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第二章  対教導団戦線



《VS 学徒》



「キャラクターチェンジ!」「メーーーィリン!」

 教導団の学徒兵を前に、李 梅琳(り・めいりん)に変身する橘 カオル(たちばな・かおる)

「よーし、いっしょ行くか!」

 と言って愛刀【獅子咬】を引き抜こうとするカオル。だが――。
  何気なく下に向けた視界の端に、量感たっぷりの胸が映り、カオルは思わず手を止めた。

(う……)

 ついつい、胸に見入ってしまうカオル

(そういえばオレ今、梅琳のカッコしてるんだよな……。や、やっぱデカイ……)

 ゴクリ、と生唾を飲み込むカオル。
 刀の柄に伸ばした筈の手が、ソロソロと胸に伸びて行く。

(ま、待て!な、何やってるんだオレ!)

 必死に自制しようとするものの、その意志に反してカオルの手は動いてしまう。

(よせ、よすんだオレ!これじゃまるで、痴漢じゃないか!)

 ギュッと目をつぶり、全身に力を込めるカオル。だがどうしても、手の動きを止めることが出来ない。

(い、イカン、このままじゃ――)

 目をカッ!と見開き、手を引っ込めようとしたその瞬間――。
 視界一杯に広がるたわわな果実が、ブルン!と揺れた。

「だ、ダメだ!もう辛抱たまらーーーん!」

 絶叫と共に、胸を思い切り鷲掴むカオル。
 だが、その手に伝わってきたのは――。

「あ、あれ?なんだ、コレ……」

 両手に伝わる、少し固めのぬいぐるみのような感触。
 想像していたような『得も言われぬ柔らかさ』や『極上の弾力』といったモノとは程遠い感触だ。

「あれ?アレ!?」

 狂ったように、ムニュムニュと自分の胸を揉みまくるカオル。
 そういえば『自分の揉まれている』という感触こそ伝わってくるが、本来女性が感じるであろう(とカオルが勝手に思っている)独特の感覚のようなモノは、全くない。

「な、何だよコレおかしいよ!不良品なんじゃないの!!」

 ケータイを取り出すのももどかしく、カオルは苦情の電話をかけた。

「どうしました?」

 どこか気の抜けた山平の声が、カオルの神経を逆撫でする。

「『どうしました?』じゃないよ!このキー、不良品なんじゃないの?」
「不良品って……。どこか、おかしいトコロでも?」
「おかしいじゃないよ!変身したのに、胸が――」
「胸?」

 聞き返されて、ハッと口をつぐむカオル。
 いくらなんでも、『自分で胸を揉んでみた』とは言えない。

「胸……?あぁ〜ナルホド〜。そういうことですね〜」

 事情を悟ったのか、どこかバカにしたような口調で、山平が言う。

「あのですね、ソレ、故障じゃないんですよ、仕様です」
「し、仕様?」
「ハイ、仕様です。キーで変わるのはあくまで『外見』ですから。身体そのものは変わらないんですよ。わかりやすく言えば、男のスーツアクターさんが、詰め物したピンクのスーツを着てるようなモノなんです」
「す、スーツ……?」
「はい。一応、無いと困るだろうと思って触覚位は再現してありますが、それ以上の再現性はありません」
「無いの!!」

 泣きそうな声を上げるカオル。

「ありません。だって、必要ないでしょ?それにプライバシーの問題もありますし。だいたいセクハラですよ、それじゃ」
「そ、そんな……」

 ガックリと膝を突くカオル。
 電話の向こうで山平がまだ何か喋っているが、カオルの耳にはまるで届かない。

「お、オレは……!オレの……、オレのあの苦悩は、一体なんだったんだぁーーー!」

 カオルの悲痛な叫びが、天に木霊する。
 そして、3分が過ぎた。

「え……?」

 我に返り、顔を上げるカオル。
 いつの間にか、学徒兵たちに十重二十重に囲まれていた。

「プギャーーーッ!」

 こうしてカオルは、本作戦における戦線離脱コントラクター第二号となったのだった。



「おーおー、いるいる♪スゴイ数だね〜」

 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は額に手をやって、押し寄せる学徒の群れを俯瞰する。

「セレン。そんな楽しげに眺めてないで、さっさと変身してよ」
「はいはい。それじゃ、へんし〜んっと」

 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に言われ、セレンは胸の谷間から取り出したキーを、無造作に突き刺す。

 その身体が光に包まれ――。

「――セレンがそういう趣味だったとは、知らなかったわ……」
「ち、違うわよ!どうせどのキーでも一緒だから、テキトーなの引っ張って来ただけなの!『デムパ少女』だと分かってたら、持ってこないわよ!」

 『ティーカップパンダ検知用』との触れ込みのアホ毛が脳天高く聳え立つ、金元 ななな(かねもと・ななな)に変身していた。

「ま、まぁ何でもイイわ、この際。アイツらにとっちゃ、あたしがなななだろうが女神様だろうがカンケーないだろうし」

『学徒兵は人造生命体であり、感情のようなモノはほとんど持ち合わせていない』という情報は、セレンたちにも伝わっていた。

 セレンは開き直って【対物ライフル】を《ライトニングウェポン》で強化すると、学徒の群れへと発射した。
 何せこの密度だから、狙いをつける必要は全くない。
 帯電した弾体が敵陣吸い込まれると同時に、弾道上の学徒が倒れ、宙を舞う。
 だが学徒たちは、損害に怯んだ風もなく黙々と進み続ける。

「何だか、今ひとつ張り合いがわね〜。なんて言うかこう『カタルシスに欠ける』ってヤツ?」
「無駄口叩いてないで、ドンドン撃って!」
「ハイな!」

 セレアナに急かされ、立て続けにライフルをぶち込むセレン。
 弾道上にいない敵が、左右から包み込む様に迫って来ていたが、セレンは全く動じる事無く引き金を引き続ける。

 ちょうど弾倉が空になった時、セレンの変身も解けた。
 待ってましたとばかりに、セレアナがライフルの前に立つ。

「セレン!」
「ハイ!」

 実体化したキーを、放り投げるセレン。
 セレアナは後ろも見ずにキーを引っ掴むと、自分の左胸に刺した。
 変身が完了するのも待たずに、《ランスバレスト》を行う。
 セレアナがなななの姿になった時には、すでに学徒兵を何体か串刺しにしていた。

「ウラァァァァ!」

 《チェインスマイト》と《ライトニングランス》を駆使して、学徒が突き刺さったままのランスで周囲を薙ぎ払うセレアナ。
 彼女がランスを1回振るうたびに、その何倍かの数の学徒が餌食となる。
 セレンが次の射撃に有利な位置に移動し、充分な体勢を整えるまでは、ここ敵を引きつけなければならない。

 セレアナは、鬼神の如く暴れ回った。