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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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 第11章 美少女戦隊ヒーロー見参っ!

 所変わって、公園の入口付近では綺雲 菜織(あやくも・なおり)有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)と一緒に緋山 政敏(ひやま・まさとし)リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)を待っていた。菜織の機嫌はあまりよろしくない。それというのも、リーンから政敏について『ヤツは体を売った』と伝えられていたからである。
 おかげで。
(むーん、緋山君。アクア君に報酬未払いで体を売ったとか……)
 と、完全な誤解を招いてしまっている。
 まあ実際に、依頼と称して連れて行った過去のアクアの家とも呼べる場所で、政敏は報酬に関し『体で払おうか』と言っているのだが。しかし、その真の意味は契約をしようかということであり、いかがわしい成分は全く無いし事実に関してはもっと無い。
 不機嫌丸出しの菜織を見ながら、やれやれ、と美幸は思う。
(リーンお姉さまも人が悪いです。アレの体が売れる訳がないじゃないですか。あの役立たずのごく潰しが)
 政敏をアレ呼ばわりだ。美幸は、大事な菜織にちょっかいをかける政敏が大嫌いなのだ。そして事実、リーンはこういった状況になることを意図して『体を売った』と言っていて、彼女の想像はきっちりと的を射ていたりする。
(菜織様も彼の事になると冷静な判断が……)
 そんな事を考えていたら、前方から政敏とリーンが歩いてきた。先に来て待っていた彼女達に、政敏はあれ? という顔をする。
(? 何故、美幸ちゃんが居るんだろう。しかも……)
 あれから数ヶ月、アクアが来るなら彼女の近況を知るためにも、と来てみたのだが。
「……菜織さんは何故、怒ってんの?」
 そう言ってみたら、ぎろりと睨まれた。
「…………」
 ……今日は、逆らわない方がイイキガスル。

「居たであります!」
 テクノコンピューターに表示された公園の地図を参照し、防衛計画を使った揚羽蝶仮面が行動を予測してむきプリ君を見つけ出した。襲撃を予測……というよりは、この場合、人の多そうな場所に移動していくヨコシマ予測と言えるかもしれない。
「よーし、行くろーっ!」
 和服バージョンの月光蝶仮面を筆頭に、撲殺少女カリンちゃんとなったブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)、光の美少女戦士ファーシーライトと機晶犬クラン――
「待へっ! 怪人筋肉ダルマ!!」
「むっ!? お前達はいつぞやの……!!」
 骨がばっきぼきになってからの対面ではあったが、むきプリ君はきちんと月光蝶仮面達の事を覚えていた。あの時との共通点は仮面だけだったりしたが、自分を筋肉ダルマなどと呼ぶのはやつらしかいない! て……
「2人ほど知らんやつがいるな……、誰だ!!」
「撲殺少女カリンちゃんだぜ!」
「氷の美少女戦士アクアプリザドれす! 怪人筋肉ダルマ、かくごしなさい!」
 ――なりきっている。よっっっ……っぽど幽霊が嫌らしい。しかも何気にネーミングがファーシーとお揃いだ。
「む? お前機晶姫だな、どこかで……」
「だまりなさい!」
 本名を言わせてなるものか、とアクアプリザドはプリザ……じゃなくてアルティマトゥーレを放つ。バイト斡旋の際に、彼女は一度むきプリ君とご対面しているのだ。断ったが。
「ぐわっ!」
 そこですかさず、機晶犬クランがむきプリ君の股間にスーパーアタックした。
「! ! ! !」
 これには声も無く、むきプリ君は体のそこら中に氷をくっつけたままぴょんすかぴょんすかと飛び上がった。
「くそ、逃げるぞ!」
 だが、そうは問屋が卸さない。月光蝶仮面がバーストダッシュで彼の前に回りこむ。酔っていても、いやだからこそ身体能力は普段と同じかそれ以上。
 しかし、ゆら〜、ゆら〜、という酔っ払いにしか見えない動きに、むきプリ君は油断した。これなら倒せる……! と思って踊りかかっていった。
「ふふふ、馬鹿め……!」
 盛り上がった筋肉を存分に使って殴りかかり――
「積年の恨みだ! 鍛え抜いた筋肉をなめるなよ!!」
 おおっ! 台詞だけはかっこいい!
 だが、月光蝶仮面は酔拳と歴戦の立ち回りを兼ね合わせた動きでその大振りの攻撃をかわした。……いやまあ、スキルを使うほどの攻撃でもなかったが。
 そして武術を使ってボコりまくった。
「ぐ! べ! ば! ぶ! ぼ!」
 どーん! とアッパーを食らって吹っ飛ぶむきプリ君。
「うらぁ! おらぁ!」
 そこに待機していたカリンちゃんが鳳凰の拳を使い右頬! 左頬! と思いっ切りぶん殴る。彼女が直後に退くと同時、月光蝶仮面が仕上げとばかりに我は射す光の閃刃でトドメを刺した。
 しゅばあああああ!!! あああぁぁぁぁぁぁ…………
「筋肉ダルマ浄化しゅうりょうだ!」
 宣言する月光蝶仮面の数メートル先で、むきプリ君は春の陽気の中でぷっすぷすと煙を上げていた。ファーシーライトが最後に生存確認に行く。
「……あ、生きてる。コメディ補正ってすごいのねー」
 で、さっきメタ発言に「?」連発していたのにまさかのメタ発言をした。
「……あれ? 今わたし何言ったんだろう。まあいいや、とりあえず……えい」
 車椅子を使わなくなった今、轢くことは出来ないので――ぽけ、と持っていたステッキで頭を叩いておいた。
 周囲では、一連の出来事をただの見世物だと判断したようでおおー、と拍手が起こっている。その音をお酒のまわった頭で聞いていたアクアは――
「……? 何ですか? この音……。……っ!」
 我に返った。改めて自分の格好を認識して、恥ずかしさで顔が沸騰しそうになる。
「……! ……! わ、私は何という……! し、しかもさっき何て口上を……!」
 口上を思い出して、ますます恥ずかしくなった。急いでその場から逃げようと走り出し、だが、すぐに様々な現実の前に踵を返す。この服装のまま公園の外に出るなど、逃げ帰る間中、恥ずかしいではないか。
 まずは着替えなければどうしようもない。しかし、元々着ていた服は花見会場に置いてきてしまっている。貴重品等の荷物もしかり。
 酔っ払っていたが、多分間違いない。
(良かった……在りました)
 こそこそと皆の所に戻った彼女は目的物を見つけて身を屈め――顔を上げる際に、はた、とラスと目が合った。
「「…………」」
 一呼吸置いて、彼は口元ににやりとした笑みを浮かべた。
「へー……、ヒーローとやらになったのか。お化けが怖くてヒーローねえ……。へー……」
「…………!!」
 何だかんだ曖昧にして一発芸をしないで済んだ者の勝利の笑みである。忌々しい。そうは思うが顔が赤くなることも止められず。
「にしても、羞恥心とかあったんだなー。まあ、そんなに恥ずかしがらなくてもいーんじゃねーの? 似合ってるし? いっそ私服に……」
「おにいちゃん!」
 そこでピノの教育的指導が入った。
「仲良くしようって言ったよね! ね!」
「い、いや、仲良くしてるように見えないか? ただの雑談だろただの……」
「…………!」
 ラスがたじたじと言い訳をし始めたところで、アクアは急いで着替えと荷物を掴んでその場を離れた。無事に元の格好に戻った頃には恥ずかしさの勢いのままに帰ることを決めていた。戻ってまた、したり顔をされるのも大いに癪である。
「アクア? あれ、どこ行くの?」
 だが、そこで茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)レオン・カシミール(れおん・かしみーる)茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)と行き会った。出入口側から歩いてきたところを見るに、これから花見をするのだろう。朱里の問いに、アクアは平静を装い答える。
「いえ、そろそろ帰ろうかと……」
「帰るのか。しかし、1人で来たわけでもないだろう。他の面子はどうした?」
「……ファーシー達ならばまだ残っていますが……」
 ただ事実を述べるだけ、という言い方だが、多少歯切れ悪く感じるのは気のせいだろうか。声を掛けるまで何か取り乱していたのは、隠そうとしてもバレバレであったし。
「良かったら、もう少し桜を楽しみませんか? ほら、まだ日没まで時間がありますし、私達とゆっくりお話しましょう」
「衿栖……いえ、私は……」
「お? お前ら、こんな所で固まって何やってんだ?」
 どうしようか、とアクアが迷いを見せた時、脇からまた新たな声が掛かった。トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)ジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ)を連れて、こちらにやってくる。アクアの様子を見て、ジョウが言った。
「アクアさん、荷物持ってるね。あ、もしかして、帰る所だったりする?」
 荷物を持っているのは衿栖達も同様なので、進行方向や諸々の雰囲気からの判断である。
「あぁ? 帰るだぁ?」
 酒も入っていないだろうに、トライブは何やらガラが悪い。彼はずかずかとアクアに近付くと、慣れ慣れしく肩に腕を回して歩き始めた。
「おら、行くぞアクア」
「ちょ、ちょっと……!」
 たたらを踏みつつ、当然の権利としてアクアは抗議した。意外とがっちりしていて逃れられない。問答無用だ。
「わ、私はもう……ファーシー達が居ますから、あの子達と……」
「あんた、寺院の仕事で結構貯めこんでんだろ? ぱぁ〜っと使ってやっから、花見しようぜ」
 意気揚々とそう言って、衿栖達も後を追ってくる中、屋台通りへ入っていく。チェリーを振ってからというものパートナー達に冷たい目で見られたりボコられまくったりしているトライブは、家に居辛いという事もあり、今日はこうして花見に来た。だが、何気にこの花見を楽しみにしていたりしていて、アクアの話を全く聞いていなかったりする。
 ボコった事に関しては、ジョウ曰く『言い分は分かるけど、女の子を泣かしたんだもん。当然の報いだよ』ということで……、まあ、当然の報いらしい。
「ぱぁーっとって……」
 そんなこんなで、トライブはぽんすかぽんすかと粉物の屋台店舗でソースの香りたっぷりのパックを買っていく。そしてまとめてアクアに押し付けた。
「ほれ、ファーシー達んとこ案内しろよ!」
「仕方ありませんね……」
 アクアは諦めて、トライブの後をついていった。彼の勢いに押されてか、先程までの動揺は収まってきている。歩きながら、彼女はジョウに話しかけた。懐具合について、細かい事は省いて現状だけ説明する。
「非常に残念ですが、貯めこんだ分は手元にはありませんよ。……引き出す予定もありませんが」
「あ、そうなんだ?」
「何か、彼に言っても忘れられそうな気がするので……」
 確かに、大仰な動作と口調で我が道を行く的な彼には、今は何を言っても無駄な気がする。
(……まぁ、明るく振舞ってるけど、お別れが尾を引いてる空元気っぽいし、気晴らしになればって思うんだけど……)
 ジョウはそんな事を思いながら、トライブの背中に視線を送った。