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ユールの祭日

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ユールの祭日
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●●● 近藤勇血風録

「ご老人、鍬次郎を破ったってのは、あんたかい。
 近藤勇、天然理心流。手合わせ願いたい」
近藤勇の胸では仇を討とうという気持ちと、この歴史的剣豪と一戦交える喜びとがないまぜになっていた。

「また男かね、わしゃ男に興味はないんだがのう」
一刀斎は軽い調子で言うが、その目には暗い剣気が潜んでいる。

「今宵の虎徹は血に飢えてる……って所か」
残念ながらまだ日は落ちていない。
近藤は愛刀・虎徹を構える。

「ではこちらから行こうか」
一刀斎は剣を抜く。
次の刹那、剣は近藤の鼻先にまで迫っていた。
それを刀の鍔元で受け、カウンターで斬り返す。

龍尾剣、近藤勇の必殺技である。

しかし一刀斎の技と膂力は近藤の想像をはるかに上回っていた!
一刀斎は相手を甲冑もろとも両断する達人だったのである。

大瓶をも両断する剣、『瓶割刀』である。
その剣技を受けた近藤は体勢を崩し、カウンターも不発に終わる。

そこに一刀斎の二の太刀が振られ、近藤は地を這った。


●●● バベル

サクラコ・カーディは歴史や神話に関心があった。
もともとは故郷に関心があっただけだが、最近では他国や地球にも関心が広がっている。
これがサクラコの、今回の強みであった。


対戦相手はベイバロン・バビロニア。

「ふふ……英霊ではなく獣人ですのね。獣の扱いには慣れていましてよ。
 猫ちゃんに乗ってみるのも、たまさかにはよろしゅうございますわね」

ここの『乗ってみる』は卑猥なニュアンスである。

サクラコはこの戦いがバイベロンに有利であると感じていた。


この戦いがシャンバラ大宮殿で行われているのは、たぶん大宮殿が世界樹イルミンスールや“アトラスの傷跡”と同じく、『ユールの呪力』の中心点となるからなのだ。
シャンバラ大宮殿は自然物ではなく、巨大な人工物である。

となれば、これは『バベルの塔』と相似する。
バビロンの大淫婦を自称するバイベロンが、この塔からより恩寵を受けていても不思議はないのではないか?

しかし先の戦いで使われた『黙示録の獣』が再度召喚されれば、まだ勝機はある。
黙示録の獣は、七つの首を持つ怪物だ。
いまのサクラコの手には、八岐大蛇にも抗するだけの力を持った武器がある。
これならば、まだ『黙示録の獣』を倒せるかもしれない。


……とそんなことをサクラコが考えていると、バイベロンが先手を打ってきた。

バイベロンを見ていると、なんだかぼーっとしてくるのだ。
全身がなんとなくむず痒く、熱くなる。

「ふふ……わたくしの通称は『大淫婦』ですのよ。
 あなたの欲望、叶えてさしあげてもよろしくてよ?」

『バイベロンの気』、それは相手に淫らな欲望を引き起こさせる術であった!
あまり丁寧に描写すると18禁になる危険を伴う恐ろしい技である。

「ふ、不覚! このままでは私の恥ずかしい姿が衆人環視に!
 そ、そうだ!」

サクラコは必死で猫の姿に変身する。
これならただの『さかりの付いた猫』なので、全年齢対象ゲームでも大丈夫だ!
(※大丈夫じゃありません)

熱くなった体をゆらゆらと揺らして、サクラコはベイバロンに迫る。
ベイバロンは『危険な獣を乗りこなす者』であり、サクラコを支配しようとする。

乗るか乗られるか、相手に乗ったほうが勝利する戦いである。

「みゃーー! みゃみゃみゃー!!!」
「ふふ、おいで、子ネコちゃん。かわいがってあげますわよ?」

サクラコはばっと跳んだ。
バイベロンは避けようとするが、避け切れない。

「うみゃー!! みゃ、みゃみゃーー!!!」
「あ、ああーー!!」

サクラコが激しくじゃれついた。
いや、攻撃だった。


しばらく立って、後には立ち上がれなくなったバイベロンと、汗だらけのサクラコが立っていた。

「あぶないところでした。
 私の恋愛対象が男でなければ負けていたっ……!」


●●● 静と義経

戦場に立ったのは僧兵姿の大男。
武蔵坊弁慶のコスプレをさせられたラルク・アントゥルースである。

「五条大橋の戦いで負けた大男なんだからさ、弁慶やってよ弁慶」
という理由で、九條 静佳に乞われてこんなことをしているのだ。

一方の相手方は、親魏倭王 卑弥呼と董卓 仲穎(とうたく・ちゅうえい)である。

デートにいったんじゃないのかって?
ここがデートの先なんだよ!!

しかし他のクリスマスデートシナリオでは呼び出し可能リストに入っていない董卓と一日を過ごすのであれば、これより他に手立てがない。


というわけで奇しくも2対2の対決となった。

「すまん、俺はあの董卓とやってくる!」
そういって弁慶ことラルクは董卓に挑んでいった。

静佳は卑弥呼の鬼道を見ていたので、誰を呼び出すものか気になった。
まさか、兄の頼朝であろうか。

「おぉぉぉぉ……わぁしぃは、ふぅじわらぁの……」

「藤原だと? さては泰衡(やすひら)か!」

義経は兄である頼朝に追われる身となり、奥州藤原氏を頼って過ごした。
しかし最後にはその藤原氏の泰衡に裏切られ、妻子を殺害、自刃している。
冷静だった静佳も、これには全身の血が逆流するような思いがした。

「かげきよぉぉぉなぁりぃぃぃ!!!」
「なんだと、景清だって!?」

静佳、想定外のことに拍子抜けする。

藤原景清(ふじわらのかげきよ)、または平景清は源平合戦で活躍した平家方の武将である。

景清は壇ノ浦で敗北し、その後虜囚となって果てたと考えられているものの、細かい素性が明らかでないこと、恐るべき怪力を誇ったことから、生き残ったとする様々な伝説や創作物が生まれた。
ある意味で英霊の中の英霊といえよう。

「なるほど『出世景清』か」
柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)がつぶやいた。
人形浄瑠璃や歌舞伎の演目で、生き残った景清が源氏に復讐しようとする物語である。

卑弥呼はがっと静佳に組み付いてくる。
景清は素手で兜も引き裂く大力の持ち主、触れられるだけでも無事では済まない。
静佳はひゅんと飛んで、遥か後方にまで逃げた。

『八艘飛び』だ。

「えっ!? 何やってんの静佳! もっと攻めていかないと!」
伏見明子はパートナーの様子に声を出す。

「いやいや、景清殿はなかなかどうして豪傑なんだよ。
 むやみに攻めて勝てる相手じゃないんだ」
明子に反論する静佳。

そうしている間にも、卑弥呼/景清がすさまじい勢いで迫ってくる。
静佳は辛うじて避けたものの、卑弥呼の拳は壁をも砕く。

「なにしろ景清は牢屋に入れても牢を破るからな。素手で」
これは氷藍の感想だ。

「やってらんないよ、おさらばだ!」
静佳はとっととその場を逃げ出した。

まさかの対戦者逃走による決着である。


一方その頃、ラルクと董卓はがっぷり四つに組み合っていた。