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 ツァンダ郊外にある教会では、ささやかな結婚式が執り行われていました。ここは、以前、神崎 輝(かんざき・ひかる)が式を挙げた教会でもあります。
 まずは、予行練習というか、ちょっとと便乗して七瀬 紅葉(ななせ・くれは)雪風 悠乃(ゆきかぜ・ゆの)の模擬結婚式からです。
 神崎輝がオルガンを弾く中、七瀬紅葉と雪風悠乃が手を取り合ってバージンロードを進んできました。七瀬紅葉は初めてのタキシード姿です。雪風悠乃は純白のウエディングドレスを着ていますが、小柄なのでちょっと裾が長いようです。床を引いてゆくヴェールの裾も、とても長く感じられます。
 そのまま祭壇の前にまで進むと、オルガンを弾いていた神崎輝が、慌てて神父さん役に早変わりしました。本物ではないので、いろいろなくだりは見よう見まねですが、もともとそんなにしゃちほこばった式ではありません。
「では、誓いのキスを」
 神崎輝が言うと、七瀬紅葉が雪風悠乃に熱いキスをしました。
 さて、二人の出番はここまでです。
 揃って教会のベンチに座ると、神崎輝が再びオルガンの前に座りました。
 結婚行進曲と共に、本名 渉一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)が扉を開けて、バージンロードを二人して進んできます。本日のメインイベントです。
「汝、本名渉は一瀬瑞樹を妻にめとり……おいおい」
 さっきのように神父役にチェンジした神崎輝がお約束の言葉を述べ始めようとしましたが、なんだか本名渉は上の空です。さすがに、ツンツンと神崎輝が本名渉をつついて正気に返らせました。
「ご、ごめん。つい見とれちゃって……」
「もう、馬鹿ね……」
 慌てて照れる本名渉に、一瀬瑞樹がそうつぶやくように言いました。ドキドキなのはこちらの方なのです。
「瑞樹ちゃんを妻として一生大事にし、そして愛し続けることをここに誓います」
 宣誓も終わり、無事になんとか指輪の交換を経て、続いて誓いのキスをします。
 ここに来て、やっと実感がこみあげてくる二人でした。
「渉君……。これからもずっと、よろしくお願いしますね。」
「もちろんだよ」
 晴れて夫婦となった一瀬 渉(いちのせ・わたる)と一瀬瑞樹は、にこやかに教会から出てきました。
「おめでとー」
 すかさず、七瀬紅葉と雪風悠乃がライスシャワーで出迎えます。
「ありがとー」
 満面の笑みで、一瀬瑞樹がブーケを投げました。もちろん、雪風悠乃めがけてです。
 しっかりとブーケを受け取った雪風悠乃は、七瀬紅葉と並んで、次は自分たちの本番なんだと思って顔を赤らめました。
「さて、記念写真、記念写真」
 どんな構図で写真を撮ろうかと、神崎輝が考え込みます。
「こういうのがいいんじゃないか?」
 言うなり、夫の一瀬渉がさっと妻の一瀬瑞樹をお姫様だっこしました。
「おっ、いいねえ」
 シャッターチャンスは逃さないと、すかさず神崎輝がシャッターを切ります。
「もう、突然なんだから」
 一瀬瑞樹が、ギュッと一瀬渉にしがみついてキスをしました。
 不意をつかれた一瀬渉が踏ん張って耐えるところを、神崎輝が激写します。
「いいなあ」
「なら、こっちも」
 そう言うと、七瀬紅葉も真似して、雪風悠乃をお姫様だっこします。
「いただきました」
 すかさず、神崎輝が連写します。
「じゃあ、最後は、全員で」
 二組の夫婦と夫婦見習いを並べると、神崎輝がシャッターを切りました。
 この一瞬は、みんなにとって、最高の一瞬です。シャッターの音と共に、みんなは自分の中にその一瞬を刻み込んだのでした。