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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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地球に帰らせていただきますっ! ~4~

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 ■ 遅ればせの墓参り ■
 
 
 
 やっと休暇で日本に戻れた閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、幼馴染の魅音の墓に参ることにした。
 途中、供花を買っている静麻に、先に行っていると声を掛け、獅子神 刹那(ししがみ・せつな)は一足先に魅音や静麻の家族が眠る寺へと向かう。
「よ、御堂、久しぶりだな」
 寺に顔を出すと、刹那は御堂 秋彦を呼び出した。
 この寺の嫡男である秋彦は、つい最近僧侶としての資格を取った。新米僧侶の仲間入りをした訳だが、僧服に袈裟をかけている他は、普通の若者と変わりない見た目だ。
 それでも僧侶は僧侶。これで静麻が来たらすぐに墓に案内できる。そんな風に思っていた刹那は、秋彦の視線に気づき、持ってきた木刀を突きつけた。
「御堂、どこ見てやがる」
 秋彦は慌てて視線を刹那の胸から引きはがす。
 僧侶となったとて、煩悩旺盛な秋彦だから、胸の大きな女子が近くにいれば自然とその胸を凝視してしまうのは必然。またまだ修行が必要なようだ。
「あたいの胸拝むなら見物料払いやがれ!」
「見物料取るのかよ! つか、ふつーこういう時ははずかしがらねーか」
「人の胸、ガン見しといて文句かよ。相変わらずいい根性してやがるな」
 まったく坊主らしく無い、と刹那は憎まれ口を叩いた。
 
 
 その頃静麻は、墓への道をゆっくりと歩いていた。
 ここは静麻や幼馴染の育った街。
 家族も住む家も失ってこの街を出てから、もう5年になる。
 パン屋がコンビニに変わっていたり、元は何が建っていたのか思い出せない駐車場があったりと街もずいぶん様変わりしているけれど、花を買った店や家族の墓のある寺など所々変わっていない場所もある。
 今の景色につい昔を重ねて眺めつつも、静麻は足を止めることなく寺へと向かった。
「静麻、おせーっつの!」
 先に到着していた刹那が静麻の姿を見てそう言う。
「そうか? 寄り道をしてきた覚えはないが……」
「おせーよ。魅音はきっとずっとあんたを待ってたんだからな」
「あ、ああ……随分遅くなってしまった」
 けれどようやく来ることが出来た。
「こんなのだけど、坊主も用意しておいたぜ」
「何だよその言いぐさは」
 ぶつぶつ言う秋彦に、手数をかけるなと声を掛けると、静麻は幼馴染の魅音の墓へと向かった。
 
「魅音、静麻の馬鹿がやって来たぜ?」
 刹那はひしゃくで魅音の墓に水をかけ、墓の埃をすすいだ。
 秋彦の読経が流れる中、静麻は墓に花を供えて手を合わせる。
(魅音、今までこれなくてごめん。お前が死んだって事実、やっとこさ受け止めれた)
 初恋は実らないものとよく言われる。刹那にとって初恋の相手だった魅音がこうして死んでしまったことからも、それは本当のようにも思えた。
(……俺はお前を愛してる。この事実は今も変わらない。変わらないが、この想いだけに囚われなくっても良いよな?)
 魅音への想いは未だ変わらず静麻の胸にある。けれどそこに固執して動けなくなることを魅音は望まないだろう。
 静かに墓と向かい合っている静麻の背を、少し下がったところから刹那は見守る。
(魅音、何で1人だけ逝っちまいやがったんだよ。残される身にもなりやがれってんだ)
 生きていて欲しかった。静麻の為にも。
 そんな詮無いことを考えながら。
 
 
 魅音の墓参りをした後、静麻は同じ寺にある家族の墓への短いお参りを済ませた。
 その後は秋彦と刹那と別れ、静麻は1人で街をぶらぶら歩いた。想い人との昔を脳裏に蘇らせながら――。