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リアクション
屋上から見える空
せっかく地球に帰省したのだから、挨拶しておきたい場所はいろいろある。
父と母のお墓参り、お世話になったおじさんたちへの挨拶、普段はなかなか会えない地球の友だちのお喋り。
そんな地球での予定を終えたけれど、まだ新幹線の時間までには少しある。
「ちょっと寄り道しちゃおっか♪ この近くに、私が通ってた中学校があるんだよ」
楽しそうにそう言って、小高い丘を目指して歩き出した白銀 司(しろがね・つかさ)に、仕方ない、付き合ってやるかとセアト・ウィンダリア(せあと・うぃんだりあ)はついて行った。
冬休みの学校には誰の姿も見えない。
司は懐かしそうに校舎を眺めていたけれど、不意に窓に手をかけ……開けた。
「おい、何してるんだ」
驚く背後に、司はしっと口元に指を立てた。
「あんまり大きな声を出すと、宿直の先生が来ちゃうよ。……あのね後輩ちゃんに頼んで、お休み前に校舎の窓の鍵を1つ、開けておいてもらったんだ」
えい、とはずみをつけて司は窓によじ登り、ひらりと教室に入ってしまう。
「ってこれ、不法侵入だろッ!」
「しーっ、しーっ! 大丈夫、ちょっとだけだから、ね?」
「……どうなっても知らねえからな」
司を1人にしてはおけず、セアトも窓から校舎に侵入した。
「ふふっ、なんだか不思議だね」
足音を潜めて廊下を歩きながら、つい司は笑ってしまった。静かな校舎内をこうして歩いていると、探検でもしている気分になってくる。
階段まで来ると、それをどんどん上って行く。
突きあたりの屋上に出る扉まで来ると、司はノブをそっと回してみた。こちらも頼んであった通り後輩が鍵をはずしておいてくれたらしく、扉はギイと軋みながら開いた。
重い扉を開けて屋上に出る。
空気は冷たいけれど、よく晴れた日差しが気持ち良い。
司は屋上に寝転がった。
「セアトくんも寝転がってみない? 空気が澄んでて空がよく見えるし、気持ち良いよ」
司に言われ、セアトも屋上に寝ころんだ。
「確かによく見えるな……凍えそうに寒いが」
「セアトくんたら若さがないなあ」
司は笑って、空に向けて手を差しのばした。
「この学校に通ってた時は、よくこうやって空を見上げてたの。両親が死んで、引き取ってくれたおじさんたちは親切だったけど……心の何処かでいつも思ってた。ここは私の居場所じゃないんだって」
ここからは見えないけれど、この空の続く場所にパラミタがある。きっとあの場所が、自分が帰る場所なのだと。
「だからセアトくんが私の前に現れた時、やっぱりそうなんだって思ったの」
ただの偶然でも勘違いでも良い。
その時、司が感じた気持ちは本当なのだから。
「地球が嫌いなんじゃないの。ただ……あの場所なら私、飛べる気がするんだ。パラミタでなら」
司はぴょんと起きあがると、今度は両手を伸ばして飛ぶようなイメージでくるくると屋上を走り回った。
はしゃぐ司の様子をセアトは呆れ気味に見守る。
(っとにガキみたいなヤツだな……)
そんな司だから、屋上に来て泣いていたのかも知れない。はしゃいでいる様子を見ていると、セアトはそんな気がしてくる。
「おい、そんな回るとすっ転ぶぞ」
バランスを崩しかけた司をセアトが急いで支えた。
司はセアトににこりと笑いかけ、手を差し出す。
「帰ろっか、パラミタに!」
そろそろ上野駅に向かわなければと、司はセアトの手を引いて屋上を出た。
……と。
「君たち、何をしてるんだ」
階段を下りている所を見回りの教師に見つかってしまった。
「やっぱり見つかったじゃねーか!」
「セアトくん、走るよ!」
「ちょっと、待ちなさい!」
追いかけてくる教師を振り切ろうと、2人は全速力で駆け出した。