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はっぴーめりーくりすます。2

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はっぴーめりーくりすます。2

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24


 今日がクリスマスだという理由で、魄喰 迫(はくはみの・はく)は張り切っていた。
 朝も早くのこの時間。迫はマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)の許へ行き、
「マッシュ! パーティするぞ、パーティ!」
「……ええ?」
 まだ眠っている彼をゆすって起こした。そして、唐突だけれども構わず誘う。
 眠そうに瞼を擦るマッシュへ、「クリスマスパーティだ!」と言葉を重ねた。
「祭りだろ? だったらさ、楽しまなきゃだな!」
 ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)を呼ぼう。それで、騒ごう。ミスティーアが来るなら必然、東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)も来るだろうし、そうするとシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)が喜ぶ、かもしれない。迫は騒いで遊べるし、となると誰にとっても幸せな日になる。
「な! 悪くないだろ?」
 迫の誘いに、マッシュはあくびをかみ殺すことなく漏らし、
「迫の祭り好きにも困りものだね〜」
 軽く頭を振ってみせた。
 嫌か。駄目だろうか。
 素直に引きさがってやらないぞ、と策を弄じるために頭を回転させた時、
「……でも、迫の言う通り。たまにはこういうのも悪くないかもね」
 頷いて、マッシュがベッドから出てきてくれた。思わず、にんまりと笑む。
「アハハ、だろ! よっし、そうと決まったら飾り付けだ! 陰気なこの屋敷を見違える様相にしてやる!」
「わー、もう既に僕疲れた」
「早い! ほら、さっさと支度してやるぞ!」
 ああそうだ、プレゼントだって用意しなければ。
 誰に何をあげたら喜ぶだろうか、なんて、柄にもないことを考えて。
 パーティの準備を、進める。


 迫やマッシュに誘われて、屋敷を訪れて。
 しばらくパーティを楽しんでから、雄軒はシャノンと共にベランダに出た。
 窓越しに、ミスティたちがパーティを楽しんでいる声が聞こえる。が、どうしてか随分と遠い世界のもののように思えた。
 今は、シャノンと二人きり。
 ――去年とは大違いですね……!
 寂しい一人鍋の記憶が蘇る。あれは辛かった。いや、楽しくないわけではなかったのだが。
「やはり、こういう日は愛する人と共に居ないといけませんね」
「えっ……」
「いえ。何でもありませんよ」
 にこり、微笑み肩を抱く。
 柔らかな感触。心地良い体温。
 堪能してから、唇を重ねた。甘い香りが鼻腔をつく。
 幸せだと思った。好きな人をこの手に抱けて。口付けを交わして。
 ――愛しい。
 好きで、好きで、どうしようもない。抱き寄せても気持ちは収まることなく、むしろ募る一方で。
「私は、シャノンがいないと駄目な男になりました」
「……私も、雄軒が居ないと、……」
 最後まで言えず、恥ずかしそうに俯くところも可愛い。
 横顔にキスをして、ゆるく抱く。
「お互いに駄目ですね」
「ああ」
「でも私、それでいいと思っています。シャノンがいないと駄目ですけど、シャノンがいなくなることなんて考えてませんし」
「……っ、」
 さらり、伝えた言葉に、彼女は照れたようだった。
 ――ああ、もう。可愛いですね、この人は……!
 ――私を煽ってどうするつもりなんでしょうか。
「触れてもいいですか」
 熱っぽい色のこもった声に、シャノンが耳を赤くして頷いた。そっと、服の裾から手を忍ばせる。
 きめの細かな肌は、いつまでも触っていたいくらい滑らかで。
 撫でまわすと、ぴくり、シャノンの身体が震えた。
「あ、んまり、触ると」
「はい」
「向こうに、気付かれる……」
 ドア越しの、パーティを楽しむ三人にばれやしないかとシャノンが言う。ちらり、雄軒は部屋の中を伺い見た。と、ツイスターゲームに興じているらしく、迫とミスティーアがすごい体勢になっていた。白熱している。だからたぶん自分らに気付くことはないだろう。
「大丈夫そうですよ」
「でも、」
「嫌ですか?」
「……馬鹿。嫌じゃないから、歯止めが……」
 ああ、と雄軒は頷いた。確かに、こんな場所で昂ぶってしまったらよろしくない。それに、ずっとこうして触っていたら彼女の身体を冷やしてしまう。
 服から手を抜き、触るのを止めた。代わりに再び抱き締める。
「幸せです」
「……ん」
「今なら私、ドージェにも勝てそうです」
「それは言いすぎだろう」
「そうですか? でも、出来る気がしますよ」
 ふふ、とシャノンが笑った。からかうようなものではなく、純粋に楽しそうな声だった。
「あの、さ。雄軒」
「はい?」
「あの時、ずっと私のそばに居てくれて……ありがとう」
 ザナドゥでのことだろうか。雄軒はシャノンの髪を撫でながら、話を聞いた。
「一緒にヨミ様を守ってくれたり、危機から私のことを守ってくれたり……」
 それは、恋人として当然だと思うのだけれど。特に後者は。
「雄軒は、当然って思ってるかもしれないけれど」
 ばれていた。苦笑一つ。
「……私は、嬉しかったんだ」
「……はい。ずっと、守り続けますよ」
「ずっと?」
「ええ。貴方が望むのなら、永遠でも」
 彼女と、幸せにになりたい。いや、今も十分幸せだけれど。これからも、これ以上に。ずっと、ずっと。
 幸せも、彼女のことも、守れたなら。
 単に、実力だけを見るならシャノンの方が雄軒よりも強いけれど。
 雄軒には雄軒なりにシャノンを守る方法がある。また、彼女のためらなばどれだけこの手が汚れても構わないと思っていた。
 ――いくら汚れても、シャノンが綺麗にしてくれますし。
 誰かは、きっとこんな自分のことを罵倒するのだろう。
 だけど知ったことか。
「って……シャノン? どうして泣いているんですか。どこか痛いんですか?」
 腕の中で、彼女が泣いていた。驚いて雄軒はシャノンの目を見て問い掛ける。
「な、何でだろう……涙が、止まらないんだ……」
 しゃくりあげる彼女を抱き締める。どうしていいのかわからず、ただ、抱き締めた。抱き締めて、頭を撫でた。
「……わかった。私、嬉しいんだ……」
 ぽつり、シャノンの口から零れた言葉に目を開く。
「雄軒と一緒にまた話せることが嬉しい。また触れられることが嬉しい。一緒に歩いていけることが嬉しい……。
 それから……隣で笑い合えることが……」
「……っ、」
 泣くほど、嬉しいのか。
 ――そんなことを聞かされたら、今度は私の方が泣きそうじゃないですか。
「雄軒、……雄軒。大好きだよ」
 愛の言葉に続いて、シャノンの唇が雄軒に重ねられた。
 二度目のキスは、深く長く、そして今までのどのキスよりも、甘かった。