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【終焉の絆】滅びを望むもの

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【終焉の絆】滅びを望むもの

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 洞窟内部を順調に進んでいく部隊。ここまでモンスターとの戦闘はない。
 先行部隊が引き付けてくれていることも大きいのだろう。
 だが、そんな現状にも油断しないよう、サイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が部下達に指示を与えていた。
「守るべき者はコリマ氏及びカケラさんだ。
 敵とはなるべく遠距離で、複数人で一匹を相手にするよう対応し、守勢を基本とすべし。
 ……オリジンの契約者は戦いに慣れているし、なにより頑丈だ。
 危険になったら、遠慮なくなすりつけても問題ないだろう」
 と、言った後に笑うサイアス。ひどい言いように聞こえるかもしれないが、これも仲間を信頼してるからこそ出てくる言葉だった。
 更にこの時間を利用し、クエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)がコリマの横に顔を出して、にこやかに笑いながら尋ねる。
「コリマさん、お疲れではないですか? お水はいかがでしょうか」
(気遣いはありがたいが、問題ない)
「では、一緒に空を飛ぶのはとうでしょうか?」
(そちらの気遣いも無用だ)
 コリマの体調を気にする優しいクエスティーナだが、コリマの方は問題ないようだ。
 「では」と、クエスティーナが話題を変えた。
「今後、こちらの軍はどう動くのか、どう戦っていくのかお伺いしてもよろしいでしょうか」
 先ほどまでの笑顔とは違い、神妙な顔つきになったクエスティーナ。
(今後の状況次第だろう。アナザーの状況を鑑みるに、少なくとも、この地に根付く『黒い大樹』を消滅させることが出来れば、人類側は勝機を得られると考えられる。とはいえ、我々も必要な支援を行う機はあるだろう。ただ、我々の世界の状況を考えれば、そう多くこちらへ派遣することは出来ない。つまり、状況次第、というわけだ)
「成程……」
 コリマの話を聞き終えたクエスティーナはまた笑顔に戻った。
 その笑顔は部隊員を明るくするように感じる。

 コリマとクエスティーナのやりとりを見ていた黒崎 天音(くろさき・あまね)も同じように、カケラへと質問を投げかける。
「……不思議な所だね。そもそも、このアナザーという世界は何なのかな?」
『アナザーは約1万年前、“滅びを望むもの”が地球とパラミタの繋がりの脅威に気付き、
 インテグラルの一団を地球側の宇宙に送り込もうとした世界……。
 無理やり世界を捻じ曲げて送り込んだために、地球から遥か遠い宇宙に吐き出され、
 彼らは長く旅をして“アナザーの地球”に辿り着きました。

 そう……。その長い旅の中で独自進化を遂げた彼らはダエーヴァとなり、
 “オリジンの地球側宇宙を消滅させる”ということを最終目的とする存在となりました。
 そして、地球を観察した彼らはパラミタが地球各所に残した遺跡や力を用いて、
 アナザーとオリジンを近づけて消滅させる、という方法を選んだ……ということです』
 カケラの言葉を噛締めるように脳に落とし込んでいく天音。
 その際の守りは全てパートナーブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)に一任する。
 続けて、「創世や世界産みの事、知りたいのだけど」と質問をする天音。
 天音は浮遊大陸が生まれ出でる際に『女王と世界樹』が不可欠なのではと、付け加えた。
『確かに浮遊大陸には、本来、一人の神と一本の世界樹が必要です。
 ただ長い長い時の中には、代替の方法を用いた大陸が存在したり、パラミタのように複数の国家神と世界樹へと変化した大陸もあります。
 ……いずれにしろ不安定な大陸となっています』
 一度言葉を区切り、次に“世界産み”について説明を始めるカケラ。
『“世界産み”は、簡潔に言えば“完全に新しい世界を産み出す”、というもの。
 ナラカに包括された世界でも、地球がある宇宙でもなく、全く新しい世界を、です。

 大陸が滅びるサイクルを捨て、かつ、終焉を避けるには、
 “溜まった命のエネルギーを、新しい世界を産み出すために転化する”しかないのです。
 そして、この条件を満たしているのは“世界産み”しかありません
 失敗すれば、世界はすぐに終焉の刻を迎えることになりますが……』
 最後の言葉だけは、カケラも言い辛そうだった。
 何かを産みだす時、必ずリスクが付きまとう。“世界産み”も例外ではない、ということだ。
「カケラ、暗い顔をしちゃだめだよ。君はルシアにそんな顔をしてはいけないと言ったばかりじゃないか」
 カケラの暗い表情を見かねた鬼院 尋人(きいん・ひろと)がカケラの肩に手をぽんっと置いて、落ち着かせるように話しかけた。
 パートナーである呀 雷號(が・らいごう)は、俯きそうになっているカケラにチョコレートを手渡してやる。
『これは……』
「以前、食べただろう。少しくらい気が晴れれば、それでいい」
 雷號からチョコレートを受け取ると、カケラははむりと食した。
 ほどよいくちどけ、心を安らげるような香りが口内をほわりと包み、全ての人類を虜にしてやまない甘みが舌の上を駆け回る。
 それに抗えるはずもなく、カケラの頬は少しだけふにゅりとやわこくなった。
「……君が終焉を防ぐために動いているとしたら、オレは全力で守るから」
『ありがとう、ございまふ』
「どういたしまして。
 にしてもウゲン、体なくなっちゃったのかな……」
 その言葉にチョコレートを食べ終えたカケラが答える。
『ウケンの肉体は、残念ながら失われています……。
 肉体を失ったウゲンは、この身体に徐々に混じり合っていっています。

 ……元に戻す方法……彼のパートナーとなった地祇なら、あるいは』
「地祇、か……。あ、あと一つ。
 光条世界に、君を逃がした存在とか創造主を排除しようという考えがあるのかな?」
『私を逃がしてくれた人は……よく分からなかったのですが、こう、
 光輝く裸のおじさん……だったような気がします。
 創造主の一部であった私は、光条世界で彼を知っていたような気がして、でも、今はよく覚えていない……。
 私に協力してくれたということは、きっと私たちの敵ではないのでしょうが、味方だと断言することは、できません』
「ひ、光輝く裸のおじさん……!?
 それは、多分どの世界でも敵味方以前の前に、捕まえておいた方がいい外見だね……」
 『……そうですね』と言ったカケラが少しだけ震えた。思い出して怖くなったのだろうか。
 と、雷號がカケラの顔に触れようとする。
 しかし、それは前方から蠢くようにやってくる殺意を前にして止められた。
 敵の殺意を感じ取った各契約者達は迎撃体制に入る。