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こどもたちのおしょうがつ

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こどもたちのおしょうがつ
こどもたちのおしょうがつ こどもたちのおしょうがつ

リアクション


○     ○     ○


 ゼスタくんがお父さん役、ミルミちゃんがお母さん役をやっていたマシュマロハウスの中では、二人が出て行ったあとも、おままごとが続けられていた。
「めーどはあかちゃんのおせわもするのよ?」
 外見年齢4歳の、ののちゃん(高務 野々(たかつかさ・のの))が、びしぃっと、外見4歳のお兄ちゃん役のファビオくん(ファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ))を指差した。
「だから、ふぁびおはおやくごめんなの! さあしずかくん?をわたしなさい!」
「ふええーん、ふぎゃあああん」
「うるさくしないでよ、なきやまないじゃないか。よしよし、よしよし」
 ファビオくんは、泣いている外見1歳のしずかくん(桜井 静香(さくらい・しずか))を抱き上げて揺らしながらあやしていく。
「何がかなしいのですか? それともうれしいのですか? うれし泣きですわよねぇ」
 外見5歳のラズィーヤちゃん(ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー))も、しずかくんの頭をなでなでしてあげている。
 だけれどファビオくんがちょっと目を離したすきに、両手でしずかくんのほっぺを左右にむぎゅーっと伸ばしてみたり、変なポーズをさせてみたり、いじりまくりだった。
「ののは、おおきくなったら、らずぃーやちゃんのめいどになるの! だから、おままごとでもめーどがしたいの! ふぁびおはじゃまなの!」
 ののちゃんはしずかくんに手を伸ばして、ファビオくんから強引に奪おうとする。
「ふぎゃー、ふぎゃー、ふぎゃああ」
 しずかくんが激しく泣き出してしまう。
「だから、そういうことしたら、ダメだって。ののちゃんはらんぼうものだなあ。いっしょのばしょではたらけそうもないね」
「ふぁびおさまは、うちでやとってますのよ。なかよくしてくださいませ〜」
 ラズィーヤちゃんはそう言いながら、しずかくんの腕をぎゅっとねじったりする。
「ふぎゃーっ、ふぎゃーっ」
「うううっ、ふぁびおがせんばい!? すぐにやめるの! ふぁびおはちかのなかでも、きしのはしのなかでも、げすいどーでも、すきなところでくらせばいいの!」
「なんでめのかたきにするんだよ。ぼくのこときらい? ぼく、ののちゃんになにかわるいことした?」
「きらいじゃないけどきらいなの! らいばるだからっ。さあ、しずかくんをはなすのー!」
「そのまえに、わたくしにだっこさせてくださいませ〜。おねぇさんやくですわ」
 しずかくんを取り合う二人の腕から、ラズィーヤちゃんがひょいっとしずかくんのちっちゃな体をうばっていく。
「あ。らずぃーやちゃんにならいいの! ののはらずぃーやちゃんのめーどなんだから!」
 ののはぱっと手を離して、ラズィーヤの隣に移動する。メイドとして、すぐに手伝えるように。
「いじめたらダメだよ?」
 ファビオくんは心配そうな目で見守っている。
「へいきですわ〜」
 ラズィーヤちゃんはしずかくんを両腕でぐっと抱えて座り込んで、可愛らしい顔を見て嬉しそうな笑みを浮かべる。
「かわいいわらいがお、みたいですわ〜。うふふふ……」
 ラズィーヤちゃんは、しずかくんの喉をくすぐっていく。
「ふふふふぎゃー、ぎゃーぎゃー」
 しかししずかくんは泣き止まず、首を左右に振って抵抗する。
「ねぇねぇ、ちょっとそこのぐるぐる」
 マシュマロハウスに、くりくりした目をした丸顔の女の子が入ってきた。
 橘 舞(たちばな・まい)のパートナーの、外見4歳のブリジットちゃん(ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる))だ。
「次は私にだっこさせてよ」
「いやですわ。もうすこしこのこであそびますの」
「あそぶつもりなんだー。やっぱりこんじょーまがりの、しょーわるねぇ。その子が泣き止まないのはおそれていやがってるのよ」
 そして、ブリジットちゃんは、ラズィーヤちゃんの髪をくいっと引っ張った。
「さっさとわたさないと、そのぐるぐるのばして、ストレートにしちゃうから!」
「ひどいですわ」
「きっとワカメみたいになるよ。いやなら、渡しなさい」
 ぐいぐいブリジットちゃんはラズィーヤちゃんの髪をひっぱる。
「ののもめーどとしてゆるさないの!」
「いや、おんなのこたちはみんな……」
「ふぁびおはだまってるの! じゃーまー!!」
 ののちゃんは、えいえいっとファビオくんを押しやった。
「ああ……うばわれてしまいましたわ」
 その間に、しずかくんより縦ロールの無事を優先したラズィーヤちゃんは、しずかくんをブリジットちゃんに奪われてしまう。
「たかいたかい〜」
 ブリジットちゃんはしずかくんをよいしょっともちあげる。
 子供の腕力ではかなり大変だったけれど、泣き止ませるには、これが一番いいって、父親から聞いていたから。
「ほぉら、ぼうや、わるい人の手からかいほうしてあげたわよ」
「あぶー。あううー」
 しずかくんは泣き止んできょとんとした表情に変わっていく。それからちょっと笑みを浮かべた。
「あら、かわいいじゃない」
 ブリジットちゃんはしずかくんのほっぺをぷにぷにして、頬擦りして、最後にほっぺにチューしてから、お兄ちゃん役のファビオくんにしずかくんを返す。
「はい、もう泣かせちゃダメよ」
「うん。女の子たちがいたずらしなきゃ、なかないんだ……」
 ファビオくんは大きくため息をついた。
「なんでふぁびおなの。のの、らずぃーやちゃんのめーどなのに! ののがおせわするのー」
「なきがおが、かわいいんですの」
 ののちゃんとラズィーヤちゃんがすぐにファビオくんに飛び掛かって、しずかくんを奪おうとする。
「やっぱりしょーわるだわ。ぜんしんからじゃあくなオーラが立ち上がってるし」
 ブリジットちゃんは大きくため息をついた。
 でも、姉弟ってこんなカンジなのかなあとも思う。ブリジットちゃんには弟がいないから。
 そしてまた、赤ちゃんの泣き声が響き渡る。
「もー、いいかげんにしてってばーっ」
 ファビオくんの嘆きも止まらない。
「少し早いけれど、おやつにするか」
 そんなマシュマロハウスに、突如甘い匂いが流れ込んできた。
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)が手作りのおやつを持って現れたのだ。
 紫音は子供化しておらず、服装は日本の正月を感じさせる狩衣だ。
「のの、はこぶの!」
 紫音が配るより早く、ののちゃんがおやつの入った箱をがしっと掴む。
 メイドとしてみんなに配りたいらしい。
「それじゃ、こっちは任せるよ」
 紫音は真剣な表情のののちゃんに熱くはない食べ物を任せて、自分は保温器に入れてきたお汁粉やあんまんを取り出していく。
「らずぃーやちゃんどうぞ〜」
 早速、ののちゃんは箱からスイートポテトを取り出して、ラズィーヤつあmmに渡した。
「なかなかのおあじですわ」
 一口食べたラズィーヤちゃんは満足そうだった。
「これもこれもこれもどうぞ〜」
 それから、ののちゃんはかぼちゃのスフレや、せんざいもラズィーヤちゃんに渡していく。
「こんなにたべられませんわ。いっしょにたべましょう」
「ええっ、めーどはごしゅじんといっしょにたべたりしないの……っ」
 そう言いはするが、ののちゃんのお腹はぎゅるーと鳴ってしまう。
「こっちもどうぞ。あたたかいよ」
 ファビオくんが紫音からもらったあんまんを女の子達に差し出す。
「ふぁびおのほどこしはうけないの! で、でもっこれはとくべつなの!」
 ののちゃんはつっかえそうとしたが、ほかほかでおいしそうなあんまんの誘惑に勝てず、紙に包まれたあんまんを1個うけとって、両手で包み込んだ。
 ほわりと顔に笑みが浮かぶ。
「みんな仲良く、な」
 紫音も笑みを浮かべながら、子供達に温かなお汁粉を配っていく。
「ふふ……よいこよいこ」
 ブリジットちゃんは、しずかくんを連れて隅の方に避難して、しずかくんの頭を撫でてあげている。
 しずかくんの顔にも、笑顔が浮かんでいた。

「みーみ、みーみちゃん、あゆこわい」
「え?」
 マシュマロハウスから出ていたミルミちゃんが、振り向いた途端。とてとてと近づいた小さな女の子が、むぎゅぅぅと抱き着いてくる。
「アルちゃん? どうしたの?」
 その子が、外見4歳のアルちゃん(牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ))であることが、ミルミちゃんにはすぐに分かった。
「かくえんぼじゃないの。でも、かくえてたの。こわいの、こわいよ……」
 アルちゃんは小刻みに震えていた。
「こわいよ、こわい……みーみちゃん、まもってぇ……」
 遊んでいる子供達の声に震えて、アルちゃんはミルミちゃんにしがみつく。
「どしたの? こわいひといないよ? えっとえっと……」
 ミルミちゃんはアルちゃんをマシュマロハウスの後ろに連れて行った。
「ここなら、みんなからもみえないよ。だいじょうぶ、だいじょうぶ。んと……なにがこわいのか、ミルミにはなしてみて?」
 どうしたらいいのかわからないながらも、ミルミちゃんはアルちゃんの手をぎゅっと握りしめてあげた。
「おそとこわい、そういうの『せかい』っていうのしってう」
「おそとがこわいの?」
 アルちゃんは首を左右に振った。
「『せかい』がこわいの。はくばのおーじさまもこないことしってうの。ともだちひゃくにんつくりたくても、なかよくなえないひとだっていうの。あゆがみんなをすきになろうとしたってだめなの」
 目に涙をためながら、アルちゃんはミルミちゃんにしがみつく。
「うぐ……うぇぇぇっ……こわい……ぅぅ、みーみちゃぁん……ぐすっ」
「うん……そうだね、そうかも、ね……うん」
 つられて、ミルミちゃんの目にも涙が浮かんでいく。
 ぎゅっと抱きしめ合いながら、怖い怖いと言いながら。
 いつの間にか、2人は一緒に泣いていた。
 小さな心を混じり合せて泣いていた。
 ミルミは、泣いている自分をいつも守ってくれた。
 自分がわがままなこと、解っている。
 泣き虫な――心の中で泣きじゃくっている自分を、守ってくれた人。
 ぎゅっと抱きしめながら、アルちゃんはミルミちゃんのことを思い出していく。
「うにゅ……いつまでもないてちゃだめだよね……」
 アルちゃんは体を起こして、涙をぬぐった。
 そして、笑顔を見せる。
「あゆ、つおい子だよねっ?」
 心に痛みを感じているけれど、いつものように笑えていた。
「アルちゃん……」
 ミルミちゃんは笑っていなかった。
「おし、はくばのぶぎょーさまみたいに、がんばるぞ」
 拳を握りしめたアルちゃんに、ミルミちゃんは……悲しげな目で、涙をぽたりと落として。
 それから、笑みを見せた。
「うん、つおい子、つおい子」
 ミルミちゃんがそう言うと、アルちゃんは刀を振るポーズをする。
「あゆのなまえがいんどうがありだ! おまえらまとめてじごくにおちやがえぇー!!」
 そう言って、アルちゃんは悪ガキ達の方に駆けていった。いつも通りの強い子になって。
 ……それから、ミルミちゃんは、一人でマシュマロハウスの後ろでうずくまって。
「……くっ……う……っ。ミルミ……なんにもわかって、なかったね……」
 声を押し殺して、泣いていた。何故だかわからないのに泣いていた。