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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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 百合園女学院 イコン整備施設
 
『これで終わりだよ』
 ヌルと名乗るパイロットが駆る金色の機体。
 金色に輝く流体金属の鎧を纏う機体。
 それが防衛部隊を蹴散らし、百合園女学院の校舎へと迫った時。
 
 三機のイコンがその前へと立ちはだかる。
 一機は修理を完了したノイエ13。
 残る二機は漆黒の機体だ。
 
 その片方――来里人の駆る漆黒の機体は背中に背負った長方形のバインダーを展開する。
 左右に向けて蛇腹状に展開されたコンテナ。
 これは鎧櫃だ。
 
 まるでバインダーを翼のように広げながら来里人の機体は敵へと肉迫する。
 そして、蛇腹の一辺に収納された“ユーバツィア”を即座に放出、更には一瞬で装着を完了する。
 巧みに“ユーバツィア”を換装しながら次々と攻撃を繰り出す漆黒の機体。
 
 『偽りの大敵事件』の真相を究明した教導団の諜報部隊は次なる任務として、各地に秘匿されていた予備の“ユーバツィア”の回収に入った。
 来里人からの情報でそれを完遂した彼等により持ち帰られた“ユーバツィア”。
 それらを基に生み出されたのがこの機体だ。
 
 それに負けじとシリウスのノイエ13も獅子奮迅の活躍を見せ、銀色の機体を蹴散らしていく。
「この前と違って今回は万全だからな。どんどんかかってきやがれってんだ」
 気を吐くシリウス。
 修理と補給が完璧に行われた愛機とともに、今の彼女は絶好調であった。
 
『来里人、すげえ機体だな』
 驚きと呆れ、そして興奮と共に言うシリウス。
 それに対し、来里人はいつもの冷静な声で応える。
『シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“クライドシュランク”。それが新たなコードネームだ』
『洋服箪笥とはよく言ったもんだぜ。で、あっちは心配しなくていいのかよ?
 
 一方、彩羽の“シュピンネ”は別の金色の機体が率いる銀色の七機。
 ――全バリエーション各一機ずつから成る部隊を一機で相手取っていた。
 敵方にいる銀色の“シュピンネ”が仕掛けてくる電子戦攻撃に関しては何の問題もない。
 
 ――シュバツル・グリューヴルムヒェン・“シュピンネ・グライファー”。
 そう名付けられた新たな“シュピンネ”。
 
 それと彩羽の力を以てすれば、たとえ数世代先を電子戦専用機からの電子戦攻撃といえど無効化できる。
 だが、問題はそれ以外の機体だった。
 コンピュータのような複雑な処理も可能とする『SSS』をコアとするシルベルタイプはその特性上、従来のようなコンピュータ制御に頼らずともよいのだ。
 その分、先日の決戦の時のようにスミスの一存で『SSS』によるサポート機能を停止されてしまえばパフォーマンスが低下するものの、この状況でそれはまずあり得ない。
 
 ゆえに、電子的な攻撃に特化した“シュピンネ”にとっては、相性の上で苦戦を強いられていた。
 しかも状況は更に彩羽を追いこんでいた。
 
『あはは。流石のウィザード級ハッカーも、これじゃあ手も足も出ないみたいだね!』
 
 金色の機体のパイロット――『ズイーベン』率いる銀色の機体。
 その増援が更に押し寄せてきたのだ。
 
 その状況を遠巻きに見ながら、シリウスは再度来里人に問いかける。
『どうすんだよ? このままじゃやばいぜ、彩羽のやつ』
『敵機の仕組みは知っているな。今現在、“シュピンネ”を囲んでいる七機のコクピットを俺達で潰す。それさえできれば、後は彩羽なら大丈夫だ。できるな?』
『お、おう! って、後は彩羽なら大丈夫だ。か。随分と信頼してるんだな』
『――ああ』
 
 短いやり取りの後、二機はそれぞれの射撃武器を構える。
 シールド一体型ライフルを構えるノイエ13。
 二挺拳銃を構える漆黒の“ユーバツィア”。
 激しい戦いの末、やっとのことで掴んだチャンスを逃さず、二機は同時にトリガーを引く。
 
 卓越した技量を持つパイロットによる攻撃は、狙い過たず銀色の機体のコクピットを貫いた。
『彩羽!』
『ええ! わかっているわ!』
 
 彩羽の“シュピンネ”は両肩の紡錘形パーツからロープを発射する。
 ネットを収束させ、縄状にしたものだ。
 ロープの先端に付けられた錘は、たった今コクピットを撃ち抜かれた銀色の機体へと突き刺さる。
 
 その数、七本と七機。
 撃破されて『SSS』が機能停止する瞬間、機密保持の為に自爆装置が作動する瞬間。
 その瞬間だけは『SSS』ではなく通常のコンピュータ制御になる。
 ならばその瞬間には電子的な介入が可能となる。
 もっとも、現行のものを遥かに上回る技術で造られた機体ゆえに防壁は万全。
 しかも、自爆装置が作動するまでラグは殆どない。
 ゆえに、あくまで理論上の話だ。
 
 ただしそれは電子戦を行うパイロットと機体が普通であった場合だ。
 彩羽と“シュピンネ”改め“シュピンネ・グライファー”。
 その力を以てすれば――
 
『な、なんなんだい!? こんなことって……!?』
 共通帯域に流れるズィーベンの慌てた声。
 それもその筈。
 撃破された筈のシルベルタイプ七機が自爆しないばかりか。
 なんと、よろよろと立ち上がったのだ。
『“シュピンネ”にはこういう使い方もあるのよ』
 
 しかも、ふらついた動きではあるものの、確実に七機は各々の武器を構えている。
 そればかりか、それを金色と銀色の機体へと向けているのだ。
 
『ウィザード級ハッカーを舐めないことね。その称号は伊達じゃないのよ』
 彩羽が告げた直後。
 七本のロープに繋がれた銀色の七機は一成攻撃を開始。
 銀色の機体を次々に始末していった。
 
 自身もダメージを負わされ、撤退していく金色の機体。
 
 一方、ノイエ13と漆黒の“ユーバツィア”は攻勢に打って出ていた。
『行くぜ! 来里人! オレに合わせな!』
『いいだろう』
 二機からの同時攻撃を受けて中破する金色の機体。
 旗色を悟ったのか、ヌルもズィーベンに続いて撤退する。
 
 こうして、百合園女学院は守られたのだった。