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リアクション
レッスン2 教わってみましょう。その3
「魔法少女ストレイ☆ソア、魔法のお菓子を届けに参上ですっ。
……というわけで、こんにちはクロエさん。私はソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)と言います。この子は、」
「超プリチーな魔法少女のマスコット、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)だぜ! よろしくな!」
小分けに包んだお菓子の袋を手渡しながら、ソアはクロエに微笑んだ。初対面なので挨拶も忘れない。
「こんにちは! これ、もらっていいの?」
「はい、どうぞ」
「うれしい。ありがとう!」
にっこりとクロエが笑う。
「それです」
「ふぇ?」
「こうやって、料理を作ることによって相手を幸せな気持ちにしたり、笑顔にしたりするのも立派な魔法少女のお役目なんですよ」
豊美ちゃんから新米魔法少女の話を聞いて、ソアはクロエの力になろうとやってきた。
そしてクロエを見て思ったのは、戦闘系には向いていなさそうだな、ということ。
なら教えられるのは、戦いの方法よりは――
「魔法少女にとって大切なのは、『心』ですっ」
といったことなのではないか。
ソアが正式に魔法少女になる前、豊美ちゃんにお願いして、魔法少女講座を聞かせてもらったことがある。
その時の受け売りなのだが、感銘を受けたので伝えたいと思った。のだが。
――……思い切って言ってみたものの、なんだか恥ずかしくなってきました。
クロエがきょとん、としているのがまた。
頬を赤らめつつ、こほんと咳払い。
「魔法少女って、本当にいろんな人がいるんですよね。厳密な定義とかはないんです。極端な話、『自分は魔法少女』って信じていれば、それで魔法少女なんだと思います」
「だから、たいせつなのがこころなのね?」
「うぁ。はい、そんな感じです。なので、クロエさんも自分の心を大切にしてくださいっ。そして、大切なものを見つけてくださいっ」
再び、クロエがきょとんとする。
「えっと。自分にとって大切なものを守ろうとする気持ちを持つことが、立派な魔法少女への成長に繋がりますから」
説明してみたが、クロエはまだきょとん顔のままだ。少し漠然としすぎていたかもしれない。ソアはわかりやすい喩えを考える。
「例えば、自分の友達とか親しい人達とずっと笑顔でいたいなーと思ったら、その想いを大切にすると良いと思います!」
想いは必ず力になるから。
力強く言うと、ベアが笑った。
「ただの魔法少女コスプレで恥ずかしがっていたご主人が立派になったもんだ」
「ベ、ベアっ。そんな前のことを持ち出さないで!」
「それに比べて、クロエは堂々としてるな!」
既に誰かに見繕ってもらったらしく、クロエの格好は魔法少女然としていた。
りぼんやレース、フリルのあしらわれたふりふりふわふわのミニドレスはとってもよく似合ってる。
「そういうのもいいが、クロエは可愛いしメイドさんっぽいのとかも似合いそうだな」
「いしょうはひとつじゃなくていいの?」
「別にいいと思うぜ。ご主人様だって複数衣装を持ってるしな」
今日着ているのは、スイーツ魔法少女衣装だ。他にもいろいろ、用途に応じて衣装を持っている。
「女の子ですから。いろいろな格好、したいじゃないですか」
ね? とクロエに問いかけると、「うん!」と大きく頷かれた。魔法少女である以前に女の子なのだから、お洒落を楽しみたい気持ちがあって当然なのだ。
「そういやクロエよ。魔法少女名とかあるのか?」
「ソアおねぇちゃんが、ストレイ☆ソアってなのったようなもの?」
「そうだ。重要なモノだからな。あるといいぜ」
ベアの言葉にクロエが自信満々に胸を張った。
「お。あるのか?」
「教えてくれませんか?」
聞き出してやると、クロエが得意満面の表情をしてからその場でクルッと回ってポーズを決めた。
「まほうしょうじょプシュケー☆クロエ!」
びしっと決まったポーズが可愛らしい。
「サマになってるじゃねえか」
「うん。とっても可愛らしいですし、魔法少女らしいです!」
「えへへ。ポーズがじゅうようだっておそわったから、れんしゅうしたの!」
向上心もあるようだし、あまり心配は必要なさそうだ。
「私に答えられることでしたら、なんでも聞いてくださいね」
優しく微笑む。と、クロエが挙手した。
「はい、どうぞ?」
「ソアおねぇちゃんがまほうしょうじょになったりゆうをおしえて?」
ちょっと恥ずかしかったから、さっきは秘密にしていたのだけれど。
なんでも聞いてと言った手前、教えようか。
「『みんなの夢と希望を守る魔法少女』を目指して、魔法少女になりました」
クロエに耳打ちするように、こっそりと。
「とってもすてき!」
「おかげさまで、頑張れてます」
「わたしもおうえんする。それに、わたしもそんなまほうしょうじょになりたい!」
言葉が、胸に響いた。
「ねえ、ベア」
「ん? 何だい、ご主人」
「こうやって、誰かの希望になるっていうのも……素敵なことですね」
*...***...*
豊浦宮に、新しい魔法少女が入ったらしい。
とあらば、先輩として……というのはなにやらこそばゆい感じがするけれど、顔を見せておいたり挨拶しておくのは大事だろうと思って、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は豊美ちゃんの許まで出向いた。
「うーっす」
「シリウスさん、こんにちはー。来てくれたんですねー」
シリウスは、個人で活動している魔法少女である。そういったタイプがこうやって顔を出すことはやはり珍しいらしい。豊美ちゃんが嬉しそうに言った。こういう反応も、やっぱりなんだかこそばゆい。そっぽを向きつつ髪に手を当て、「一応な」とぶっきらぼうに言う。
「で、どの子が新米だって?」
ヴァイシャリーの工房までやってきたが、ずいぶんと人がいる。中には見知った顔もあり、少女に指導している様子も見えた。各所で、だ。
「あの子と、あの子と……」
「複数かよ」
思わずツッコミつつ、丁度話を終えて一人になった少女に近付いてみた。
「よう。魔法少女のシリウスだ。新米か?」
彼女は頷き、
「はじめまして。わたし、クロエ。シリウスおねぇちゃんもいろいろおしえてくれるの?」
綺麗な瞳をシリウスに向けて、問いかける。
「ああ。ただ、オレが教えるのはちょっと違ったことだけどな」
何かを教えよう、と思ったときに最初に考え付いたのが、『豊浦宮とは違った観点での魔法少女のあり方』だった。
つるむばかりが魔法少女じゃない。個人で活動するタイプだっているわけだし、そういったことも教えておこうと思ったのだ。
「クロエはさ。豊浦宮に入るつもりなのか?」
「まだきめてないわ」
「そっか。じゃあなおさら丁度いいや」
疑問符を浮かべ、クロエがシリウスをじっと見つめた。答えを待っている。
「あー、最初に言っておくけどよ。オレは別に、豊浦宮みたいな結社というか会社というか、集まりみたいなのをディスる気はないからな?」
「ディスる?」
「悪く言うっつーか、まあそんなとこ」
シリウスは所属していないが、豊浦宮に所属する少女たちのように集まって人のために何かしようとするのは立派なことだし、みんなを幸せにする方法として十分にありだと思う。
「たださ。大人数になると、やっぱ人の目を気にしたり、なんてのもあるわけだ」
ああした方がいいんじゃないか。でも、みんなの意見ではしない方がいい。
そんな状態に陥った場合、どういう決断をとるのか。大多数が、周りの意見に流される。
「自分が正しいと思ったことができない……なんてのはバカみたいだろ?」
「まっすぐじゃなくなるのは、いやね」
クロエの言葉に、だよな、と軽く頷く。
「オレはさ。割と一方的に『お前が変身しないと世界が亡びる!』とか言われていきなり魔法少女にされたクチなんで、色々考えたりもしたけどさ。
大事なのは『何をやるか』じゃなくて、『何のためにやるか』って心意気なんじゃないかな」
「なんのために?」
「そうだ。クロエも何かやりたいことがあって魔法少女になったんだろ? それを……」
言いかけて、クロエの表情が暗くなっていることに気付いた。ぎょっとして言葉を止める。
「なんだよ、どうした」
「わたし、かるいきもちだったの。たのしそうだなっておもったから、なりたがったの」
「……あー、そっか。そうかぁ……」
そういう理由じゃ、いろいろと難しい。
「やることが決まってないなら、とりあえず真似とか弟子から始めてみるってのがいいのかなぁ。……どう思う?」
「そこでわたくしに振りますの?」
リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)に話しかけると、一瞬困ったような顔をされた。が、すぐに真面目に考えてくれる。
「えぇと、何をするか……ですわよね?」
「ん。頼む」
「おねがいします」
「わたくしは魔法少女ではないので……シリウスも、その、あまり参考にできる魔法少女ではないと思いますし」
オイ、と思わずツッコんだがしれっとした顔で受け流された。くそう、と歯噛みする。オレだってオレなりに真面目なつもりなんだぞ、と。
「シリウスは豊浦宮に所属しないでいく方針を教えていましたけれど、クロエさんのようにまだやることが決まっていないのなら豊浦宮で修行してみるのもいいのではないですか?」
「しゅぎょう?」
「はい。もし、理想と違うと思ったら、その時は自分が信じたものに向かって歩んでいけば良いと思いますの」
どうでしょうか? とリーブラがクロエに問いかける。
難しそうな顔でクロエがうぅんと唸った。
「考えすぎて熱出すなよ」
苦笑しつつ見守ると、しばらく唸った後にクロエは、
「いまは、ほりゅうするわ」
と言った。
「まだ、なったばかりだもの。わからないことがおおすぎるのにきめるのははやいわ」
「そりゃそうだな」
「でも、シリウスおねぇちゃんやリーブラおねぇちゃんのいったことは、すごくさんこうになったわ。ありがとう!」
素直な笑顔でお礼を言われると、
「……やっぱむずがゆいなー」
なんでもないのにそわそわしてしまうというか、なんというか。
なので、他の新米魔法少女に教えるのは難しそうだ。毎回こんな風に笑顔を向けられたら、くすぐったくてかなわない。
「つーわけで、帰るか」
「こんな風に、自分の気持ちを優先しすぎるのも困りものですから。気をつけてくださいね、クロエさん」
リーブラの声に、オイ、と再び抗議。
受け流されたのは、言うまでもない。
*...***...*
「それでは一度事務所に行ってみましょうかー」
豊美ちゃんの提案に、新米魔法少女たちが事務所? と首を傾げた。
「はいー。豊浦宮の事務所です。空京にありますー。他にも豊浦宮が運営する喫茶店もあるので、いろいろと見て回れますよー」
集まってくださーい、と豊美ちゃんが手を挙げた。新米魔法少女たちが、豊美ちゃんの許に集まる。
「テレポートしますので、離れないでくださいねー」
この人数で、正規の方法で移動していたら時間がかかってしまうがテレポートなら一瞬だ。
全員を連れてのテレポート行為は力を使うから大変だけど、一度や二度くらいならバテることなくできるし。
それになにより魔法少女らしいじゃないか。
「では、行きますー」
準備もOK。
合図をして、いざ空京へ。
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