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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

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第四章 岐路

 集落の南東部、おそらくは職人たちが住居や工房を構えている一角なのだろう、数多くの男が悪魔が、女は日常家事を行っている。もちろんどちらも悪魔ではあるのだが。
 その道を歩くは女性が多かった、男が居ては居心地が悪いとさえ思えるような、そんな中で天城 一輝(あまぎ・いっき)は一人、思っていた。
『女性とは、なぜにここまで次から次へと言葉が出てくるものなのか』と。
「えぇ。えぇ。そう! そうなんですよ〜」
 とびきりに明るい声をあげているのはパートナーのコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)、『魔法少女』勉強中のメイドさんである。
「なるほど〜、あ、そうそう、フリルをこう、こうして。ね♪」
 一輝も一応に魔族の服に着替えているとはいえ、どうしてもやはりに目立ってしまうわけで。一輝
強行突破や脱出を考えて足が強ばったのに対して、コレットが取った行動は『悪魔に話しかける』だった。メイド服を着た女性悪魔を見つけるや「その服、とっても可愛いですわね」と寄っていったのである。
「そうですよね〜、なかなか時間ないんですよね〜」
 聞き耳を立てていたわけではないが、聞こえた所から推測すると、今日はこの集落の女性たちが可愛らしいメイド服を着ているのを聞いたコレットがワガママを言って俺を連れ出した、という事になるらしい。とっさに出た嘘にしては悪くないが、さっきの話と合わせると、俺がコレットに自由な時間も与えていない『なかなかの拘束野郎』と思われるのではないだろうか……。
「えぇ、ではまた。えぇ、ごきげんよう」
 優雅に手を振って女性悪魔たちを見送ったのち、コレットは満足げな顔のままに戻ってきた。
「はぁ〜、楽しかった」
「羨ましい限りだよ」
「え? 何?」
「いや……お前が居て助かったよ」
 女性悪魔たちとファッション談義で盛り上がる様を見られていたのだろうか、しかもそれは実に良い方向に働いたようで、これ以降、2人が怪しげな目で見られることは殆どに無くなった。
「意外と友好的、なんだよな」
「えぇ、みんな良い人ばかりです」
「それはさっきの女子だけだろ」
「そんな事ないですよ、みんな優しい瞳をしています」
 それも主観ではあるが、否定もしきれない。
(はぁ……。肩すかし食らったみたいだぜ)
 橋頭堡からもそう遠くない、今後も魔族との戦いは続くことを考えると、ザナドゥに拠点があった方が良い事は明確、その拠点を、ここ! この集落に作ってしまおうと思っていたというのに。
「うまいことやれるよう、交渉していくのが早そうだな」
「? どういうこと?」
「抵抗されたり、襲撃された方が楽だったってことだよ」
 空を見上げればパートナーであるローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)の『小型飛空艇アルバトロス』が周遊しているのが見える。あちらも襲撃をうける事なく偵察を続行できているようである。
「やはり、おかしいですわ」
 ローザの声に、アルバトロスに同乗するユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)も「そうだな」と同意した。
「半刻は過ぎているというのに威嚇射撃の一つもないとは」
「それでも集落内に大きな動きはありませんわ。兵が動く様子もありませんし」
 不気味すぎるほどに動きがない。ジバルラたちが城門前やイコン工房で軍兵と衝突してから半刻以上が過ぎているというのに、上空から見ても際だった動きは見られない。そもそも兵の姿を見かけることさえ無くなっていた。
「在中する兵の数が、こちらが思ってる以上に少なかった、という事でしょうか」
「ジバルラたちが全て制圧してしまったと? それこそ手応えが無さ過ぎる」
 もともと職人たちに反乱など起こせない、または起こすはずがないと軍本部が考えていたとしたら、あるいは。しかし―――
「ん? あれは?」
 ふと瞳を向けただけだった。ユリウスが発見したそれは『集落の外』にあった。それもコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)らが偵察隊の本部を構える『南側』ではなく、『北東側』にだ。
「すぐに戻ろう! ハーティオンに伝えるんだ!」
「了解ですわ」
 機体を『南側』へと向けて飛んだ。操縦するローザもその瞳で確認した、集落の『北東』その外側で怪しげな3人が集まり何か作業をしているところを。
 2人が帰還した集落外の『南側』には、仲間の退路を確保するべく尽力するコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)が待機と共に来るべき有事の為に万全の準備を図っているところであった。


「ねぇ! ほんとに止めようよ!!」
 集落の外、『北東』の位置。主に必死に呼びかける少女が一人。強化人間であるアニス・パラス(あにす・ぱらす)が必死に決死に呼びかけていた。
「どうしてザナドゥの味方をするの?!!」
 言われた佐野 和輝(さの・かずき)は応えない。もともと口数は少ないほうだが、ザナドゥから悪魔の軍勢が攻めてきてからオカシクなった事をアニスは誰よりも知っていた。
「ねぇそれ! さっきも同じ所に付けてたよ!」
「…………誰だ? お前」
「えっ……」
「…………うっ! 頭が……頭が……」
「和輝?! 和輝ぃ!!!」
 押し潰すかのように強く頭を押さえている。その痛みが原因なのか、記憶倒錯に陥っている可能性も……。
「和輝! しっかり! 和輝ぃ!!」
「そこまでです!!!」
 アニスの背後で声がした。叫んでいたのはコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)だった。
「動かないで下さい、できることなら斬りたくはない」
 和輝の周囲を凝視すれば細工の跡は明確だった。触れれば巨大な音の鳴る仕掛けだろう、それを集落の外に設置したという事は、自分たちを外に出さないようにしようとしていたという事だろうか。
「私たちをわざと自由に泳がせておいて、その隙に集落の外から包囲する策だった、というわけですか」
 規模の割に兵の数がまるで足りていない。が、これで、偵察隊を逃がすべく数々の策を練り準備してきたハーティオンの努力が少し泡となって消えたことは間違いない。
邪魔をするな……
「なに?」
「俺の邪魔をするなぁああああ!!!!」
 刹那に魔鎧であるスノー・クライム(すのー・くらいむ)を身に纏って、飛び出した。
 狂気に満ちた突進を正面から受け止めたのは龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)の爪先だった。
 身長20mから繰り出されるドラゴランダーの爪蹴に和輝は一度は吹き飛ばされたが、すぐに体勢を直して飛びかかってきた。
「俺は! 俺は! 俺は賊を討伐するんだぁあああ!!!!!」
 『紅の魔眼』に『封印解凍』、なりふり構わずに己を強化した後の『クロスファイア』。実に強力な攻撃であるが、それもドラゴランダーには届かなかった。
「グアアアアアアアアアアア!!!!」
 オモチャのように見えてしまう『ロングスピア』から繰り出される『ランスバレスト』が、和輝の十字砲火を斬り裂いた。とっさに魔鎧状態であるスノーの『歴戦の防御術』で直撃は避けたが、続く巨拳撃にまたも飛ばされてしまった。
「和輝ぃ!! もう止めて!! 和輝ぃ!!!」
 アニスは必死に叫んで呼んだ。それこそ喉が破れる程に。
 それでも和輝は止まらなかった、何かに憑かれたかのように「敵を討伐しないと……討伐依頼を受けたんだ……」と呟くか「邪魔をするなぁああああ!!!!!」と叫びかを繰り返しては無謀にもドラゴランダーに挑んでいった。
 無謀。まさに勝ち目のない戦い。戦況は決した。
 ハーティオンドラゴランダーアニスさえもそう思った。しかし―――
 それは空から現れた。
「なん、だ……あれは……」
 地平の先より現れし大群。幻獣グリフォンの背には悪魔兵の姿が見える。
 魔神 パイモン(まじん・ぱいもん)が率いる悪魔の一団がペオルの集落に迫り来ていた。