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第31章 薔薇のお茶会

 薔薇の学舎内のサンルームを借りて、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)とパートナーのリュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)は、ささやかなお茶会を開いていた。
 客は、ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)と、ラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)だけだ。
 丸テーブルには真っ白なクロス。
 花瓶には蒼い薔薇。
 茶器はリモージュの白地に蒼薔薇だった。
「お忙しいところ、お越しいただきありがとうございます」
 紅茶を注ぎながら、エメはジェイダスに礼を言う。
 薔薇学も今、決して平和とは言えない状況だ。
 ジェイダスもラドゥも心身ともに疲れているはずだか、彼らはそのようなことを口に出すことはなかった。
 せめて少しの間だけでも、憂いさを忘れ、寛いで楽しんでもらえたらと思い、エメは彼等を招待したのだ。
 彼等が疲れを語らないように、エメも心遣いを口にすることはなく、準備を進めていく。
「お口に合うといいのですが」
 茶菓子はプティフール――小さな焼き菓子を中心としたお菓子だった。
 全てエメの手作りだ。
「美しい出来だ。この会場も、シンプルではあるがそこが美しい」
 言って、ジェイダスが菓子を一つ、口に運びエメを見て頷いた。
「ありがとうございます」
 エメは恭しく頭を下げる。
「どうぞ」
 ラドゥへは、リュミエールがお茶を入れた。
 まずは先月と同じ、砂糖なしのアールグレイだ。
「ふん」
 ラドゥは不機嫌そうに鼻を鳴らし、腕を組む。
「ええと」
 リュミエールはラドゥに近づいて、微笑みかける。
「校長のついでじゃないよ。貴方は主賓。来てくれてありがとう」
「貴様に感謝されても、嬉しくもない」
「僕からの感謝で喜んでもらいたかったわけじゃないから、それはいいだけど」
 リュミエールは自分のカップにもアールグレイを注ぎ、ラドゥの隣に腰かける。
「貴様、じゃなくて、僕はリュミエール・ミエル。是非名前で呼んでほしいな」
「ばかばかしい」
 しかし、リュミエールのお願いは軽く拒否されてしまう。
 とはいえ、ぷいっと顔をそむけたラドゥの表情から、本当に嫌なけではないことくらいは、読み取れた。
「後ね、修学旅行の時に『愚弄する気か』って言ってたけど、本気で綺麗な人だと思ってるんだよ」
「当たり前のことを、わざわざ口にするな。皮肉にしか聞こえん」
 そう、厳しさと、僅かな照れが含まれる目で、ラドゥはリュミエールを見た。
「あ、やっと僕を見てくれたね。……あのね、ありがとう」
 微笑むリュミエールをラドゥは不審そうに見る。
「僕がここで学生生活できてるの、もとをただせば貴方のおかげだから」
 個人的に世話になったわけではないが、薔薇の学舎は地球人排斥の機運が高いタシガンにある。
 設立に至ったことも、安全に暮らせていることも、ラドゥの存在があってのことだと思われた。
「お前の為に何かをした覚えはない」
 言いながら、ラドゥはエメが作ったプティフールに手を伸ばして、一つ自分の口へと運んだ。
 まだ名前は呼んでもらえなかったが。
(今日は貴様以外の呼び方をしてもらえた?)
 などと思いながら、リュミエールもラドゥと同じ菓子を手に取って食べ始めた。
「好みを知りたくて、真似させてもらってるんだ。できれば……そうだな」
 菓子を口に運んだ指を、自分の唇に当てたまま、リュミエールはこう続ける。
「いつかスティック菓子のゲームに応じてもらえるくらい、仲良くなりたいな」
「くだらん」
 その言葉からは、冷たさも拒絶も感じられなかった。

「一緒にこちらも、戴かせてください」
 エメは天馬のお返しとして、ジェイダスからもらった、ジェイダス手製のクッキーを取り出して、皿に並べていく。
 それから自分自身も席について、一緒に茶とお菓子を楽しんでいく。
「このクッキーとても美味しいです。もしかして、校長もお菓子作りが趣味なのでしょうか?」
「趣味というほどではないが、嗜んではいる」
 エメが作り方を尋ねると、素材や手順など、細かに教えてくれた。
 クッキーに合った高級な材料を用いて、丁寧に作られたものらしい。
「なかなか構ってあげる機会がないのだが、貰った天馬、元気にしているよ」
 エメと同じような穏やかな笑みを、ジェイダスが向けてきた。
「それは良かったです。いつか、校長と一緒に飛ぶことが出来たら光栄です。天馬に乗っての飛行は、飛空艇とは違う良さを感じます」
「そうかもしれんな。特に、エメ・シェンノート。おまえが天馬に乗り、空を駆ける姿は絵になろうだろう」
 サンルームには暖かい陽射しが差し込んでいる。
 自然にエメとジェイダスの目は青い空へと向けられた。
 澄んだ空を、ペガサスで優雅に飛ぶ互いを思い浮かべる。