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王子様と紅葉と私

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【秋のある日、冬のある日】

 とある強い秋雨の降る日、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は自分の部屋に吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)を招いていた。
「雨、止まないですね」
「そうだね。だいぶ冷えてきてるみたいだけど、寒くない?」
「はい、大丈夫ですよ」
 外出する気にもなれないこんな日は、部屋でグダグダするのがちょうどいい。こうして詩穂とアイシャが一緒に過ごすのは、初めてだ。
 ふと、アイシャが何かを見つめていた。視線の先にあるものを、詩帆が手に取った。
「防災グッズのLEDランタンなんだ」
 言いながら詩穂がスイッチを入れると、ランタンに暖かなオレンジ色の光が灯る。
「暖かみのある灯りって、雰囲気が良くて素敵ですね」
 アイシャが微笑むと、詩帆は思いついたようにテレビの裏に付けたままのランタンを置いた。
「こうやって電気を消すと……」
 薄明かりの部屋に、ぼんやりと暖かなオレンジの光が灯る。
「雰囲気のいい間接照明になるかもって思ったけど、本当になったね」
「大発見ですね」
 アイシャが楽しそうに笑って、詩帆も思わず笑みを零す。
「いいね、家はなんでもあるから何でも使えるよね」
「楽しいですね」
 たわいないことで笑いあい、冗談半分に肩を叩きあったりして、詩帆とアイシャはムード作りごっこを楽しんだ。
 何か使えるものはないか、と部屋の中を探している中で、昔遊んでいたトランプやボードゲームがどこからか引っ張り出されてきた。
「せっかく出てきたし、トランプしよっか」
「はい! 負けませんよ」
 トランプを真剣に見つめるアイシャに、詩帆はおでこに軽くキスをする。
「じゃあ、ゲームで負けた方が男役ね」
 笑いながら詩帆はトランプをめくった。



 酒杜 陽一(さかもり・よういち)高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は、海京ウォーターパークに遊びに来ていた。
 今日は元気に遊ぶよりも、のんびりすることの方がメインだ。
 陽一と理子は水着に着替えて、屋内の温泉に向かっていた。
「たまにはゆっくりして息抜きしなくちゃね!」
 普段、公務で忙しい日々を送っている理子にとって、こうした休息の時間は貴重だ。
 戦いに明け暮れていた陽一にとっても、同じだ。
 白く濁った温泉に浸かった理子は、心底幸せそうに腕を伸ばした。
「はあー……最高ね」
「あったまりますねー……」
 陽一と理子は顔を見合わせて笑い合った。
「今日はのんびりしましょ」
 理子が陽一の手を取って、寄りかかる。

(ちきしょーあのふたり、隙あらばキャッキャウフフして……)
 恨めしげに陽一と理子を見つめる視線がある。
 陽一たちの死角になる場所で温泉に浸かっている酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)だ。
(こちとら身体は温かくても心は氷縛牢獄だっての!)
 そう言いながら、美由子はペンギンアヴァターラ・ヘルムのペンタやパラミタペンギンたちをマッサージしている。
(ムシャクシャするから、今日はこの子達の身体のコリを徹底的にほぐしてやるわ!)
 美由子は、昨年この海京ウォーターパークのプールで、ペンタたちに助けられたことを思い出しながらマッサージをした。
「去年はありがとね……」
 が、しかし、猛然とペンタ達のマッサージに挑んだ美由子がいたのは温泉の中。
 気がついた時にはのぼせあがってしまい、結局ペンタ達に介抱されたのだった。