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リアクション
■ 銀幕からの招待 ■
シャンバラに渡ってから数年が経った。
その間、地球に降りたことは幾度かあるが、故郷ロサンジェルスへは一度も戻っていない。
たまには親兄弟に顔を見せに行くのもいいかと思い立ち、ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は夏の長期休暇を利用してロサンジェルスに帰ってきた。
「あれ、ジェイコブじゃないか」
空港を歩いていると、ジェイコブはどこかで聞いたことのある声に呼び止められた。
「いや〜、こんなところで会うだなんて、何かの縁かねえ」
親しげに話しかけてきたのは、かつてジェイコブの家の近所に住んでいたティモシー・ファラーだ。
そう言えば、近所に住んでた映画オタクの兄ちゃんだったよな、と思い出しているうちに、こっちこっちとジェイコブはティモシーに引っ張られ、高級車のところへと連れて行かれた。
「なんだ? 送ってくれるのか?」
「それよりオレんちに来いよ。ちょうどパーティやるところだったんだ。立食だからうまいもの食べ放題だぜ」
あれよと思っている間にまくしたてられ、それもいいかとジェイコブはティモシーに勧められるまま高級車へと乗り込んだ。
車が向かった先はビバリーヒルズの高級住宅街だった。
ここだと車から降ろされたのは、広壮な屋敷前だった。
ティモシーが言った『パーティ』というのは、どうやら業界のものだったらしく、集う人々は皆業界人ばかりだ。
プールにはモデルやら女優やらの水着美女が泳ぎ、テーブル近くでは俳優や歌手らがグラスを掲げている。
「なんだここは……」
目を丸くしているジェイコブに、ティモシーは笑って説明した。
「最近映画が立て続けに当たってね」
趣味が高じて映画プロデューサーになったティモシーは、ここ近年はヒットメーカーの名をほしいままにしているのだと語った。
「好きこそものの上手なれってヤツか」
ジェイコブより6歳年上のティモシーは、いつも映画の話ばかりしていた。映画に関する仕事につけて、おまけにそれが上手くいっているとなれば、言うことなしだろう。
「それで、なんだけどさ」
ティモシーは親しげにジェイコブの背を叩いた。
「今企画中のアクション大作映画の主役としてデビューしないか? どの俳優を見てもピンと来なかったんだが、お前さんを空港で見かけたときに、これだ、と思ったんだよ。お前さんはシャンバラで軍人として壮絶な経験をしている。格闘家やアメフト上がりのヤワな連中とはワケが違う。本物の持つ凄みを持った男がオレの映画には必要なんだ!」
熱く誘うティモシーにジェイコブは苦笑した。
「自分のことを買ってくれるのは嬉しいが、オレは役者なんて柄じゃない」
「何を言ってるんだ。お前さんを見たらもう、他のヤツなんて考えられないよ。な、昔なじみの縁だと思って、頼む!」
ティモシーに拝まれても、やはりジェイコブは首を縦には振れなかった。
「悪いな。だがオレはこういう生き方というか、自分が損すると分かってても今歩いている道を変えたくないんだ。確信があるわけじゃないが、けど、どうしても今はそんな気になれないんだ」
ティモシーが作品を大切に思う気持ちは分かるけれど、それでも自分の今の生き方は曲げられない。そうジェイコブなりに真摯に答えると、ティモシーはがっくりと肩を落とした。
「ダメかあ……本当に惜しいな」
まだ諦めきれない様子で、気が変わったらいつでも連絡してくれとティモシーは名詞を無理矢理ジェイコブに渡した。
そして名詞をもう1枚、こちらはフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)に差し出し。
「映画に出てみる気はないかい? いやあ、オレの考えるヒロインにぴったりなんだよね」
こりずに勧誘する様子を、ティモシーはティモシーで己のすべてをかける仕事をしているのだろうと、ジェイコブは感心半分、呆れ半分に眺めるのだった。