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春が来て、花が咲いたら。

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春が来て、花が咲いたら。
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20


 ついにこの時がやってきた。
 その名もあみだくじバーベキュー。
 内容としては闇鍋に近く、各家庭から一種類だけ食材を持ってきてもらい、それをバーベキューして食べるというもの。
 ただし誰がどれを食べるのかは、名前の通りあみだくじで決める。
 家族全員で食べてもいいし、誰か代表が一人食べるでもいいがお残しは御法度。
 また、『食……材……?』というようなものがあったとしても、人体に害はない(であろう)ものなら見て見ぬふりといった、かなりサバイバルなものである。
 なお持ち寄った物は。
 ミレイユ一家からマシュマロ。
 ケイラ一家からじゃがいも。
 セルマ一家からラム肉。
 オルフェリア一家から生魚(紅鮭)。
 氷雨一家からデローン丼。
 大地一家からイナテミスファーム産パラミタ牛の肉(ステーキ用)。
 そして、レン一家とウィルネスト一家がみかんである。
「なんでかぶってやがるんですー」
「……すまん、まさかかぶるとは」
 ぶー、と文句を言うシルヴィットに、レンが謝った。
「こういうこともあるよ。それよりまずは焼こっか? ワタシおなかすいたよー」
 ミレイユが間に入って取りなし、バーベキューセットに火をつけることを提案。
「Pudding rather than praise……ハハッ、何処の国でも、似たよーなもんだなァ?」
 木の上に居たウィルネストが降りてきて、花より団子だと笑った。
「あっウィル! どこいってやがったですかー準備もサボって!」
 ウィルネストの服を引っ張り、シルヴィット。
「少しは手伝えってんです、まったくもー」
「手伝うって火ィつけりゃいいのか?」
 しゃーねーな、と言いつつもウィルネストが魔術を詠唱。
「えっちょ、ウィルさん待っ……!」
 ケイラが止めに入ろうとしたが、時すでに遅し。
 最大火力のファイヤストームが発動した。
 加えて、シルヴィットがサラダ油をそばに置いてあったため、火の勢いは凄まじく。
「ち、鎮火! 誰か鎮火ー!」
「誰か氷術!!」
「ロ、ロレッタができるぞ!!」
「はーい、シルヴィもお手伝いしますですよー」
「私もだ! マラッタ、貴様も使えるだろう手伝え!」
「わかった」
 ロレッタ、シルヴィット、ドゥムカ、マラッタの四人で協力し、氷術発動。
 無事に鎮火し、他の花見客や桜に影響はなかったものの。
「……一部食材がこんがりに……」
 被害はそこそこあった。
「デローン丼の匂いがヤバいぞ……」
「火に掛けるようなものじゃないからねーでもきっと大丈夫だよ☆」
 レンがこんがり焼かれたデローン丼を見て呟くと、氷雨がにこっと笑ってフォローになっていないフォローを飛ばす。
 それから数人の視線が、発端であるウィルネストに向かった。ウィルネストは、「え? えっ?」と困惑気味である。
「何? コレを期待してたんだろ? 違うの?」
「普通でよかったんだよね〜。大きな火で面白かったけどさ〜」
 けらけらとルイーゼが笑う。
「ンなこと今更言われてもよー……」
 ばつが悪そうに頭を掻いて、ウィルネスト。
「まあまあ。無事な食材も多いんですし問題ないですよ。続けましょう? あみだもできましたし」
 にっこり笑って大地がフォローを入れた。あみだが書かれた白い紙。引かれた八本の線。食材部分が折られているため、何に繋がっているかはわからない。
 それぞれが一つ線を選び、あとは辿って行くだけとなった。
「ワタシたちは……みかんだね」
 ミレイユ一家が引いたのは、レン一家が持ってきたみかんだ。ファイアストームの犠牲になりはしたものの、焦げて駄目になったわけでもなく、むしろ丁度良い具合に炙られていて。
「うまうま」
「焼けてないのも普通にデザートって感じで美味しいよねぇ〜」
「ロレッタ、みかん嫌いじゃないぞ」
 甘みが増して、いい感じだ。
「順当に当たりだったね。自分たちは……」
 続いてケイラ一家が引いたのは、
「魚だ」
 オルフェリア一家……というか御影が持ってきた大量の魚だった。
「こっちもいい具合に炙られてるね。美味しいー」
「ああ。美味だな」
「中々だな」
 こちらも無事、当たり。
「俺たちは……じゃがいもだ」
 セルマ一家が引き当てたのは、ケイラ一家の持ってきたじゃがいも。
 こちらはまだ焼けていなかったので、アルミホイルで包んで焼いてみた。今度こそ火加減は調節されていて、焦げたりすることもなく美味しそうに蒸し上がった。
「バターやお好みの調味料でどうぞ」
 ケイラの言葉に、バターを付けて食べてみる。ほくほくのじゃがバターだ。
「めー♪」
「あらびき黒胡椒でお酒のお供もいけるわ……美味しい」
 メリシェルもシャオも堪能し。
 当たりを消化すること三家族目である。
 とはいえ外れらしい外れなんてデローン丼しかなく、誰がそれに当たるかのみに戦々恐々しているのだが。
「オルフェたちは……きゃあっ、ステーキさんなのですよー♪」
 オルフェリア一家が引き当てたのは大当たりで、大地一家が持ってきた牛肉。
 こちらも少し炙り、表面を削っていただいたり、普通にステーキとして食べたり。
「セルマさんも食べませんかー?」
「いいの?」
「はいですよ♪ あーんです♪」
 いちゃつきつつも、大当たり消化。
「で、俺らは……マシュマロか」
「ワタシが持ってきたやつだね」
 ウィルネスト一家が引いたものは、ミレイユ一家の持ってきたマシュマロ。
 串に刺して火で炙る。
「マシュマロに顔が描いてあるようなやつじゃなくて良かったよなァ」
「そんなのあるの?」
「あるある。グロいぜー? 顔がドロッて溶けるから」
「食べてる時にそういう話はやめてほしいんですけどー。情緒のない野郎ですねー」
 ともあれ、こちらも美味しく頂いて。
 残すところあと三組。
「俺は……」
 レンがあみだを辿る。
「…………」
 沈黙。
「まさか」
「デローン……?」
 周りの面々がひそひそと囁く中。
「……みかんだ」
 レンは言った。
 みかん。
 それは、レンが持ってきたもの。
「まさか自分で持ってきたものを引くとはな」
 一応、自分たちが持ってきたものではなく、ウィルネスト一家が持ってきたものだったが同じ品物には変わりない。
 苦笑いしつつも食す。少々焦げていて苦かったが、食べられないわけじゃないし、美味だ。
「あとは……俺と氷雨さんですか」
「だね! 残ってるのはデローン丼とラム肉か……目指せラム肉ー!」
 大地と氷雨があみだを辿った。
 結果。
「俺の家はラム肉ですね」
「デローンきちゃった!?」
 大地一家がセルマ一家の持ってきたラム肉を美味しく戴こうとする横で。
 デローンとの死闘が始まった。
「デローーー」
 謎の鳴き声が響き渡る。その声はデローン丼が発していた。
「生きてるのかよ!」
 思わずベリルが叫ぶ。
「ベリル! 止めて! ていうか犠牲になって!」
「犠牲ってなんだよオイ! 第一オレは持って行くなつっただろ!」
 ぎゃあぎゃあとやり取りを交わす中、デローン丼が向かっていったのは――
「俺様!?」
 美味しくステーキを食べている最中の奏戯だった。
「デロちゃんの恋人だから、何か惹かれ合ったのかも知れないね」
「感心してる場合じゃねーだろ。止めろよ」
「はーい。デローンくーん! 待って待って、その人は敵じゃないよ! ていうかここに敵なんていないから!」
 そうは言ってもデローン丼は止まらない。大ハッスルで奏戯に猛アタックを仕掛けていた。
「ちょっ痛っ俺様さっきちーちゃんにやられた傷もあっ痛ったたた助けてっ」
「ふえっ!?」
 手を伸ばした先に居たのは、ラム肉を食べている真っ最中の薄青 諒(うすあお・まこと)だった。ひどく驚いた声を出し、どうすればいいのだろうかとおろおろしている。
「あのあのっ、え、えっとっ……」
 助けたほうが良いとは思っているらしい。
 けれど、自分一人ではどうにもできないと動けずにいるようだ。
「デローン君は食べ物なんだから大人しくしなさいっ! 瘴気を移そうとしないーっ!」
「「瘴気!?」」
 奏戯と諒が同時にぎょっとした声を出す。
「だーめーだーよーっ! 純銀以外溶かしちゃうんだよ、デローン君の瘴気は! ほら大人しくするーっ!」
「ちょ、あ、だめっ瘴気とかっうわ、うわあぁぁああぁあ……!!」
「えっ待っ、僕も!? きゃっ、きゃおおおおおおん……!」


 そんな、周りの花見客がドン引きしたり、パフォーマンスと思われ「いいぞもっとやれー」などの声が飛ばされる中。
 バーベキューは、まだまだ続く。
 なお、デローンの悲劇に見舞われたのは奏戯と諒だけで済んだらしい。
 それが最小限の被害だった幸いだったととるか、楽しい花見の席で被害が出た不幸ととるかは参加者次第だったという。