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白百合革命(第2回/全4回)

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白百合革命(第2回/全4回)

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第4章 為政者と学生

 百合園女学院で生徒会の職務に当たっていた ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は、団員達から届いた報告をまとめティリア・イリアーノを誘い、班長の桜月 舞香(さくらづき・まいか)と共に、ヴァイシャリー家に訪れていた。
 応接室にて、ロザリンドはまずミケーレに百合園女学院の行方不明者のリストを見せた。
 ダークレッドホールに突入したという目撃情報のある者。それ以外の者については、行方不明になる直前までの行動について、調べられる範囲で調べて書き込んであった。
 それから、ロザリンドが仲間達から得た情報として、ダークレッドホールには炎と光と空間に関する強い魔術が関与している可能性があるという指摘があったということ。
 離宮で見つかった魔力増幅の杖は王家の血を引く者にしか扱えない女王器で、それを知った上で盗んだのであれば、ヴァイシャリー家や王家の血族が関与している可能性がある、といった推測を語っていく。
「犯人とおっしゃられていた、秘書長とパートナーについてお聞きしてもいいでしょうか」
 舞香は主にヴァイシャリー家で発生した盗難事件について調べていた。
「秘書長は、ヴァルキリーの女性だよ。パートナーは、幼い女の子だ。名前は愛菜」
 ミケーレは舞香達に秘書長の写真も見せたが、情報も写真も今はまだ広めたりしないようにと忠告をし、写真を預けてはくれなかった。
 一般人に公開していない機密情報が、白百合団を通じて漏れてしまうことを警戒しているようだった。
「秘書長は地球とパラミタが繋がって間もない頃、ヴァイシャリー家に訪れたそうだ」
 そして彼女はシャンバラ古王国時代に女王家に仕えていた者として、ヴァイシャリー家で働き始めた。
 パートナーの幼子はまだ赤子だったという。
 秘書長は自分の名前を憶えていないということで『ライラ』という仮の名を用いていた。
 人間の外見で30代くらいの外見だったが、古王国時代と合わせ見かけの倍くらいは生きているようだった。
 リーダーシップのとれる女性で、素行にも一切問題はなく、シャンバラ王国の復活のために誠心誠意、ヴァイシャリー家に尽くしていた……ように見えた。
「その秘書長の他に、書庫に出入りできそうな人物は?」
「いないことはないが、単独で忍び込めるような場所じゃない」
 入出する際には警備兵の目に留まるし、記録にも残る。
 それらを調べた結果、やはり犯人は秘書長で間違いないという結論に至っていた。
「それと、指輪ってなんのことですか?」
「王家に仕える者達の間で、代々伝わっているものだ。古代シャンバラ時代は『騎士の指輪』と呼ばれていたらしい。貴重なものらしくてね、狙っている者がいるようだ」
「風見団長のパートナーのサーラさんが「指輪があれば瑠奈を助けられるかも」というようなことを言っていたと聞いています。その指輪とは、奪われた指輪と同じものでしょうか?」
 ロザリンドがミケーレに尋ねた。
「詳しいことはわからないが、多分その指輪とレイルが盗られた指輪は違う指輪だ。同じ古代から伝わる指輪だけれど、嵌められている石が違う」
 古代から伝わる指輪のうち、1つだけ違う鉱石が嵌められた指輪が存在した。
 その特殊な指輪は、ヴァイシャリー家の家督を継承する者が管理しているという。
「2人の居室や執務室を調べたいわ。出来れば書庫も。動機や行方の手がかりがあるかもしれません」
 舞香は捜査協力を申し出たが、ミケーレは首を左右に振った。
「既に警備の者が調査したが、手掛かりになるようなものは残っていなかった」
「一連の行方不明事件と繋がりがあるのかしら? ダークレッドホール方面に向かった可能性は? 何か情報入っていませんか」
 舞香がロザリンドに問いかけた。
 ロザリンドも首を左右に振る。そういった方面に動いている団員はいなかった。
「事件直前、秘書長とパートナーに何かおかしなところはありませんでしたか?」
 ロザリンドがミケーレに尋ねるが、ミケーレはそんなそぶりは一切見せなかったと答える。
「計画的に行われたものだから、ここに手がかりになるようなものは残っていない。
 それと彼女は類希なる力を持つ魔導師で、テレポートも使えたから聞き込み調査をしても足取りを辿るのも難しいかもしれない」
「そうですか……」
 言いながら、舞香は一人考えていた。
(「警察設立には実績が必要」と言われた矢先に盗難事件。
 捜査実績として提出するなら格好の案件よね……。
 なんか出来過ぎなタイミングだと思うんだけど、考え過ぎかしら?)
 ロザリンドと話を始めたミケーレをちらりと見る。
 自作自演なんてことはないだろうか。
 少なくても、ヴァイシャリー家はまだ何か自分達に隠している。
(……ミケーレ、シスト、あなた方の事も、少し調べさせてもらうわよ。
 捜査の基本は現場百篇と、まずは被害者を疑え、ってね。
 あたし、男の言葉は信用し過ぎないことにしてるのよ)
 舞香はミケーレとシストの監視と、ヴァイシャリー家に潜入する計画を立てていく。
「現状、とても厳しい状況ですが……。今後の調査等で事件を収束できるかどうかが、議会においての白百合団の実績報告になるでしょうか。
 犠牲を許容しないで守り切ることも大切と考えています」
 ロザリンドの言葉に、ミケーレは微笑みを見せた。
「そうだね。期待してる」

 瑠奈を含む、白百合団員はまだ気付いていなかった。
 白百合団に関し、ミケーレが必要と感じていたのは実績、よりも“事例”だということに――。

○     ○     ○


 ヴァイシャリー家での相談を終えてから。
 ロザリンドはティリアと共に百合園の生徒会室に戻った。
 生徒会室では、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が情報の取りまとめを行っていた。
「ダークレッドホールに入っちまった百合園生がいるようだけど、お蔭で内部の情報が得られそうだ」
 シリウスは美咲が自分の意思で突入したことを報告するかどうか迷いつつも、今は言わないでおいた。
 調査に当たっているイングリットからは、蒼空学園に所属している陰陽師が、ホール内に式神を派遣することに成功したという知らせが届いていた。
「ホールの先で団員が危機に陥っていても、助けに向かえないかもしれない……怖いわね」
 ティリアが悔しげな表情をする。
「他にも指揮者として必要と思われることがあります」
 ロザリンドは、ティリアに以下を提案する。
・行方不明者や秘書長、そのパートナーについて直前までの行動調査。
・記憶喪失で保護された人の中で身元不明者の身元確認。
・記憶喪失者で契約者の場合、全てのパートナーの体調確認。
・ダークレッドホールに近づく者に、炎だけでなく光などにも注意を呼び掛ける。
「団員を指揮して、仕事を分担していただくことはできませんか?」
 混乱しているティリアに、ロザリンドは優しく強い目で目で言う。
「皆でやれば壁も越えられます」
「……そうね、情報収集に動いてもらいましょう」
 すぐに、ティリアは百合園に残っている団員に呼びかけて、調査に向かってもらうことにした。
 ダークレッドホールに関しては、イングリットに連絡をいれておく。
 生徒会室に紅茶の良い香りが漂っていく。
「落ち着け……っても、無理だよな」
 言いながら、シリウスはティーカップをことんと、副団長のティリア・イリアーノの前に置いた。
 それから、ロザリンドの前にも置き、最後に自分の分をテーブルに置いた後、椅子に腰かけた。
 悪い知らせがいくつも入っており、白百合団は混乱の極みにあった。
 シリウスは淹れたばかりの、ティセラブレンドティーを一口飲んで大きく息をついてから、話しだす。
「ティリア。今だからいうけど……オレ、選挙はお前支持だったぜ?」
 顔を向けてきたティリアをまっすぐ見つめて、シリウスは言葉を続ける。
「少し思い出してみないか? 名乗りを上げた時のこと」
「……」
「……お前にも瑠奈や優子と同じで、負けない位の何かはあるはずだぜ。まだオレたちがついている。オレたちは後悔せずお前に従う。
 諦めず、一緒に戦ってくれ」
 それから強い瞳で微笑んで。
「『ウィナー・ネヴァー・クイッツ(勝者は決してあきらめない)』……だぜ?」
 言葉以上の、何かを伝えるかのようにウィンクをした。
「ありがとう」
 ティリアは弱い笑みを浮かべる。
「私ね、情報をまとめたり、交渉をしたり、会議を開いたりするの苦手なんだなって痛感したわ。
 瑠奈がいたら、彼女にここを守ってもらって、私はダークレッドホールに突入してたと思うなあ……。
 彼女に責任を負わせない為に、自らの責任で作戦を立てて、特殊班を率いてね。桜谷先輩と神楽崎先輩も多分そんな関係だったと思う」
 そして、シリウスとロザリンドを見て頷く。
「瑠奈はいないけれど、こうして一緒に考えてくれる仲間がいるのだから、足らない部分は補い合って、頑張らないとね」
 紅茶を飲んで、ティリアも息をついた。
「よし、それじゃ相談を始めよう」
 シリウス、ロザリンドがそれぞれまとめてきた資料をティリアに見せる。
「まず盗難事件と、ジャ……信頼できるスジから届いた情報だが」
 飲み仲間から聞いた話から、シリウスはエリュシオン帝国の古代の魔道書が事件の発端であると確信していた。
「ダークレッドホールは人為的に作られたもの……罠の可能性が高い。渦から帰還した奴らも、今は監視をつけた方がいいと思う……ただ脱出できたと考えるには、面子や状況が少々不自然すぎる」
「監視をつける権限も根拠もないけれど、注意を呼び掛けてはみるわね。帝国の魔道書については、桜谷先輩から説明を受けているけれど……これは機密情報のはず。白百合団が原因して情報が広まったりしないか心配だわ」
 情報の取り扱いに気を付けないと、一般人の暴動に繋がったり、自己判断で団員が動いて危険な目に遭う可能性があるから、気を付けてねとティリアはシリウスに言った。
 勿論、ヴァイシャリー家の盗難事件の詳細についても、友人に話したりしていないわよね? とも言われて、シリウスはギクリとする。
 ヴァイシャリー家固有のものはともかく、ヴァイシャリー家が預かっていた国の機密データが盗られたと知られたら、ヴァイシャリー家が失墜しかねないのだ
「その辺は情報をきちんとまとめて、必要な情報を団員や協力者に開示し、指揮をとらないとな。うん」
 そう言ってごまかした後、シリウスは自分の推理を話しだす。
「敵はかなり近くにいる気がする……古王国所縁の人間じゃないかとオレは思う。ヴァイシャリー家の倉庫に詳しく、持ち出した品もピンポイントで古王国絡みの品ばかりだ。
 その人物が魔力増幅の杖で秘術書を使い、何らかの目的……秘術書の効果から導き出せるかも……を、起こした、とか」
「データの流出はいつかはわかりませんが、道具類の盗難は9月上旬以降で、ダークレッドホールの発生は8月末ですから、発生事態に杖が使われたということはないでしょうが……」
 ロザリンドがそう言うと、そっかと答えながら、シリウスは友人に情報を正しく伝えられていたか少し気にかかった。
 眉を寄せて考えながら、紅茶をごくりと飲む。
「ふう……まぁ動機や目的はともかく……事件に人の悪意が絡んでいるのは確実だと思う。
 戦いの準備をしておいた方がいいかもな」
 空気が重くなり、皆の表情が暗くなった。