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賑やかな秋の祭り

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賑やかな秋の祭り
賑やかな秋の祭り 賑やかな秋の祭り

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 朝。
「うはー、予想通り朝から賑やかだねぇ。こりゃ、盛り上げ甲斐があるってもんだね。信!」
 忍び装束を纏うソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)は喋るために顔を明らかにしていたが、顔を隠して前日に場所取りをしていた所に移動した。
「はいはい、準備は出来てる」
 藍華 信(あいか・しん)は本日の盛り上げのために持参して来たオカリナを取り出し、ソランの元へ。
「ソラ姉様、信様、頑張って下さいませ」
 白銀 風花(しろがね・ふうか)は最前列を陣取り、二人を応援すべく待機。
「……(死んだ人や平行世界の住人をこちらに招待出来ると聞いて利用してみたが、いつ来るんだ。早く来て貰わねぇと。過ごせる時間が減るというのに)」
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)はソランと風花を見ながら皆に内緒でアンケートに答えた事を振り返っていた。
 とにもかくにもソランの踊りが始まった。
「……(信、始めるよ)」
 ソランは目で開始の合図を出し
「……(あぁ)」
 信がオカリナを構え、うなずいてから体を動かす。
「♪♪♪♪(まずはゆっくりと優しい曲からだったな。事前に言っておいたおかげで余計な音楽が流れないようにして貰っているからもしかしたら人目を引くかもな)」
 信は事前の打ち合わせ通り優しくゆっくりなテンポの曲を奏で始めた。
「♪♪♪♪(この音色に合わせてまずはゆったりとした踊りから)」
 オカリナの優しい音色に合わせてソランは、先程の元気溢れる表情ではなく優しく口元に微笑を浮かべつつゆったりとした踊りを披露。
「……見ているこちらも優しい気持ちになりますわ」
 風花は一介の観客として二人の盛り上げを眺め
「……(なかなかやるな……というかオカリナの音色で人が集まってきたな)」
 気になる事があれどハイコドは奥さんの躍りをのんびりと眺めていた。少しずつ人が集まり二人の演奏と躍りに吸い込まれていた。
 しばらくして
「♪♪♪♪(信!)」
 ソランは踊りながら軽く信に目配せ
「♪♪♪♪(あぁ)」
 受け取った信はうなずくと同時に
「……(よし!)」
 ソランは気合いと共にばっと忍び装束を脱ぎ捨て露出の激しい踊り子服に早着替えをする。表情もりんとしたものに様変わり。
「♪♪♪♪(さてここからが本番だな)」
 信はソランの着替えが終了すると同時に指使いが忙しい曲を奏で始めた。
「♪♪♪♪(踊るっていうのもいいものね)」
 光白椿・焔を使った剣舞を披露する。激しくも軽やかな体捌きに刀に激情が乗り移っているのではと感じてしまうほどの鋭く恐ろしい刀使い。まるで大切な物を命を賭して守るかのように。
「♪♪♪♪」
 刀は焔の狼や火の玉を生み出し、ソランを包み込む。優しくも恐ろしい火が演出として加わりますますソランの舞を輝かせる。
「♪♪♪♪(随分、人も集まって来たな。さて……)」
 信は演奏しながら集まった人を見やってからソランに視線を送った。
「♪♪♪♪(了解! もっと盛り上げるわよ)」
 信から合図を受けたソランの舞はさらに激しさを増し、勢いはそのままに最後まで舞い終えた。観客達は興奮気味に余韻を楽しみながらそれぞれ祭りに戻って行った。
「ふぅー、やっぱりいいねぇ」
 ソランは心地良い疲れに満足そうな顔で息を吐き出した時
「……母親がそのようなふしだらな格好をしては子供に恥ずかしいとは思わないか」
 年老いた男性の鋭い声が降りかかり
「!!」
 直撃すると同時にソランは声の主を見て驚いた。
 そこにいたのは
「あ、あははー、なんでおじいちゃんがここに……確か死んだはず……」
 70代半ばの筋骨隆々の男性、ソランの祖父ビャクロク・ジーバルスが立っていた。
「そんな事はどうでもよかろう。さっさと何か着ろ」
 ソランの疑問なんぞあっさりスルーし、露出の多い格好に怖い顔。
「はいぃぃ直ぐ着ます!」
 ソランは弾かれたように一瞬で忍び装束を纏った。
 それから改めて
「……で、どうしておじいちゃんがいるわけ?」
 ソランは恐々と訊ねた。
「……」
 ビャクロクはソランに気付かれぬようちらりとハイコドを見てから
「小さい頃はやんちゃだったが、大人になってもそれが抜けないとは、少しは自覚してはどうなんだ」
 ソランに向かって延々とガミガミと言い始めた。
「…………」
 ソランはぐぅの音も出ない様子で祖父の小言を黙って聞いていた。

 一方。
「……(ようやく来たか。向こうも。まだ朝だから存分に祭りを楽しめるだろう)」
 ハイコドはビャクロクの視線に軽く挨拶をしてから貴重な再会をするソランと風花にも再会が訪れた様子を見守っていた。何気に本日は部外者である。

 再びソラン。
 延々と小言が続いた所で
「……まぁ、お前が元気そうで何よりだ」
 ビャクロクは孫の元気な様子に表情を和らげた。頑固親父であるがかたいだけじゃなく優しい所もあるのだ。
「元気、元気」
 ようやく小言が終わったとソランは安堵しつつも改めて再会を喜んだ。
「……それに自分の打った刀を殺生のためだけで無く人々を喜ばせるために使ってくれた事には感謝する」
 ビャクロクはちらりとソランの手にある光白椿・焔に視線を向けた。その目はとても優しく我が子を見るようなものだった。そう光白椿・焔や過去世界の刀を作った人物なのだ。
「あぁ、うん」
 ソランはまさか礼を言われるとは思わなかったためか戸惑いに満ちた様子でうなずいた。
 ここで
「……我が刀、活かしてくれたんだな。感謝する」
 ソランの手にある光白椿・焔に気付いた風花の父ソーマが現れた。
「……感謝される程ではない。この子の父親が守りたいという意思が聞こえたとか言って拾ったのを自分が打ち直しただけだ」
 ビャクロクは当然の事をしたまでだとソーマの感謝に浮かれる様子は無かった。ソランの父親がソーマの骸から回収しビャクロクが立派な刀として打ち直したのだ。
「……それでも。この世界の自分達に代わって」
「……そうか」
 譲らぬソーマに今度は何も言わずソーマの感謝を受けたビャクロク。
「……それでは」
 用事を終えたソーマは妻とこちらの世界の娘の元に戻った。

 ソーマが去った後。
「刀の話にびっくりしたけど……そうだ、おじいちゃん」
 ソーマとの話に驚くもソランは報告すべき事を思い出した。
「何か変わった事でもあったか?」
 促すビャクロクに
「色々あったけどお姉ちゃん生き返って次期族長になる権利をもぎ取ったし、おじいちゃんの技は若いのに受け継がれてるし」
 ソランはこれまで乗り越えた出来事を振り返り
「私達もこうやってちゃんと生きてるから一族のことは、心配しないで安心してくたばっちゃっていいよ」
 ニカっと笑いざっくりと近況報告を言い放った。
「……確かにくたばってはいるが……全くお前は……」
 孫の言動にビャクロクは軽く溜息を吐き、先程の小言はなんじゃろなと言った感じである。
「じゃぁ、草葉の陰から見守っててよ」
 ソランはカラカラと言い直した。貴重な再会だというのに相変わらずの調子である。
「……あぁ、お前に言われるまでもなく……」
 ビャクロクは口元をわずかに緩めるなり孫に背を向けた。
「あれ、おじいちゃん、もう帰っちゃうの?」
 再会終了が予想外に早かったためソランは思わず声をかけて止めた。折角来たのだからもう少し楽しんでもいいのではと。
 孫の言葉に足を止め
「……用事を終えたからな」
 振り返ったビャクロクが発したのはたった一言。
 それに対して
「……そっか。今日は来てくれてありがとう」
 ソランは引き止めなかった。祖父は頑固で引き止めようとしてもきっと駄目だと分かっているから。ただ少しだけ寂しかったり。
「あぁ」
 もう一度愛する孫の姿を目に焼き付けてからビャクロクはゆっくりと歩き出した。
 そして、ハイコドとすれ違った瞬間
「!!」
 目にも見えぬ速さで刀を抜き、ハイコドに向けて振るった。
「!!」
 『超感覚』を有するハイコドは瞬時に察するなりジーバルス一族が使う鎧通しを改良した技であり奥義『滅破牙狼拳』による目に見える程までに両手に溜めた気を発し、ビャクロクの刀をで受け流した。
「……」
 ビャクロクは刀を鞘に収め、刀を抜いた時の鋭い眼差しではなく優しい眼差しをハイコドに向けた。言葉を込めて。
「……」
 ビャクロクが伝えようとした言葉を感じ取ったハイコドは小さくうなずき遠ざかる背中を見送った。自分を立派な一族の男と認めてくれた背中を。

 ビャクロクの背中が去った後。
「ハコ!」
 ソランが夫の元に駆け寄って来たかと思いきやがっしり腕に抱き付くなり
「……ありがとう」
 夫を見上げて嬉しそうに笑み、再会の礼を口にした。誰が招いたのか聞いてはいないが、様子を見れば分かる。自分だけでなく風花を気遣って招待したのだと。
「……ん、あぁ……」
 ハイコドは自分を見る妻の顔を横目に元々明確にするつもりはなかったためか濁した。
 この後、風花を親子水入らずで過ごすために気遣った信を加えて三人で祭りを楽しんだ。

 ソランが祖父と再会を果たしているその横では
「……お父様とお母様……えと、お久しぶりです……」
 何も知らぬ風花は目の前に立つ20代後半の夫婦に驚くばかりで言葉が上手く出ない。その二人は父のソーマ・ランドバードと母のミホロ・ランドバードだった。
「あなたがニミュね。あの子が大きくなるとこんなに素敵な女の子になるのね」
 ミホロはぱぁと嬉しさに表情を明るくし風花を頭から足の爪先までじぃと見るのだった。成長した娘が目の前にいるのだから無理もないのだが。
「……ミホロ、そんなに見てはニミュも戸惑うだろう」
 妻の様子に呆れるソーマもまた密かに成長した娘を見て喜んでいたり。
「ごめんなさいね。あまりにも嬉しくて」
 夫に注意されミホロはガン見するのをやめて風花に謝った。
「いえ、私も会えて嬉しいです。お二人はもしかして私がまだ小さい平行世界からですか?」
 風花はふるりと頭を振ってから二人の言動から気になっていた事を訊ねた。
「えぇ、まだ小さくて生まれて数週間かしら。本当に可愛いのよ。今は集落の人に世話を見て貰ってるから心配無いわ」
 ミホロは集落にいるだろう我が子を思い出し口元を緩めた。まだまだ幸せ真っ最中のようだ。
「そうですか。それは大変ですね(生まれて数週間というと……でもお二人はこうして無事で平和そうな様子だと集落を全滅させた蜂モンスターが来なかった世界の人)」
 風花はミホロの様子から二人が来た世界がどこかのか見当が付き、それは正解であった。
「それでこの世界の我々は……」
 この世界での風花の事情を知らぬソーマはこちらにも自分達がいると思っている。
「それは……」
 風花は期待する二人を見て少しだけ寂しそうな顔をするも語って聞かせた。自分が生まれてすぐに集落が蜂のモンスターに襲われ全滅し両親に守られた赤ん坊だった自分だけ無事でわたげうさぎに拾われ兎としてわたげうさぎの里で生活していた事を。
 話を終えて
「ですから、私は今、風花って名前で生きています。もちろんニミュという名前も知っていますわ」
 風花はにっこりと笑んだ。悲しい過去はあれど今は多くの仲間に支えられ幸せだと。
「……大変だったのね」
 世界は違えど娘は娘。あまりにも辛い過去にミホロは思わず風花を抱き締めていた。少しばかり声に涙が滲んでいた。
「……お母様」
 仲間とは違う温かな感触に風花は胸がほっこりし、声にほんの少し水分が混じる。
「……守るためとはいえ先に亡くなり幼い娘を一人にした事をここの二人に代わって謝りたい」
 ソーマは風花の頭を撫でながらこちらの世界の自分達の気持ちを代弁した。分かるのだ、彼らがどれだけ娘と共に生きたかったのか。
「……お父様」
 風花は頭を撫でる父親を見上げ、にこぉと笑んだ。呼びかけるだけで精一杯。
「だから、今日は存分に甘えてちょうだい。役不足かもしれないけれど……ニ……風花……」
 ミホロは娘を解放するなり今日に戻る。やっぱり慣れないのか娘の元々の名前を口にしようとして言い直したり。
 それに対して
「ニミュでいいですわ、お母様」
 風花はクスクスと笑いながら言った。
「確か、今日は祭りと聞いた。存分に……悪いが、少し待っててくれ」
 ソーマも妻と同じ事を言おうとしたところでビャクロクとソランが何やら話している事、見覚えのある気配を持つ刀に気付き、席を外してそちらに行ってしまった。
「ソーマ?」
「お父様?」
 いきなりの事にミホロと風花は小首を傾げて成り行きを見守るしかなった。
 ビャクロクとやり取りをした後、すぐにソーマは戻って来た。

 ソーマ帰還後。
「……あの、娘さん一時期ペット扱いしてすみませんでした。獣人とは知らなかったとは言え(この人達が風花の両親か、さっきから見ていたがなかなか良さそうな人だな)」
 信は風花の両親が登場してから言いたくて機会を窺い、今だと口にした。
 そこにすかさず
「あのですね、信様は毎日ブラッシングしてくださるんですよ。それに風花という名前は信様が私をふーちゃんと呼んでいた所から付きました」
 風花がにこにこと信の優しさや今の名前の由来を教えた。信が両親に悪い方に誤解されたくないから。
「……大事にして貰っているのね。今もこの子の側にいて色々と助けてくれているのでしょう。だから謝らなくてもいいのよ。それだけ可愛かったって事なのだから。ありがとう」
 ミホロはにこぉと笑顔になり信を咎める気配は全くなくむしろ感謝する。
「……えぇ、それは……当然の事で」
 信としては咎められなかったのは良かったが風花をペット扱いしていたとか諸々の事で複雑な心境である。
 しかし
「風花、今日は存分に甘えるんだぞ。俺には親が居ないからな、どう甘えろとかは言えんが……」
 風花が大事なのは変わらず、言うべき事を言った信は親子に水を差さないためにこの場を速やかに退散しソラン達の元へ。
「はい!」
 信の言葉に元気に返事をし見送ってから
「行きましょう、お母様、お父様」
 両親に向き直り、三人で祭り見物を始めた。

 祭り楽しみ中。
「……綿毛兎に拾われてから……」
 風花達は近くの店に入り食べながら会話に話を咲かせていた。まずは先程の話の続き、自分がどう生きていたか。
「元綿毛兎の里のリーダーだったのね。さすが私達の娘ね」
 ミホロは誇らしげに風花を見ては手を叩いた。
「……そう言われると少し照れますわ。あと、「いさり火」という雑貨屋の副店長だったりで……」
 褒められてわずかに頬を赤らめながら風花は今の自分の生活を話し出した。
「……立派だな。しかし、毎日大変じゃないか?」
「はい。大変ですが、嫌じゃありませんわ」
 心配するソーマに答えながら風花は料理を頬張った。
 すると
「あらあら、ニミュったら」
 ミホロが風花の口の周りに付いている料理の欠片に気付くなり立て掛けていた紙ナプキンを取って小さな子供にやるように口の周りを拭った。
「……えと、お母様」
 突然の母の行動に風花は戸惑いと恥ずかしさで顔を赤くしてしまった。
「ミホロ、赤ん坊ではないんだから。そんな事をしてはニミュが恥ずかしい思いをする」
 ソーマが急いでミホロを止めた。
「そう言えばそうね。つい、あの子と重ねてしまって……恥ずかしい思いをさせてごめんなさいね」
 ソーマに言われてはっと気付いたミホロは申し訳なさそうに謝った。彼女達の世界のニミュはまだまだ手の掛かる年齢だからそのノリで思わずやってしまったのだ。
「いえ……その、嬉しかったです……お母様とお父様とこういう風に過ごす事がなかったから」
 風花はふるりと頭を振ってからしみじみとした思いで両親の顔を見た。平行世界の両親とは言え両親には代わりがない。こうして過ごせているとは夢の様だと。
 この後、色々とお喋りをし、店を出ては買い食いをしたりと存分に家族団らんを楽しんだ。時間は朝から昼になった。

 昼。
 歩き疲れ風花一行はひとまずベンチで一休みをする事にした。
 そのついでに
「……気持ち良いです、お母様」
「それは良かったわ。紅葉や銀杏が降って来て綺麗ね」
 秋が降る中、風花は綿毛兎に獣化してミホロにブラッシングして貰い
「……」
 あまりの気持ちよさに次第にまどろみ、眠ってしまった。
「……ニミュ?」
 ミホロが声をかけると風花は寝息で答えた。
「眠ったみたいだね」
 ソーマはこちらの世界の娘に優しい眼差しを注ぐ。
 そして
「えぇ、本当に良い娘ね。この世界の私達じゃないけれど、これからもずっと幸せになって欲しいわね」
「あぁ、辛い事があった分誰よりも」
 ミホロとソーマは風花ことニミュの幸せを心底願い、優しく風花の頭を撫でた。
 風花が目覚めるまで二人は静かに待っていた。
 風花が目覚めるとまたお喋りをしながら祭りを楽しんだ。
 時間は昼から花火が彩る夜になった。

 最後の花火が輝き終わってからしばらくして。
「……花火綺麗だったわね。今日はとても楽しかったわ。ありがとう」
「これで祭りも終わりと名残惜しいが、ニミュにはこれからも元気に過ごして欲しい」
 ミホロとソーマは風花に振り返り、別れの挨拶を口にする。その表情には別れを惜しむ色が濃く浮かんでいた。
「……嫌です」
 風花は俯き、小さく反抗、いや自身の本音を洩らす。
 ばっと顔を上げ涙をためた両目を両親に向け
「……もっともっと一緒に居たいです! いろんな事、ランドバードがどんな人達だったのかお母様の料理とかもっと、もっと知りたいのに……分かってるんです。我が儘を言っている事は……でも……」
 感情を爆発させた。再会の時に堪えていた涙が堰を切ったように流れ、声がかすれる。
「……いえ違いますね、私を、ニミュを幸せにしてください」
 風花は涙を拭うも涙は止まらず、胸に詰まった想いが言葉となり口から飛び出る。
「私達もよ」
「世界は違えど娘は娘。大切な……愛する宝物だ」
 両親は堪らなくなって風花を抱き締めた。世界で一番愛してやまない存在を。
「……お母様、お父様……」
 両親の腕の中で風花は感じていた二人の自分に向ける深くてかけがえのない愛を。二人を通して理解した。きっとこの世界の亡くなった両親にも愛されていたと。
 この後、何とか風花は両親と別れたという。
 さらに翌日、新聞でランドバード姓の人が、他にも生きていた人は居たと報じられていた。