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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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鬼城 貞継

 シャンバラから遥かに離れた地、マホロバ。
 パラミタ大陸の反対側にある国で、マホロバ将軍鬼城 貞継(きじょう さだつぐ)に、大慈院の貞継将軍付女官水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が話していた。
 緋雨と共に、その城を訪れた天津 麻羅(あまつ・まら)の姿はそこにはない。
 今頃は城内のどこかで、ペットのパラミタペンギンたちに愛嬌を振舞わせて女官たちを和ませているはずだ。
「シャンバラのアムリアナ女王を励ます言葉が欲しい、と?」
 貞継が聞いた。やはり意外そうである。緋雨はこくりとうなずく。
「ええ、これはお姉さんの個人的なお願いよ。
 私としては東シャンバラにも知り合いがいるから、東西が統一されて欲しいし……だけど、その頂点に立つ人の負担も重いからできる限り減らしてあげたいの。
 私を助けると思って……お願い!」
 それは、女王への言葉を通してみずからが生き残る事を考えて欲しい、という目の前の人物への緋雨の願いだったのかもしれない。
 しかし──
「駄目だ」
 一言で断られ、緋雨は愕然とする。将軍にとって自分は、思っていたよりも軽い存在だったのか、という不安がむくむくと立ち上がる。
 貞継は立ちすくむ彼女に近づき、その肩を抱いた。予想以上に優しい感覚に、うなだれかけていた緋雨が彼の顔を見る。
 貞継は穏やかに言った。
「今しがたの説明であれば、女王への言葉は儀礼的なものではなく、何がしかの魔法儀式に用いられるのだろう。マホロバ将軍がシャンバラ女王の生死を決定づける儀式に手を貸せば、どのような言い訳をしようと周囲からは政治的な行動と受け取られる。
 そうなれば緋雨の身が危なくなるだろう。それに、この身はもうお前だけのものではないのだ」
 貞継は緋雨の腹に、軽く手をふれた。彼女は御花実様だ。
 緋雨が大事だからこそ、あえてメッセージは出さない。それが貞継の答えだった。