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地球に帰らせていただきますっ! ~2~

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地球に帰らせていただきますっ! ~2~
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リアクション

 
 
 
 ロンドンで年越し
 
 
 
 これ、とクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)の鼻先で得意げに振って見せたのは、空京上野間の新幹線のチケットだった。
「どうしたの、それ」
「運良く手に入れられたから。そろそろ故郷を見たいんじゃないかと思ってね」
 シャンバラに来て1年半以上が経っているからとクリストファーに言われ、クリスティーは拗ねた顔つきになる。
「キミだって実家に帰ってないのに、ボクだけ帰る訳にいかないよ。そもそも恥ずかしくて人格交換したと言えないのに、どうやって帰れと?」
 その言葉に、今度はクリストファーの方が機嫌を損ねた顔になる。
「俺の実家は同じ大陸だから、いつだって帰れるよ。それに恥ずかしいって、その身体が恥ずかしい存在だとでも言いたいの?」
「そんなこと思うわけないだろ」
 クリスティーは即答する。恥ずかしいのは女性として振る舞うことであって、この身体自身では無い。
 だけど、とクリスティーは逆にクリストファーに尋ねる。
「そう言うキミは家族に正直に言えるの?」
「正直にって言うと……」
 クリストファーは想像してみる。
『パパ、ママ。あたし男になっちゃった、うふっ♪』
 そう告白する自分を思い浮かべたクリストファーは、額にそっと手を当てた。
「……無理だね、ごめん」
「だろう?」
 素直に謝るクリストファーに、クリスティーは微苦笑を浮かべた。
 
 
 それでも、せっかく取ってくれたチケットだからと、クリスティーはクリストファーと共に地球行きの新幹線に乗った。
「そう言えば、契約前もこうやって長期休暇になると実家に帰ったなぁ」
 クリストファーはロンドン郊外のミッションスクールで寄宿舎生活を送っていて、長い休みになるとケントの農村地域にある実家に戻った。その頃のことを懐かしく話しはしたけれど、今回はさすがに家に帰る勇気は出ない。
 だから実家の方には向かわず、2人はクリスティーの案内でロンドン周辺を巡り歩いた。
「本当に帰らなくていいの? 俺が本物のふりをすればクリスティーとして君を紹介できるでしょ?」
 ここまで来たのだからとクリストファーは言ったが、クリスティは力無く首を振る。
「子供の頃の話とか教えきれないから、会話が怪しくなるよ。それにボクがクリストファーの癖をだして、キミが出さなかったら怪しがられるじゃない。逆に、怪しまれずにすんだら……」
 家族の誰も気づかずなかったら、それはそれでとてもショックなことだ。
「怖いんだね、ごめん。さ、次はどこを案内してくれるのかな?」
 クリストファーは殊更明るい声を出して、クリスティーに笑いかけた。
 
 ミッションスクール時代、クリストファーは休日をよくロンドンで過ごした。その足跡を辿るようにロンドンを観光した後、日付が変わる頃に人でごったがえしているビッグベンの前にやって来た。
 カウントダウンの文字が減ってゆくに連れ、それを読み上げる人々の声は多くなってゆく。
 そしてカウントが0になると、ビッグベンの鐘の音と共にロンドンの空に花火が弾けた。
 歓声と花火の音、まばゆいばかりの光。
 すべての物思いを忘れてしまいそうな光の花が空を埋め尽くす。
 最後は息も止まりそうな無数の花火が次々と打ち上げられ、付近を真っ白な光で押し包んだ後、ドン、とずしりと響く音が新年を祝う花火大会の終わりを告げる。
 生まれ変わったような気分でクリスティーは隣で空を見上げているクリストファーに笑いかけた。
「ハッピーニューイヤー」
 新しい年の始まりに、新しい一歩を踏み出そう。望む未来への一歩を。