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はっぴーめりーくりすます。2

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はっぴーめりーくりすます。2

リアクション



15


 今年は、柚木 郁(ゆのき・いく)にとって初めてのクリスマスになる。
 だから、と言ってしまえば単純だけれど、柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)は郁に素敵な思い出を残してあげたいと思った。素敵なクリスマスになったら、と。
 郁には今まであまりいい思い出はなかったみたいだから、余計にそう思う。
「綺麗なものをいっぱい見ようね」
「うんっ!」
「あと、可愛い恰好しようか。せっかくだから」
 言って、用意しておいた服に着替えさせる。
 赤と白のチェックのベスト。トナカイのブローチ。クリスマスを意識した色合いとアイテムだ。
「あとは帽子をかぶって、……はい、できた。可愛いよ」
 物語に出てくるサンタのような、赤い帽子をかぶったらおめかしは完成。
 貴瀬と、柚木 瀬伊(ゆのき・せい)と、二人で郁を挟むように手を繋いで、いざ出掛けるはヴァイシャリー。
 見せたいものがたくさんあった。綺麗なものを、見てもらいたかった。
 なのでまずは、クリスマスカラーに飾られた街並みを。
 ポインセチアの赤緑。イルミネーションのきらきら。大きなツリーのお星様。
「素敵だね」
 微笑みかけると、郁が笑った。満面の笑みに、貴瀬は嬉しい気持ちになる。
「くりすますって、きらきらなんだねー」
「夜はもっときらきらするよ」
「そうなの?」
「うん。あのきらきらが、ぜーんぶ光るんだ」
 昼間でも、陽光で十分に輝くイルミネーションを指差す。と、ぱぁっと顔を輝かせ。
「おほしさまみたいになるんだね! みたいなー」
 そわそわ、落ち着かない様子。
「じゃあ、帰り道に通って行こうね」
「うん! きれいなもの、クロエちゃんにもみせたいな」
「うーん」
 それはどうだろう。人様の家の子を、夜遅くに連れ出すのは忍びない。
 郁は聡い。貴瀬の反応の、微妙なニュアンスに気付いたようで「じゃあね、」と代案を告げた。
「貴瀬おにいちゃんのカメラでとって! それをいっしょにみるのー」
「それはいい考えだね」
 空いた手で郁の頭を撫で、微笑む。
 カメラは今日も持っている。というより、余程のことがない限り携帯していた。
 もう、自然といつも持ち歩くようになったけれど。
 ――始めたのは、今年からなんだよね。
 なのにもう、クリスマスを迎えていて、大晦日が目の前で。
 ――あっという間だなぁ。
 紺侍と会って、写真の撮り方を教わって。
 様々なものを撮ってきた。
 みんなの幸せな笑顔。楽しい思い出。
 大事なものだ。みんなみんな、貴瀬にとって大切なもの。
「楽しそうだな」
 思い出していたら、瀬伊に指摘された。無意識に笑っていたらしい。
「楽しかったか、今年は」
「うん。充実した一年だったよ」
 あとは、お礼ができたなら。
 ――会えるといいなぁ。
「ねえねえ貴瀬おにいちゃん、瀬伊おにいちゃん。あのおおきなきはなあにー?」
「ああ。あれはな、クリスマスツリーというらしい。各家庭で色々と特色が出るようだ」
「とくしょく?」
「好きに飾っていいものだからな。……来年は、手作りのオーナメントでも作って飾るか?」
「うん! あっ、あのきらきら、かわいいー」
 綺麗なものを見て、笑って。
 三人は、工房へ向かう。


 郁の今日の目的のひとつ。
 それは、クロエにプレゼントを渡すこと。
「めりーくりすます、なのー」
 まずは、こう言うんだぞ、と瀬伊から教わった言葉を向ける。クロエが、いつものように可愛らしい笑顔で「メリークリスマス!」と返してくれた。郁もにぱー、と微笑む。
「あのねー、あのねー」
 それから、プレゼントを渡そうと、したのだけれど。
 ――よろこんで、くれるかなー。
 なんだかそわそわしてしまって、気持ちは逸るのだけれども行動に移せなくなって。
 そわそわ、そわそわ。
「どうしたの?」
「んとね。えーと、」
 貴瀬の方を、ちらりと見た。がんばれ、と口が動く。勇気をもらった気がした。
「あのね、はいっ!」
 渡したのは、桜貝を花に見立てて飾り付けた写真入れ。瀬伊に手伝ってもらって、郁が一生懸命作ったものだ。また、写真入れの中には、模擬結婚式の時に貴瀬と紺侍が取ってくれた写真が入っている。
 ラッピングを解き、中身を見たクロエがびっくりしたように目を開く。
「あのときの!」
「うんっ!」
「うれしい、ありがとう!」
 喜んでもらえたみたいで、ほっとした。続いて、すごく嬉しい気持ちになる。
「あのねっ、あのねっ」
「うんっ?」
「これ、郁ね、いっちばんだいすきなおともだちの、クロエちゃんにあげたかったの!」
 いちばん、とクロエが復唱した。
 貴瀬や瀬伊は家族だけど、クロエは友達だ。
「うん。いちばんの、おともだち!」
「……えへへー」
 照れたように、クロエがはにかむ。
「わたしも、いくおにぃちゃんのこと、すきよ!」
「しってる! りょうおもいっていうんだよねー」
「ねー」
 なんだか楽しくなって、二人して笑った。
 貴瀬や瀬伊が見守る中、くすくす、くすくすと。


「今、大丈夫?」
 紺侍の姿を見つけて、貴瀬は声をかけた。
「はい。平気スよ」
「ちょっとね、来てほしいんだ」
 ちょいちょい、手招きをして、人目につかないようにキッチンへ。さすがに、大勢の人の前で渡す気にはなれなくて。
 ただ、キッチンはキッチンで二人きり、という空間が強調されたような、気がする。
 ――……なんでかな、どきどきしてきた。
 郁には頑張れと言っておいて、自分はこれか、と呆れたような気持ちになったり。
「えっと」
「?」
「メリークリスマス」
 告げて、アルバムを渡した。丁寧に包まれたアルバム。
「俺にカメラを教えてくれて、ありがとう」
 アルバムの中には、貴瀬がこれまでに撮ってきた笑顔がいっぱいに詰まっている。
 最初の頃、まだおっかなびっくりに撮っていた写真から。
 つい最近撮った写真まで。
 たくさん、たくさん、選んで並べた。
 見る人が、紺侍が、同じように幸せな気持ちになってくれれば、と思って。
「紺侍が教えてくれたおかげで、本当に素敵な笑顔にたくさん会えたから」
 少しばかりのお礼。
 とびきりの笑顔でそう伝えた。
「……喜んでもらえた、かな?」
 あまりに何も言わないものだから、不安になって訊いてみた、ら。
「や、……嬉しくて、言葉を失ってました」
 言葉を失くすってこういうことなんスねェ、と僅かに赤い頬で、笑う。
 不意に、したい、と思って。
 気付いていたけれど、気付かない振りをしていたものの力を借りる、ことにした。
「あのさ、紺侍」
「? はい」
「ヤドリギの下なら、キスをしてもいいって言うよね」
 どこかで聞いた、言い伝え。
 『ヤドリギの下で出会った二人はキスをしなければいけない』。
 テーブルの上。恐らくは、ケーキの飾り付け用に用意された、ヤドリギの飾りの傍で。
 貴瀬は、紺侍の頬にキスをした。
 ハロウィンの時は驚かされたから、今度はこちらが驚かせたくて、唐突に。
「え、……えっ?」
 それは成功したけれど。
「親愛のキス、だよ」
 こっちまで恥ずかしいのはどうしたものか。
 ――あとは、『いつもありがとう』って言えば終わりなのに。
 なぜか言えなくて、困った。