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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!
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第8章


 ダリル・ガイザックの予感は正しかった。
「あれは……」
 クド・ストレイフが異様な脱力感の中、空を見上げた。
 各地で撃破されているはずの電気クラゲがいつまでたってもいなくならないのは何故か。
 その答えが、そこにあった。
「クラゲの母体……ということでしょう……か?」
 風森 望も呆然と呟く。
 他のパラミタ電気クラゲよりも、明らかに巨大なクラゲが数十体、電気クラゲが群生体を作っている雲のさらに上空からゆるやかに降下してくるのが見える。

 その巨大クラゲから、次々に通常サイズのパラミタ電気が産まれ、次々に街に接近してくるのが見えた。
「なるほど……アレを倒さんといくら電気クラゲをやっつけても無意味、というわけか」
 カメリアも苦しげにうめき声を上げた。


「……うぅ……身体が動かないよ」
 物部 九十九は、まだ立ち上がることはできない。建物の屋根から落下したブレイズ・ブラスを助けに行きたいが、身体から力が抜けてしまい、立ち上がることができない。
「……ブレイ……ズ」

 そのブレイズは、屋根から落下した後、路地裏に倒れていた。
 意識ははっきりしている。だが、情熱クリスタルの効果によりビームを撃ちすぎた彼は、体力を根こそぎ消耗していたのだ。

 そこに現れたのが、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)である。

「ふっふっふ……ブレイズ君、苦戦していますね」
「クロセル先輩!!」
 ブレイズは、震える身体を何とか立ち上がらせる。歩いてくるクロセルに、クリスタルを差し出す。
「先輩……いいところに……まだ動けるのなら、これでビームを……俺はもう……ビームが撃てねぇ……」
 しかし、そのブレイズにクロセルは教育的指導パンチをお見舞いする!!

「ばっかもーん!! ヒーローが諦めることは何事ですかーっ!!」
「げふぁっ!?」
 クロセルのパンチで吹っ飛ぶブレイズ。クリスタルを受け取ったクロセルは建物の屋根に飛び上がり、ブレイズを見下ろした。
「いいですかブレイズ君!! キミが今倒れているのは情熱が足りないせいではありません、君に足りないものは――語彙力です!!」

「……ご……い?」
 すでにブレイズの意識は朦朧と仕掛かっている。クロセルは、構わずに続けた。
「そうです……いくら何でもずっと同じビームでは無意識のうちに飽きてしまうのです。
 つまりキミに足りないのは独創性と変化!! 俺が今ここでお手本を見せてあげましょう!!」
 クロセルは屋根の上からひときわ大きなパラミタ電気クラゲを見上げ、珍しく真剣な表情を見せた。


「要は『目からビーム』と言えればいいのです!! ――お披露目からビーム!!!」


「……はい?」
 倒れたまま、ブレイズはその光景を見つめた。
 しかし、実際にはクロセルの目からはしっかりとビームが発射され、巨大クラゲにヒットする。
「まだまだ!!」
 クロセルは懐から酒のつまみの乾き物を取り出した!!
「あたりめからビーム!!!」
 クロセルの口と舌からビームが発射される!!
「出鱈目からビーム!!!」
 真剣な表情のクロセルの両目から激しいビームが発射される!!
「大真面目からビーム!!!」
 懐から取り出した財布は空である。
「金の切れ目からビーム!!!」
 クロセルがブレイズを指差すと、ブレイズの目から勝手にビームが発射させる!!
「落ち目からビーム!!!」
 最後に、クロセルは親指で自分をびしっと指差し、ビームを発射した。
「三枚目からビィィィム!!!」

 激しいビームの連射に、巨大クラゲのうちの一体の身体が燃え上がり、墜落していく。
 信じがたいことだが、ネタに生きる男、クロセル・ラインツァートの情熱で巨大クラゲをしっかりと撃退したのだ!!

「へ……やっぱ先輩はすげぇや……でも、俺にはできそうにねぇな……」
 そのまま、ブレイズの意識が闇に飲まれていく。
 クロセルは、最後に一言だけ付け加えた。


「あ、俺別に三枚目じゃないですからね? あくまで三枚目キャラを演じているだけですから」


                    ☆


「よぉっし……いよいよ本番だな!」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は気合を入れた。
 パートナーのアリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)と共に情熱クリスタル本体を警護しに来たアキラを見たウィンターは、声を掛けた。
「あ、アキラでスノー!!」
 とてとてと近寄るウィンターに、アキラはウィンターの頭をぐりぐりと撫でる。
「よぅウィンター、元気だったか?」
 笑顔を浮かべるアキラに、ウィンターはクリスタルのかけらをアキラとアリスにひとつずつ渡した。
「確かにいよいよ本番でスノー。これでアキラとアリスもビーム撃つといいでスノー!!」
 クリスタルを受け取ったアリスは、喜んで承諾した。
「ビーム! 面白そうネー!! じゃあまずはワタシやってみるヨー!!」
 アリスがクリスタルを握り締めて叫ぶ。

「目からビイームネってアレ……?」
 アリスは戸惑った。目からビームが出るかわりに、口から幻の鳥『ピヨ』が次々に発射され始めたのだ!!
「オー、これはこれで面白いネ!! 行けー、ピヨ軍団!!」
 アリスが指差すと、ピヨは意外なスピードでクラゲの方へと突進していく。
 いくらなんでもピヨにクラゲをどうにかできるとは思えないが、アリスはあくまでやる気だ!!

「ゴーゴー!! ピヨ☆フルバーストネー!! 爆裂的に鎮圧ヨー!!!」

 それを援護すべく、アキラもまたクリスタルを握り締めた。
「よっし、こっちも行くぜ!! 目からビィィィム!!!」
 だが、こちらも素直に目からビームなど出ない。
 アキラの額に『肉』の字が浮かび上がり、そこから幅の広いビームが発射された。
「あれは……!?」
 自分の額から出たビームがどうも直接攻撃できるものではないと認識し、アキラは戸惑った。
 だがその効果はすぐに分かった。アリスが発射した数体のピヨが後ろからアキラのビームに包まれると、見る見るうちに巨大化していくではないか!!

「ジャ……ジャイアントピヨでスノー!!!」

 ウィンターの叫びに呼応するかのように、ピヨ軍団はどんどん大きくなり、一体が3mくらいに巨大化してしまった。
 それがどのような心から産まれたものかは分からないが、このピヨ自体はあくまで実体ではなくアリスの出したビームだ。
 つまり、そのまま体当たりで電気クラゲに有効なダメージを与えられるということでもあった。

「ピヨ!! ピヨ!! ピヨーーーっ!!」

 凄まじいスピードで突進していく巨大ピヨ小隊は、次々に数体の巨大クラゲを巻き込んで、大爆発を起こした。

「やったネーー!!」
 喜ぶアリスを見て、ウィンターは呟いた。


「……やりたい放題にもほどがあるでスノー」
 と。


                    ☆


 一方、情熱を使い果たして動けなくなるコントラクターも多い中、ツァンダの夜空を小型飛空艇で飛び回っているのは朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。

「よっと……!! よし……慣れてきたぞ」
 いつものように奉仕活動に精を出していた垂は、ついつい訪問先で長居してしまって、停電に巻き込まれたのだ。
 情報を確認してクリスタルを入手すること自体は問題ではなかった。
 だが、いかに情熱に燃えた人物であろうとも、一人の力では限界がある。
「よっ、はっ、とっ!!」
 そう考えた垂は、一人でも効率よくビームを収束させる方法を考案したのである。
 今まさに垂はその計画を実行に移していた。
 細く小さな情熱クリスタルが垂の手に二本、まるで箸のように握られている。
 垂は驚くべきことに、その箸で他のコントラクターの撃ったビームを次々にキャッチし、一本のビームに纏め上げていたのだ。
「――よし、いける!!」
 猛スピードで空を駆け抜ける飛空艇。垂は器用に動く二本の箸で飛び交うビームを纏めながら、ひときわ大きなクラゲに向かって突進した。


「シャンバラァァァ……ビィィィムウウウゥゥゥッ!!!」


 垂によって纏め上げられた数十本のビームは、巨大な光線となって巨大クラゲの中心を捉えた。
「よし……次もこの調子で行くぞ!!」
 気合を込め垂は、また次のクラゲへとビームを纏め上げていく。

 時間は多少かかるものの、体力を消耗しない方法としては優秀であると言えた。


                              ☆