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【終焉の絆】滅びを望むもの

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【終焉の絆】滅びを望むもの

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大樹攻略作戦 4


 笠置 生駒(かさぎ・いこま)の操縦するジェファルコン特務仕様は上空を見上げる。
「数が多すぎる」
 地上での黒騎士の戦いは、概ね予想通りに展開しはじめていた。
 彼らの持つ盾は厄介ではあったが、万能ではない、立ち回りさえちゃんと心得ていれば対応する事はできる。
 だが、上空を、それこそ雲のように覆うフライオーガの群れは、当初の想定を大きく上回っていた。

『伊勢小破により後退します、援護を』
 そんな通信がミニュイ・プリマヴェールに入ってきたのは、戦いが開始されてから四十分ぐらい経過した頃だっただろうか。
「援護って言ってもぉ!」
 銃口が焼け付かないように、ウィッチクラフトライフルと機晶ブレード搭載型ライフルを交互に持ち替えながら、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は正面の敵編隊に向かって引き金を引く。
「突っ込んでくる、ワイヤーアンカーで、掴まってて!」
 ラディーチェ・アコニート(らでぃーちぇ・あこにーと)はアサルトライフルを乱射しながら向かってくるフライオーガ一体にアンカーを打ち込み、それを使って下を潜って背後に回りこむ。
「プロペラを狙うよ」
「うん!」
 プロペラを失ったフライオーガは、浮力を失って墜落していく。
 だが一息つく暇は無い。見渡す限り、フライオーガ、フライオーガ、フライオーガ、数えると頭が痛くなりそうだ。
 フライ、なんて呼び名がされるだけあって、前方の伊勢には大量に取り付き、その周囲を旋回しているのが見える。
「助けにいきたいけど」
「こっちも結構手一杯なんだよねぇ」
 ルドュテはウィッチクラフトライフルで、こちらに飛来してこようとするフライオーガ撃ち落していく。正面からなら二発から三発、プロペラを狙えれば一撃で撃墜できるようだ。
「ここまで航空戦力に力を入れてくるとは、想定外でしたね」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)の言葉に、清泉 北都(いずみ・ほくと)とは「そうだねぇ」と返す。
 元々戦艦は装甲もあるし自分を守るための対空装備だってしっかりある。それでも、この大群全てを押し返せないでいる。
 今の所は戦艦が彼らの標的らしく、最先端の伊勢がその標的になっているが、これが地上支援に回れば状況は一息に悪化するだろう。
 伊勢に対して、この二機はその後ろに配置されているが、伊勢だけではフライオーガの群れは止めきれず、かなりの数がこちらに向かってきており釘付けにされているのが現状だった。
 幸い、両機共に機動性は良好であり、フライオーガに遅れを取る事はなかったが、数が多い分油断はできない。
「次の部隊が来るよ」
「何か、奇妙な動きを―――」
 五体で編隊を組んだフライオーガが向かってくる、そのシルエットは、他のフライオーガよりも大きく、その分速度も遅い。
「亜種……じゃない、あいつらゴブリンを抱えてる!」
 ある程度接近してきたところで、フライオーガ達は抱えて運んできたバスターゴブリンを放り投げた。当然彼らには飛行能力なんて無い、無いのだが、空中でそれぞれロケット砲を構えて、こちらに向かって発射してきた。
「使い捨てのロケットランチャー?」
 白い煙を残しながら向かってくるロケット弾の雨をルドュテは回避する、と、その眼前にバスターゴブリンがあった。既にロケットランチャーに弾頭はついていない。
 が、突然至近距離で爆発が起こった。
「ぐあっ、機体の損傷は」
「センサーに異常。他の場所は―――問題ありません」
 爆発から逃れるように、ルドュテは大きく回避する。
 少し距離を取ると、何が起こったのかは一目瞭然だ。
「爆弾を取り込んだバスターゴブリンで爆撃に使ってるの?」
 ロケットランチャーで一撃を放ったあと、自分のタイミングでの自爆。随分と贅沢な歩兵の使い方だ。
「不味いですね」
 この戦いをウィスタリアのブリッジで観察していたアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)は呟く。
「あのような手段で攻撃され続ければ、伊勢といえど持ちません」
 フライオーガが、バスターゴブリン爆撃を行ってきたのは、一番の武器である近接攻撃ができないほどに伊勢の弾幕が濃いからだ。
「仕方ありません、荷電粒子砲発射準備開始。エネルギーライン全段直結、チャージ開始……前方の航空イコン部隊に退避、弾薬の余裕の無い機体はこちらで補給するように通達を」
 精鋭クルーに指示を出しつつ、アルマは正面の敵の動きを睨んだ。

「いらっしゃい、補給だけでいいかな?」
「センサーに異常があります、できるならその部分もお願いします」
「了解、ちょっと見せてもらうよ」
 ウィスタリアに着艦したルドュテを、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)はさっそく整備を開始した。
 言われた通りにセンサーが異常を発しているが、これならすぐに直せる。
「補給が終わるまでにはこっちも終わらせられる」
 機体を見上げている北都とクナイに、親指を立ててそう宣言し作業に取り掛かる。

「フィールドシェル安定、エネルギーバレル生成。チェンバー内、正常加圧中。エネルギーチャージ発射可能レベルへ到達……」

『間もなく荷電粒子砲が発射されます、各員衝撃に備えてください』
 館内放送を耳にしながら、桂輔は点検のためのハッチを閉じた。
「よし、こっちは終わった。そっちは―――よし、補給も完了、いつでもいけるぜ」
 そう伝えるや否や、ルドュテのパイロットはさっそく機体に乗り込み始めた。今は一分一秒ですら大事な時間なのだ。
「っと、発進するのは一発打ち終わってからな」
「わかってるよ。伊勢を後退させつつ、艦隊を前にせり出す、だよね?」
「そういうこと」
「センサーの調子は……問題ありませんね、ありがとう御座います」
「これぐらいなら朝飯前だって、それじゃ、俺は次のがあるから」
 桂輔はワイヤーを伝って機体から降りると、次の要整備機体へ駆ける。

「荷電粒子砲、発射します!」
 ウィスタリアの正面に、巨大な閃光が走る。
 エネルギーの奔流は、空中に展開していた多くのフライオーガを飲み込み、跡形も無く消し去った。
「道は開きました、搭載したイコンを随時発進させてください。ウィスタリアも前進、伊勢をカバーします。敵の攻撃が来る事が予想されます、対空警戒を怠らずに」
 たった今放った一撃は、相当数のフライオーガを巻き込んだはずだが、それでも敵に大打撃を与えたかというと、そう評価はできない。
 それでも、風穴は開いた。
 まずは伊勢を下げさせ、こちらの体勢を整えるのが優先だ。ウィスタリアも伊勢も、単艦で戦っているのではないのだから。