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第24章 サイクリング♪

「壱与様が一人で出かけてしもうた」
 その日、自室で清良川 エリス(きよらかわ・えりす)はおろおろとしていた。
「お、お弁当はいらへんかったんやろか」
 部屋の中をうろうろしていたエリスは、はっと気づく。
 いつもおいてある場所に、あるべきものがない。
「はぅっ!? い、壱与様うちの財布持ってってしもうたん?」

○     ○     ○


 エリスのパートナーの壱与(邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ))は、友人のリーア・エルレンを誘って、空京を訪れていた。
 空京までサイクリングといきたいところだったけれど、距離を考えると持ち運ぶのも大変なので、現地で自転車を借りることにした。
 壱与は徒歩ではなく、今回は自転車での移動を強く希望した。2人乗りで楽しみたかった。
「うーん、気持ちいい。運転上手ね、壱与」
「お世辞でも嬉しいですーーー」
 運転する壱与は必死だった。
 身長も体重も低いのに、乗っているのはママチャリ。
 後ろに乗せているリーアも、成人女性よりは軽いけれど、1kgの米よりずっと重いから。
 それでも何とか、目的の場所――ホワイトデー大感謝祭が行われている通りへと無事到着を果たす。
「ほわいとでい……おそらく意識が刈り取られまっさらとなる恐ろしい儀式に違いありません」
「ん?」
「決して、儀式には近づかないように。わたくしの傍を離れてはなりません」
 と言いながら、壱与の方がびくびくとリーアの腕にしがみついた。
 壱与は味の濃いものが苦手だ。バレンタインに刺激物――チョコレートを食べさせられて、舌がしびれるわ鼻血は止まらなくなるわと、恐ろしい目に遭ったために、バレンタインは勿論、ホワイトデーも悪乗りの恐ろしい祭りのような認識をしていた。
「あ、あくまで買い物に来たのでございますよ?」
「うん、ここで地球のお菓子が沢山売られてるって話だったから、来てみたかったのよね。大丈夫、壱与に食べさせたりしないから」
 笑いながら、リーアは壱与を引っ張って、お菓子が売られている店へと入っていくのだった。

「最近こちらが欲しいのでございます、何でも古代エジプトのごにょごにょ」
 次第に壱与も落ち着きを取り戻し、地球の占い用具や、本を買いあさり始める。
「地球の占いって奥が深いのね……。パラミタにも色々種類はあるけどね」
「こちらはアステカのごにょごにょ」
 リーアの腕を引っ張り、壱与は古代の占いや、マニアックな占いについて熱心に説明をしていく。
 マニアック過ぎてリーアはついていけてなかったが、彼女にも興味のある分野なので、決してつまらなそうではなかった。
 何よりも、親しい友達と一緒なので、互いにそれだけで嬉しかった。

 リーアはお菓子や薬剤が沢山入った袋を。
 壱与は占い道具や本が詰め込まれた袋をそれぞれ抱えて、夕方には空京を発つことにした。
「帰る前に、抽選やっていかない?」
 リーアが抽選券をひらひらと揺らす。
「抽選……そういえば、わたくしもそのような紙を戴きました、が……」
 壱与は少し青くなる。
 それこそホワイトデーという儀式の参加チケットなのではないかと。
「それじゃ、いこいこ!」
「あ、お待ちください、リーア」
 壱与は慌ててリーアの後を追う。恐ろしい儀式に、大切な友達を一人で行かせるわけにはいかないのだ。
「当てるわよー。レストランがいいー!!」
 会場で、さっそくリーアはガラガラのハンドルと掴んで、回していく。
 しかし、出てきた玉は、白。5等だった。
「残念……。それじゃ、壱与頑張って」
 ぽんとリーアが壱与の背を叩く。
「これは……福引でございますね」
 見慣れた道具に、壱与はほっとしながら、券を係員に渡してハンドルを回していく。
 コロン。
 落ちてきた玉の色は――。
「青でございますね」
「おめでとうございます。3等です!」
 係員から、渡されたのは可愛らしいパジャマだった。
「お揃いでございます」
「泊りで出かける時なんかに、来てみたいわね」
「ええ。でも、レストランではなく、申し訳ございません」
「食事は自費で行けばいいし。でも、このパジャマはこの抽選でしか手に入らなかったと思うわよ」
「そうでございますね」
 そして、壱与とリーアは微笑み合って、とめてある自転車の所まで歩いた。
 荷物が多かったので、帰りの運転はもっとふらふらしてしまったけれど。
 それも含めて、楽しい1日だった。