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リアクション
海岸線の攻防2
大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)は加賀の艦橋基部のCICから海岸線に集くインテグラルの群れを見つめていた。
「やれやれ、本艦の竣工祝いにしちゃあちょっと派手過ぎるねぇ」
「あらあら、凄い数ですね」
天城 千歳(あまぎ・ちとせ)がおっとりと応じる。加賀と組んで1ユニットを形成する艦砲射撃担当二番手、土佐の湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)はテレメーアの砲撃中片手間にR&Dを使い艦のコンピューターでイコン損傷度自己判断プログラムを制作し、艦隊のネットワークへアップロードを済ませていた。要塞から出撃する機体に出撃前にインストールする事で、出撃中、修理・補給中と状態に関係なく状況をネットワーク上ならどこでも確認出来るシステムとなっている。
「ネコの手も借りたい状況だ。これで少しは手間が省けるだろ。
しかし……インテグラルにしては行動目的が確立し過ぎだな。さて、今回の一件、誰が裏で糸を引いている?」
土佐のCICで索敵と通信管制、イコン部隊の状況確認を行っていた高嶋 梓(たかしま・あずさ)が声をかける。
「威力偵察部隊が帰投してきます。それと、テレメーアからの砲撃の引き継ぎもまもなくです」
亮一は急ぎCICに移動すると素早く状況データをさらった。
「敵も味方も随分と賑やかな状況だな。さて、派手に行こうか。加賀の初陣祝いにしちゃあちょっと派手過ぎるが。
……ま、冗談は置いておくとしてだ。総員戦闘配備につけ! 対空防御急げ!」
龍一が加賀のブリッジで同様に自艦の指揮を執る。
「総員戦闘配置! 対空戦闘用意! イコンデッキは艦載機の出撃準備を急げ!準備出来次第順次出撃させろ!
敵の数は半端ではない。その上連携攻撃が予想されるとの情報が入っている。
搭載イコンの出撃準備と平行して帰還機への修理、補給の準備もしておいてくれ!
イコンデッキは帰還するイコンへの修理、補給作業の準備に掛かれ!」
加賀はレーダー、赤外線探知、外部カメラを併用して索敵し、遠距離での支援攻撃としては要塞砲で攻撃し、中〜近距離まで接近された場合はではウィッチクラフトライフルとレーザーマシンガンを併用というオーソドックスな先方を採るつもりでいた。
「対空防御も気を抜くな! 敵を当艦より先に行かせるな!」
「龍一さん、張り切ってるわね」
千歳は呟き、レーダーに映る敵影と僚機から送信されてくるデータを照合し、龍一に逐次報告を回す。土佐の亮一が叫ぶ。
「射撃開始! 奴らを足止めしろ!」
レーダー、赤外線探知、外部カメラを併用して索敵し、威力偵察後も敵の密度の高いエリアを探し出し、優先的に砲撃する。威力偵察部隊と入れ替わりに近距離に迫るもの、疎なエリアの敵への対応を任されたイコンが次々と出撃してゆく。千歳は修理、補給に帰還するイコンの状況を確認、最寄の艦へ着艦するための指示と、各種索敵のデータを元に、梓が迎撃機が効率よく接敵出来るように誘導を行っていた。無論土佐からも発進するイコンはある。
「カタパルト接続完了、進路クリア、発進どうぞ!頑張って下さいね」
明るい声でパイロットに一声かけるのも忘れない。
あわせて加賀も海岸線の敵に向けて要塞砲での砲撃を開始する。
「海岸より少数のナイトが当艦へ向かってきています」
千歳がレーダーとモニターを確認しながら龍一に告げる。
「FLAGライフル、レーザーマシンガンを用意、射程圏内に入り次第迎撃せよ!」
「……土佐より連絡です。出撃したイコン部隊が敵に向かっています」
「僚機の位置確認と射線からの退避誘導を指示!」
「はいっ!」
「僚艦、各イコンとの連絡を絶やすな。状況は逐一全部隊に向けて送信!」
「……張り切ってるな。お互いがんばろうや」
土佐の亮一から龍一に通信が入った。
「おう、なんとしても調査隊の撤退までは死守する!」
「その意気だ。だが、十分気をつけろよ」
「そちらも。幸運を祈る」
一方土佐のドッグではアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)が銃型HCに亮一殿の制作した診断プログラムをダウンロードして、帰還した機体の損傷状況のチェックと整備を開始していた。
「青:問題無し 緑:小破 黄:中破 赤:大破 黒:修理不能……っと。
随分と賑やかな事になっておりますが、こういう時こそ整備の腕が試されますな。
診断ツールは素晴らしい物ですが、やはりツールと平行して目視での確認も必須。
こういうときこそ整備士の腕が試されるのですぞ」
ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)に説明をしながら修理・補給の優先度を判断し、亮一のトリアージ区分に従い、目印兼用の表示用マグネットタグを貼ってから中破以下の損害の機体を優先して作業してゆく。ソフィアはアルバートの指示に従い、弾薬やパーツ運搬と燃料補給の指揮と同時に自らも行っている。合間にメイドロボに軽食を用意するように指示を出した。
「長期戦になりそうですし、軽く何かおなかに入れておくのは精神的にも良い事ですもわ」
青い長い髪をなびかせ、忙しい業務の合間に帰艦したパイロットの元へと運ぶ。
「お茶とサンドイッチをどうぞ」
名前の通りの明るい微笑が、パイロットたちの緊張を和らげる。デッキに入れたての紅茶の優しい香りが漂った。
その優雅な姿と、淡い藤紫の塗装から藤色の貴婦人の異名を持つウィスタリアも、あわただしい様相を示していた。ウィスタリアは最前線よりやや後方に位置し、ジャマーカウンターバリアを展開してグラビティキャノンの射程に入ってきたインテグラル・ナイトの撃破に当たっていた。イコンの操作、戦闘はアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が担当していた。迎撃部隊第一波のの帰投との一報を受け、アルマは告げた。
「当機にもイコンの整備施設はあるので、収容しきれないイコンや補給だけで済む機体の受け入れを行います」
アルマは機体と同じ淡い藤紫の髪、どこか眠たげな赤い瞳の愛らしい少女の姿とは裏腹に、常に合理的でクールな態度を崩さない。知らない人からはひどく無表情で冷徹にさえ見られることすらある。彼女のパートナーの柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は見事にそんなアルマとは対照的な人物である。子供っぽい外見と陽気で能天気な彼は、アルマにしょっちゅうしっかりしてください、と言われ続けていた。今回桂輔は帰還してきたイコンの修理に当たっていた。
「整備トリアージプログラム……か。便利なものを作ったな。
なになに、修理区分は青=問題無し、緑=損害軽微、黄色=小破、オレンジ=中破、赤=大破、黒=修理不能と。
無傷、軽度の損傷の機体はこっちで引き受けるとして、中破以上の機体は僚艦にまわす、と。
とにかく敵の数が多い、戦線維持の為にも頑張って整備しないとな」
次々着艦するイコンを手早く診断し、損傷度の低い機体から優先的に修理や補給を行ってゆく。
旗艦テレメーアではローザマリアがある程度まとまってきたデータの前に、眉間を寄せていた。
「やはり厄介なのは連携か。まずはその体制を崩す。全艦の主砲での一斉射撃を行おう」
ネルソンが静かに言った。
「部隊を構成する戦艦での一斉射撃、その後個々での出撃、こちらはサポート体制をとるということですな」
「そうだ。とにかく固まられた状態での遊撃はリスクが大きすぎる」
ローザマリアが頷いた。ネルソンが素早く僚艦に命令を伝える。
「イコン部隊全機、射線上より退避されたし。これより機動要塞による海岸線の一斉射撃を行う。
繰り返す。イコン部隊全機、射線上より退避!」海岸線に居並ぶインテグラルの群れをレーダーで確認しながらローザマリアは照準合わせを行う。
「各艦主砲のデータリンクはいいか? 照準合わせ。誤差修正、マイナス1.3」
土佐の亮一の声が通信機から飛び出す。
「荷電粒子砲のチャージ開始。統制射撃戦用意! データが届き次第叩き込む!」
「こちらウィスタリア。グラビティキャノン発射準備よし。データリンクOK、いつでも発射可能です」
アルマの平板な声が淡々と告げる。
「こちら加賀、いつでも!」
龍一が応じる。
富永 佐那(とみなが・さな)はザーヴィスチを上空に避難させ、一斉掃射の前に海岸線で戦闘を行っていたイコンに退避を呼びかけていた。
「艦隊による海岸の一斉掃射が行われます。総員避難してください。避難座標はコード1503を参照してください。
繰り返します。戦闘中のイコンは全機コード1503まで避難してください。
……巻き添えで粉微塵になりたいという奇特な方は別ですが」
「退避完了ですわ」
エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が短く言う。それを受けてネルソンが砲撃命令を出した。
「全艦主砲発射!!」
目もくらむような閃光と爆音が海岸線に炸裂した。
一斉砲撃がが行われた後、ザーヴィスチは砲撃結果の確認を急ぐ。
「クリーンカより旗艦テメレーアへ。弾着確認。右へ20、修正して下さい」
海岸線にいたインテグラル・ナイトの群れは艦砲射撃でかなりのダメージを負っているようだ。特に遠隔攻撃タイプのものの損傷がひどい様子がはっきりとわかる。よろめいたり、腕や脚を欠損しているものや、動けないものも散見される。しかし中には強靭な固体も混ざっており、さほどダメージを受けていないものもいる。今までと違い同じタイプのものでも個体別に強弱の差があるようだ。さらに敵は海岸線だけに密集しているわけではない。背後の森の奥から新たな固体が次々とやってきている。まさに食い止めるだけの時間稼ぎであることだをというのを契約者たちは実感した。
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