リアクション
ジーバルスの森へ 「どう、このあたりなら手頃だと思うよ」 忽然とハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)の前に現れたソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)が、かかえていた木の枝の束をボトボトと地面に落としました。枝とは言っても、しっかりと手で握れるほどの太さをもった物です。 「ありがとう、ソラ。これならいい物が作れそうだ」 そう答えると、ハイコド・ジーバルスは、いくつもの枝をしっかりと地面に突き立てていきました。数が多いので、枝を集めてきたソラン・ジーバルスも手伝います。 そんな様子を、家の前に作られたベンチに座りながら、ニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)は楽しそうに眺めていました。 ここジーバルスの森では、ほとんどの物が木で作られています。とはいえ、イルミンスールの森にある建物のように、生木をそのまま生かしたような物ではなく、ログハウスのようなちゃんと加工を施した物です。このあたりが、職人の一族であるこだわりというのでしょうか。 「さてと、どんなデザインにするかな……」 少し考えてから、ハイコド・ジーバルスが喰牙の構えをとりました。放たれた氣が、まるで鋭い刃のように四方八方から枝を削っていきます。 「太さはこのくらいで、表面の刻みはこんな感じ、いや、もうちょっと深くかな。角はすべて落として、うーん、両端が淋しいな。梟の意匠はどうだろう」 いろいろとデザインを練りながら、ハイコド・ジーバルスが棒を削っていきました。やがて、両端に魔除けふうの梟を刻み込んだ棒が数本できあがります。 「できはどうかな?」 ハイコド・ジーバルスは、完成したつっかえ棒を持って、ニーナ・ジーバルスの所へと行きました。静かに、ニーナ・ジーバルスの隣に腰をおろします。 最近、双子のシンクとコハクの暴れっぷりが日に日に増してきています。タンスの引き出しなどはすべて引き出され、中身が部屋中に散乱するという有様です。元気があるのはいいのですが、後片づけをする身にもなってほしいものです。躾けは一応きちんとやっているつもりですが、まだまだやんちゃな子供たちは素直に言うことを聞いてくれそうもありません。 というわけで、緊急避難措置として、家中の稼働部につっかえ棒をつけようということになったのでした。とはいえ、ジーバルス家の備品ですから、ただの棒というわけにはいきません。そこで、今朝から頑張っているわけなのですが。 「いいんじゃないかしら」 少し目立ち始めたお腹をかかえながら、ソラン・ジーバルスが答えました。じきに、双子たちの弟か妹が生まれることになります。 「ねえ、あなた、これから先、冒険とかどうするの? 私は族長になるから、この里からあまり離れることできなくなるし……」 ニーナ・ジーバルスがハイコド・ジーバルスに訊ねました。 「そうだなあ。たとえ新世界が現れても、一番乗りすることはないだろう。俺たちのフロンティアは、この森に囲まれた里と、あの子たちだ」 そう言って、ハイコド・ジーバルスが、家の中でドタバタと鬼ごっこをしている双子とソラン・ジーバルスの方を振り返りました。そして、視線をニーナ・ジーバルスと、まだこの世に飛び出していない冒険者にむけました。 「もし、また大きな冒険があったとしても、俺たちは、次世代たちのフロンティアへの手伝いになるだろう」 確信を持って、ハイコド・ジーバルスは言いました。何も、前線に出るだけが冒険ではありません、後ろで冒険を支える者たちも絶対に必要なのです。今まで感じていたその存在に、ハイコド・ジーバルスは、自分がなることを決めていました。 「そろそろ名前を考えなくてはね。男の子かなあ、女の子かなあ。でも、こんなにあなたに期待されていると分かっちゃうと、ちょっと焼けるわね」 ハイコド・ジーバルスの決断に納得して、ニーナ・ジーバルスが言いました。 「そ、そんなことはない。愛してるよ、ニーナ。愛してるぞー! ソラー! シンク、コハクー!」 慌てて立ちあがると、ハイコド・ジーバルスは叫ぶのでした。 |
||