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リアクション
第10章 糸の先にいる者 Story6
「やれやれ、災難続きだな」
「そう言う愚痴るな、和輝」
パートナーにも聞こえないよう小さな声音で言ったつもりが、耳聡くリオンが聞いてしまう。
「祓魔師の仕事はそんなものだろう?」
「それはそうだが…」
「確かに、戦争ごとよりも面倒ではあるがな」
基本不殺という活動なのだから、始末して終わりとはいうわけにはいかない。
それに加え、人との関わりを最も必要とする組織であることは、リオンも十分すぎるほど理解している。
「たーいーくーつ!」
和輝たちと一緒に後方支援なため、有事に備えて待機している状態だった。
アニス・パラス(あにす・ぱらす)は空飛ぶ箒ファルケの足をぱたつかせる。
「大人しくしないか」
「だって暇なんだもん、リオン。そうだ!皆とお話しよーっと」
「アニス。“皆”との会話も、ほどほどにしておけ」
セレアナたちもいるというのに、人外とばかり話すとはとため息をつく。
「ふぇ…玩具で遊んでちゃいけないんでしょ」
彼女たちとトランプゲームとかなら遊べそうだが、そんなことしてたら和輝に叱られると思い、ずっと我慢している。
「いつ呼ばれるか分からんからな」
「ねーねー、どこまで分かったの?忙しいかな…」
伝達を続けている和輝に声をかけてみるが、情報をまとめたり連絡したりと忙しく働いているのを見てしょんぼりする。
「今分かっているのは、入り口とそれを開ける“鍵”を探している状況ね」
「ほぇー…、そ、そうなの?」
セレアナの話しに目をまんまるくして聞く。
「―…え、えっと、お家を開けるみたいな…やつかな」
「違うみたいよ。一斉に開けないと逃してしまうかもしれないから、見つけたらそこで待機しているらしいわ」
かぶりを振ってセレンフィリティが説明を付け加える。
「うぅ、気になる…。アニスもお仕事したいよ。暇ー…」
和輝の役に立ちたいし、暇すぎて何もすることない。
「ねー、和輝。私たちに仕事くれない?」
「残念だが、今の所待機だな」
「えー!何かあるでしょ、ちょうだいよ!!」
セレンフィリティは私たちも仕事したいときゃあきゃあ騒ぐ。
「はぁ……。肩身が狭いな、男連中も何人かここで待機してもらえばよかったか」
気づけば女子に囲まれ、男子は自分だけというぼっち状態だった。
他の者は働きに出てしまい、女子トークばかりしか聞こえてこない。
「頼んでも断られるのが関の山だ」
「そうはっきり言われるとな…」
「ふむ、私に仕事は?」
「さりげに追い討ちをかけないでくれリオン」
「言ってみただけだ…」
やはりないと分かると嘆息する。
「入り口が判明次第、そこへ向うつもりだ」
「町の連中はよいのか?」
「偽りの先であって、本来とは違うからな。尽力をさいて失敗するわけはいかないだろ」
「それは……まぁな」
随分とドライに言うものだとリオンが肩をすくめた。
「誰かに作られた先などはごめんだ。それが、よくあったとしても…」
自分の意思で生きていけない世界など断固拒否すると言う。
その点に関してはリオンも頷き賛同した。
サリエルは全ての生も死も手中にし、人の心を穢し争わせて醜く殺し合いをさせたがっているのだ。
彼に新たな器を持たせてしまうと物質世界だけでなく、非物質世界まで崩壊しにかかるだろう。
そのためには時に苦渋の決断をしなければならない。
最も気がかりなのは例のシスターがアニスに近づいた時だ。
感化されてしまいやしないか、やや不安だった。
「リオンもいるし、究極なことがなければよいけどな…。……アニス?」
ふとアニスへ目をやると自分たちから離れて何かを見つめていた。
「あれは、…誰だ?」
人影のようなものを目視し、ぎゅっと眉間に皺を寄せる。
「―……っ!」
思わず目を疑いたくなるほどのまさかの光景に、ほんの一瞬声さえも出なかった。
「アニス、そいつから離れろ」
「んー?何かこの子ね、アニスとお友達になりたいんだって。お話しやすいよい子だよ」
「そいつは違う。早くリオンのところへ戻れ」
「おやおや、おにーさんはあなたが他の相手と話すのがいやなんですかねぇ」
人影は少女の手を掴んでくすくすと笑う。
「ううん、そんなことないよ!ねー、アニスと遊ぼうっ」
「じゃあ、あたぁしぃ〜のお家に来てみませんか?楽しい玩具もいっぱいありますよ♪」
「たのしー玩具?どんなのかな?いこーいこー!」
やっと退屈から抜け出せるとアニスはきらきらと輝かせる。
「行くなアニスッ」
リオンも慌てて追いかけるがまったく追いつけない。
「追いかけっこですか〜?あっははは♪」
「捕まえて!」
セレンフィリティはセレアナたちにゴットスピードをかけ追いかけさせる。
「誘拐は犯罪よ、女同士でもあってもね」
ホーリーソウルの気を指先に集中し、女の足元を狙い一閃を放つ。
「おおうっと?」
それに足元を取られ屋根から滑り落ちる。
「その子を返しなさいっ」
「ちぇ、痛いのはいやですからねぇ♪」
身体を捻って光の鞭をかわしアニスを放り捨てる。
「きゃわわー!?…んっ!」
床畳に落ちる寸前、何かに優しく包まれるように止まった。
目を開けるとそこには見慣れた顔があり、酷く怒っているようにも見えた。
「ふ、ふぇ…」
「―…まったく、あまり心配させるな」
ぎゅっと少女の細身の身体を和輝が抱きしめる。
「ご、ごめん……。怒ってる?」
「いや、無事でよかった。本当に…」
アニスを抱えた時、怒っていたわけでなかった。
みっともなく他の者の前で泣き顔を見せたくはなかっただけなのだ。
「きゃはは、ろーりこーん」
「貴様よくもっ」
「あれれー?怒ったんですかぁ。ばっかじゃねーの♪悔しかったら追いかけてくればぁー?」
女はケタケタと笑い離れていく。
「このっ」
「今はよせ」
和輝は向っていこうとするセレアナの腕を掴んで止める。
「けど…あいつは」
「感情に任せて行動するな。祓魔師の教えを忘れたのか」
「あっ、行っちゃった!」
「すまぬ、和輝。少し目をはなした隙にな…」
「いやいい、誰のせいというわけでもない」
アニスさえ無事に取り戻せたならそれでいい。
腕に中でばたばたと苦しがる少女を見て、ようやく手を離してやる。
「もうあいつに近づくな、分かったな?」
「う、うん。いい子だと思ったんだけどなぁ」
「黒いシスターの服…。あいつが炙霧だ」
相手を惑わし駒として操る魔性と人間のハーフ。
それがやつなのだとアニスに教える。
「ほぇえ!?じゃ、じゃあ、何で捕まえなかったの?」
「群れに目的を与える頭をとるタイミングがあってな。今、取りにかかったらサリエルが町から離れてしまうかもしれない。そうなれば、また1から探すことになるんだ」
「むむ〜、そっかー。すぐ捕まえちゃいけない時もあるんだね」
難しいそうな話だなぁと思いつつ、和輝の言葉の意味を理解しようと懸命に聞く。
「もしもの時は、あいつは俺が…」
どう見てもあれは野放しにできない。
本気でやるように対峙しなければ自分がとられる。
その時は誰が止めようと討つと覚悟を決めた。
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