百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

賑やかな秋の祭り

リアクション公開中!

賑やかな秋の祭り
賑やかな秋の祭り 賑やかな秋の祭り

リアクション

 朝。
「ここしばらくみんなに心配かけたから今日は俺が案内役になってみんなをおもてなしします!(今日はみんなのおもてなしって決めてるから死者の“奇跡”は……無しです。それに昔の事も大事だけどかつみさん達と一緒にいるこの時も大事ですし)」
 千返 ナオ(ちがえ・なお)は満面な笑顔を浮かべ、自分の家族の事で心配を掛けた仲間達にいつも以上に元気な声を上げた。
「……あぁ、頼む(事前アンケートで死者の話があったけど……ナオは大丈夫かな)」
 千返 かつみ(ちがえ・かつみ)はいつもと変わらぬ調子だが胸中ではナオの心配一色。人の心は覗けないからナオが心から死者を呼ぶよりも仲間を選んだ事はかつみには分からなかった。何せつい最近、ナオと約束し見付けた家族がすでに故人という残酷な事実を伝えた後だから一層気掛かりに。
「……そんな心配そうな顔をしたらナオが心配するよ」
 かつみの考え事なんぞすでにお見通しのエドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)がナオに聞こえぬようこそっと言った。
「……そうだな」
 かつみは一つ息を吐いた。
 その時、
「よし、今日は全部ナオに任せた。存分に私達を楽しませてくれ(なんとかナオも元気そうだな。ここは私たちも楽しくもりあがらないとな)」
 かつみ達のやり取りを知ってか知らずかナオのフードの中にいるノーン・ノート(のーん・のーと)が観光客よろしくノリノリに騒ぎ出した。
「はい。どーんと任せて下さい(色々聞いたりお願いして準備をしましたからきっとみんなも楽しんでくれるはずです)」
 テンション高くナオは胸を叩いた。かつみ達のために事前に出店している店やその他諸々調べたり主催者の双子にあれこれ聞いたりしたのだ。
 そして
「それじゃ、行きましょう!」
 ナオが添乗員よろしく意気揚々に先頭を歩き出した。

 ナオの案内開始後すぐ。
「……」
 まだ少し心配が残る様子でかつみはノーンと何やらお喋りをしているナオを見ていた。
「……かつみ、私も死者の“奇跡”の話は少し心配したけど……ナオが自分の中で少しずつ整理していくしかないんだよ。私達がするべきは口を挟んだり心配する事じゃないってかつみなら知ってるでしょ……ナオなら大丈夫だと信じて話したんじゃなかった?」
 かつみの心底にこびりつく心配が少しでも和らげばとエドゥアルトは言葉を尽くす。
「……あぁ、エドゥの言う通りだ(……そうだ。俺達がするべきはそういう事じゃない。ナオを見守り支えになる事……)」
 かつみは夏最後のあの日をまぜまぜと思い出した。相手を本当に思いやる言葉はしっかりと相手に届くもの。エドゥアルトの言葉は無事にかつみに届いた。
「分かったのならそれでいいよ。かつみもあの一件ではずっと張り詰めてたんだし、今日は何も考えずのんびり祭りを楽しもう、ね」
 エドゥアルトは破顔し、話を祭りで賑わう今日に戻した。
「そうだな」
 かつみが口元に軽く笑みを浮かべた時
「おい、そこ二人、ぼんやり歩いていると置いてくぞ」
「かつみさん、エドゥさん、何しているんですか?」
 前方から大声で二人を急かすノーンとナオの声が飛んだ。かつみ達は話ながら歩いている内に随分先頭と距離が開いたようだ。
「あぁ、今行く」
「案内役さん、どこかおすすめはありますか?」
 かつみとエドゥアルトは慌てて二人の元へ。エドゥアルトはナオに答える代わりにお茶目に観光客よろしく訊ねた。
「おすすめですか。ではここはどうですか? カボチャのケーキが美味しいそうです。お昼は秋の味覚たっぷりのランチがあるお店があるのでそこ行きましょう」
 ナオがにこにこと勉強の成果を発揮。
「ランチも楽しみだけど、まずはケーキを食べてみようかな」
 エドゥアルトは早速祭りを楽しみ
「秋の味覚たっぷりとは美味しそうだな(もしかして俺達のために今日の祭りについてあれこれ調べたのか)」
 かつみはナオの様子から自分達のために一生懸命に準備してくれたのだと察し、嬉しくなった。
「ケーキを食べるぞー、ナオも食べるのだ」
 ノーンはテンション高く盛り上げる。
「俺はいいですよ。今日はおもてなしをする側ですから」
 皆をおもてなしするという崇高な使命を抱くナオは誘いを断る。
「今日は祭りだ。そんな些細な事は取るに足らぬ」
「そうだよ。何よりみんなで食べた方が美味しいと思うよ?」
 四人分のケーキを購入したエドゥアルトがノーンに加勢するなり
「……そうですね」
「美味しそうだな」
「……俺の分か」
 ナオだけでなくノーンとかつみにもケーキを配った。ケーキは片手で食べ歩きが出来るよう工夫されていた。四人は仲良くケーキを頬張り美味しさを楽しんだ。
 それからしばらくして
「楽しんでるか? 俺が作ったお菓子でもどうだ?」
「オレが作ったお菓子も美味しいぞ」
 主催者の双子が登場。ヒスミの手にはカボチャ味のビスケット、キスミの手には円柱の缶があった。ちなみに彼らの保護者はまかれて姿が見えない。
「お菓子ですか?」
 ナオは事前調査に無い事にびっくり。
「あぁ、美味しいぞ。食べて見ろよ」
 ヒスミは四人の了解を取っていないにも関わらず配り始め、四人は成り行きで貰う事に。
「オレのは後でゆっくり食べる事をお勧めするぜ。例えば、一番盛り上がっているクライマックスの時とか」
 キスミはナオに缶を渡してお勧めの使い方を意味深に教えた。
「はい、お勧めの時が来た時に使ってみますね」
 素直なナオはキスミの指示通り使用する事を約束した。
 それはともかく四人は一斉にビスケットを頬張った。
 途端
「……紅葉が……降っていま……すよ」
「……空が……青いな」
 ノーンやナオ。
「……かつみの顔に……目が二つあるよ」
「エドゥの顔に……口が一つ……ついてる」
 エドゥアルトとかつみ。四人は大して面白くもないのに目に何かが映る度に堪えきれずに笑い出してしまう。
 それを見るや
「効果ばっちりだな。効果は目に付くもの何でも面白く感じて笑い続けるだけだ。すぐに切れるから心配するな」
「ヒスミ、次行くぞ」
 悪戯効果発揮に満足した双子は次の標的を捜しに行った。

 双子が去った後。
「……あの人の靴……赤色ですよ……」
「……あの店……」
 何とか笑いを堪えようにも魔法性の悪戯のため堪えられず笑い続けるナオとノーン。
 それでも祭りを楽しもうと歩き出すがその度に激しく笑いがこぼれ続け
「……笑いすぎて……お腹が……痛い……」
 そう訴える最中もエドゥアルトは笑い続ける。
「……俺も……(端から見たらおかしな団体に見られてるかもな)」
 かつみも必死に耐えようとするが耐え切れず笑いが洩れる。胸中で自分達の体たらくに苦笑を洩らしていた。実際に周囲の目はその通りだったり。
「……ランチ……どうし……ますか……」
 ナオが笑いが出る中、お昼時が迫り必死に案内を務めようとする。
「……案内……してくれ……」
 ノーンが皆を代表して笑いの中答えた。
「……」
 かつみとエドゥアルトはうなずいて賛成を示した。うなずくのも大変そうであった。
「……では……案内……します……」
 ナオの案内が始まった。
 この後、無事に店に辿り着き、四人は秋の味覚たっぷりのランチを注文した。
 問題は料理が届いてからであった。何せヒスミの悪戯やり過ぎ菓子のため笑い効果がまだ続いていたのだ。

 注文した料理が運ばれた後。
「……これが……秋の味覚……たっぷりの……ランチ……です」
「……これは……美味しそうだ……」
 料理を紹介するナオと並べられた料理を見回すノーン。
「……笑い……過ぎて……喉が……乾く……」
 渇いた喉を潤したいと思うも笑いが洩れ続けるかつみ。
「……かつみ……今の……状態で……飲み物は……」
 エドゥアルトは笑いながら液体の危険性を訴える。
「……だ……大丈夫……だ」
 堪らないかつみは覚悟しタイミングを計って口に流し込み
「……!!!」
 吹き出しそうになるも急いで飲み込み事なきを得た。
 とにもかくにも四人はの秋の味覚たっぷりのランチで笑いの絶えない昼食を楽しんだ。

 昼食を終えて店を出た後、ベンチ。

「……はぁ、笑う門には福来たるという言葉があるが、これは……」
「すっかり笑い疲れたね」
 かつみとエドゥアルトはすっかり笑い疲れていた。昼食を終えてしばらくしてビスケットの効果から無事に解放され今に至る。
 その時
「二人共、ちょっと来てくれませんか?」
「二人共、だらしないぞ」
 復活したナオが二人を手招きし、ノーンが叱咤する。元気な二人である。
「……元気だね」
「だな。今行く」
 呼ばれたエドゥアルトはクスリと笑みかつみは溜息を吐きながら二人の元へ向かった。

「ナオ、何があるんだ?」
「……紅葉や銀杏が他より沢山降ってるけど、それ以外に何かあるの?」
 かつみとエドゥアルトは不思議そうにする。頭上からは変わらず秋の葉が舞い降って素敵な秋を演出していた。
 二人の疑問には答えず
「……ここで(貰ったこれを開けて……)」
 ナオはキスミに貰ったお菓子の缶を開封。
 途端、
「!!!」
 四人が驚く中、可愛らしい狸と狐が飛び出し、二足歩行で踊り出した。
「二足歩行で踊っているけど、もしかしてさっき貰ったお菓子の一つ?」
 エドゥアルトが代表として動物達の発生源を訊ねた。
「そうですよ。狸と狐の幻です(多分、紅葉とかが沢山降る場所を訊ねた時に考えてくれたのかも……ビスケットは予想外でしたけど)」
 ナオは開封した缶を見せながら説明した。実は装置製作者として秋の葉が最も降る場所を聞いた際に双子が悪戯心でサプライズを作ったのだ。
 その間にも飛び出した幻の狸と狐はいつの間にか他の参加者達に混じりながら踊り始めていた。
 その光景を見たノーンが
「ほう、踊る狸と狐に踊る人達か。私達も参加してみるか?」
 軽い調子で三人を踊りに誘った。
 それに対して真っ先に反応したのは
「踊り? いや俺踊ったことないし」
 かつみだった。
「……何? うまく踊れない?」
 ノーンは大袈裟な調子で言うと
「……ノーン、もしかして……(ノーンの表情からしていやな予感が……)」
 かつみはノーンの笑みに嫌なものを感じ、僅かに後退。
「あぁ、もちろん、それを狙って言ったんだ。ナオ、突撃だ!! みんなで踊るぞー」
 全てを見透かしているノーンはにやりと悪巧みの笑みを浮かべるなり大声でナオに指示を出すと同時に軽やかにフードから地面へ降り立った。
「はい、先生!」
 素直さとみんなと祭りを楽しみたいという気持ちに突き動かされナオは真っ直ぐにかつみに突撃。
 そして
「かつみさん、踊りましょう!」
「って、待て、ナオ引っ張るなー!」
 ナオはかつみの訴えを流して腕を引っ張って狸や狐と楽しげに踊る群れに連れて行こうとする。
「……(また賑やかな事になりそうだね……この展開七夕の時を思い出すなぁ)」
 エドゥアルトは微笑ましげにかつみ達のやり取りを傍観していた。ちなみに七夕祭りの時も同じ立場であった。
 しかし今回は
「エドゥおまえも行くぞ! 七夕の時みたいに笑ってるだけじゃすまさないからな」
 パラミタ内海での海ドボンの七夕の時とは違う。かつみはナオによる強制連行を少し踏ん張り
「巻き込んでやる!」
 がっしりとエドゥアルトの腕を掴んだ。
「ちょっと、かつみ」
 まさかの巻き込まれ展開に想定外だと言わんばかりにエドゥアルトが声を上げるも少しも掴まれている腕は解放されず、かつみに道連れにされ踊りの輪に引き込まれた。
 結局、四人は狸や狐や他の人達に混じって踊った。

 躍り中。
「これぞ、祭りだ」
「楽しいですね」
 ノーンとナオは生き生きと賑やかに躍りすっかり祭りの空気に呑まれていた。
「……まぁ、みんなが楽しそうだからいいか」
 かつみは踊る事はともかく皆が楽しんでいる事に関しては良かったと思い、
「まさかこうなるなんてね」
 エドゥアルトは苦笑しながら皆に付き合っていた。
 とにもかくにも踊る四人は仲間と共有するこの素敵な時間を心底幸せだと感じ時間が経っても思い出せるようしっかりと心に刻んだ。