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第36章 誓いを

「さて、思い切り遊んでいいぞぉぉぉ!」
 ヴァイシャリーの公園でふんぞり返っているのは、セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)だ。
 ボディガード達は、公園の出入り口で警護をしており、公園の中にいるのは、セレスティアーナと、彼女の命の恩人でもあるイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)だけだった。
「遊ぶと言っても……」
 この公園に大人の遊べる遊具はない。
 遊び道具も持っていないし、まさかじゃんけんやしりとりをして遊ぼうというわけでもないだろうと、イーオンは面食らった。
「用事があっての誘いではないのか?」
 イーオンはセレスティアーナに問う。
 今日は彼女からの誘いで、イーオンはヴァイシャリーを訪れていた。
 買い物かなにかの護衛かと思ったが、セレスティアーナは店には目を向けず、まっすぐこの公園へとイーオンを連れてきたのだ。
「いや、地球人はこのようなところで、わきゃわきゃ遊ぶのだろう! 砂遊びをするか? 滑り台をするか〜。付き合ってやるぞおー!」
 言いながら、セレスティアーナは子供用の滑り台の方へと駆けて行った。
 イーオンもすぐに後を追う。
 その滑り台は、子供と一緒に、大人も滑れるような幅のある滑り台だった。
「さて、滑ろうか」
 セレスティアーナは後ろ向きになり、足から滑り降りようとする。
「その下り方は危険だ」
 すぐにイーオンは彼女を抱き上げて、正しい方向を向かせる。
「こっち向きの方が危険じゃないのか? ゆっくり降りることも出来ないぞ」
「それは……足で、ブレーキをかけるなどという方法もあるかと思うが……それ以前に、スカートではその、別の意味で危険かもしれんな」
「めくれてしまいそうだしな」
 少し赤くなるセレスティアーナを座らせて、その後ろにイーオンも座る。
「一緒にゆっくりおりよう」
 くすりと笑みを浮かべて、セレスティアーナを後ろから抱きしめる形で、彼女と共に降りることにした。
 怖がらせないようにゆっくりと。
 だけれどほんのわずかな時間で、2人は砂場へと到着する。
「ふむ、滑り台とは、なかなか危険な遊びのようだな。では、砂遊びをするか? ままごとをしてみるか?」
「したいのか?」
「いや、貴様の遊びに付き合ってやるというのだ!」
 何時も通りではあるが、セレスティアーナはなんだか偉そうだった。
「ホワイトデーはお礼をする日のようだからな」
 その言葉に、なるほどと、イーオンは気付く。
 彼女は彼女なりに、イーオンを楽しませようとしているようだ。
 ネットか何かで、公園で楽しそうに遊ぶ子供達の様子でも見たのだろう。
「では、砂山を作らないか? どちらが大きな山を作れるか勝負といこう」
「勝負か、私に敵う者などいないのだよ。はーっはあああっ」
 笑い声を上げながら、セレスティアーナはさっそく砂山を作り始める。
 彼女をほほえましげに見つめながら、イーオンも砂山に取り掛かることにした。

「やっぱり、私の勝利だったな。……しかし、ううむ、今回は私は勝つべきではなかったかも……ううむ」
 セレスティアーナは顎に手を当てて考えている。
「遊びの勝敗は重要ではない。どれだけ楽しめたかだ。俺はとても楽しかった」
「それなら良いのだ。はーっはっはっは!」
「手を洗おうか」
 イーオンはセレスティアーナと共に、水で手を洗った後。
 公園の中を彼女と共に歩くことにした。
 こうして彼女と一緒にいると、深い眉間の皺がいつの間にかほぐれている。
 染み渡るような安心があり……もどかしい焦りもある。
(愛とは与えるものだ。見返りを求めることは浅ましいと理解している――)
 蝶々を追いかけはじめるセレスティアーナにイーオンは目を向けて。
 彼女に危険がないよう、追いながら思う。
 代王たる彼女を支えたい。
 彼女の声が一つあったのなら、自分は敵が神であろうと、道を譲ることはしないと誓える。
「遠くへ行ってしまったのだ」
 セレスティアーナが、イーオンに笑みを見せる。
 イーオンも彼女に微笑みかけながら、ゆっくりと問いかける……。
「セレスティアーナ、キミには俺がどう見える?」
「む? 地球人に見えるぞ」
「そうか」
 軽く吹き出して、イーオンは彼女と共に公園の入り口まで歩いた。
 もうすぐお別れの時間だ。

「セレスティアーナ」
 ボディガードの姿が見える寸前。
 イーオンはセレスティアーナの前に出て、接近し。
 彼女の目をまっすぐに見つめた。
 そして……。
 ゆっくりと手を伸ばして彼女の細い体を包み込む。
「な、何をするのだああああ! 滑り台はここにはないのだぞ」
 セレスティアーナはビクリと震えた。
 だけど、抵抗はしてこなかった。振りほどこうとは、しない。
 イーオンを信頼しているから。
「キミの傍を、俺に許してくれ」
「傍にいるのは、構わないのだ。けど、ここここここういうのはここここまるのだ!」
 イーオンは小さく息をついて、弱く微笑みながら、体を起こした。
「この距離を、キミが許してくれるのなら、代わりに誓おう。一生護ると」
「一生……あ、当たり前なのだ。私は代王だからな!」
 真っ赤に染まった顔を、セレスティアーナは背けて胸の前で腕を組んだ。
 今はまだ、告白をしても彼女に受け入れてもらえはしないだろう。
 それでも、イーオンの想いは変わらない。
「ありがとう」
 笑顔を浮かべて、礼をいう。
「う、うむ。なんだかわからないが、礼は受け取っておく」
「じゃ、また近いうちに」
「おお、またな」
 セレスティアーナは真っ赤に染まった顔を、ちらりとイーオンに向けた後、ボディガード達の元に、駆けて行った。
 いつでも駆け寄れるように、音を立てずにイーオンは彼女を追う。
 彼女が安全な場所に到着するまで――そっと護り続ける。