
「わかった! オレが探す、雪に埋まってても【トレジャーセンス】は利くだろう……見つけたらもらっていいんだな?」
「うん、あげるの」
「わたしも手伝うよ、んっと……【幸運のおまじない】!」
 エセルが雪合戦で進んだ周辺を重点的に探し、ノーンの【幸運のおまじない】とレナンの【トレジャーセンス】が上手く連携して程なく見つける事が出来た。雪合戦の最中と思われたが、どうやら雪に埋まったその時に落としたらしい。
「良かったの! ノーンちゃん、協力ありがとうなの!」
 ノーンの手を取ってブンブンと振りながらお礼を言うエセルに、ノーンも自然と笑顔を見せた。そしてコインを手に入れたレナンは、ほくほく顔で懐に仕舞った。


 まだまだ遊びに来る者も多く、平原のあちこちで雪と戯れる姿が見られたのだった。