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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

リアクション


4 ダークサイズの月軌道上で攻防!

 ブラッディ・ディバインと(真剣に)宇宙戦闘を繰り広げている、浮遊要塞アルカンシェルを擁するニルヴァーナ捜索隊
 戦況の変化を敏感に感じ取り、ブラッディ・ディバインが戦力の一部をあらぬ方向に向けているのを注視する。

「なっ……どうなってんだ? なんで向こうの機晶姫があんな方向に……?」

 フェイルノート・アトラスのコックピットで、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は大量の機晶姫が方向を変えていくのを見て、状況を把握しようと味方に通信回路を開く。
 勇平と、彼のサブ搭乗者ウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)は、以下のような会話が流れるのを聞いた。

「ボク、疲れてんのかなぁー。今ありえないものが見えた気がしたんだけど」

 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)深き森に棲むものの中で、目をこする。

「どうしたのだカレン。おぬしがそんな世迷言など」

 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、カレンが疲労を訴えるなどほぼ信じずに生返事。
 カレンも気を取り直して首をかしげ、

「だよね。こんなところにダイダル卿がいるわけ……」
「あれっ、もしかしてあんたも見えた? ラピュマル!」

 カレンと同じように妙なものが見えて、アルカンシェル内で通信を拾いながらその方向を観察していたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、カレンに話しかける。

「まだ望遠で小さく見える程度だけド、ワタシにも見えたワ」

 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)ジャイアントピヨをこちょこちょ撫でながら言う。

「ニルヴァーナに行くって言ってたけど、マジだったんかい……しかもこんな早く」

 てっきりダイソウの適当発言だと思い込み、本気にしないで捜索隊に参加していたアキラだが、あっという間に彼の気持ちは切り替わり、

「面白そうだから、あっちについていこーっと♪」
「あの、アキラさん? 私はどうすれば……」

 早速ジャイアントピヨに乗り込むアキラとアリスを、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)が引き留めて指示を仰ぐ。

「決まってんじゃん。ラピュマルで誰がピヨのお世話するんだよ?」

 と、アキラはセレスティアの手を引っ張る。
 セレスティアは戸惑いながら、

「で、でもピヨさんに過剰積載は……」
「だいじょぶだって。異界ブースターもあるし、大した距離じゃないから何とかなるっしょ!」

 と、アキラはノリでセレスティアを乗せてしまう。
 一方のカレンもイコンの向きを、ラピュマルに向かう機晶姫隊に向ける。

「か、カレン!? まさかおぬし」
「決まってんじゃん! ダークサイズがホントにこっちに来てるなら、ボクたちの道はひとおーつ!」
「やれやれ、まったくおぬしときたら……」

 ジュレールは、言葉上ではしぶしぶ、という感じを出して、武器の弾数をチェックする。

「あ、言っとくけどジュレール。ラピュマルに着いてもその妖精コスプレ、脱いじゃダメだよ」
「なぜじゃ! 恥ずかしいではないかー!」

 ジュレールの叫びを残し、アキラ機を追ってラピュマルの方へ向かう。

「なるほど、そういうことか」

 カレンとアキラの会話で戦況の変化を納得した勇平。
 ウイシアは記憶をたどりながら、

「ダークサイズ……といえば、確かパラミタ大陸征服を狙う、悪の秘密結社でしたわね……あんなに堂々とやってきて、目立ちたがりな秘密結社ですこと」
「ダークサイズは機晶姫を避けながら戦うだろう。俺達は追いながら戦う。ちょうど挟み撃ちになるな……よし、あの程度の援軍じゃあ心もとない。俺達も行くぜ!」
「……勇平君? ダークサイズが悪い人の集まりだってこと、お分かりですわよね?」

 ウイシアの声が極端に穏やかに変化したことで、勇平はぎくりとするものの、

「い、いや、敵の敵は味方ってことさ! あれだけの数の敵を引き受けてくれるんだ。捜索隊もかなり楽になるんだぜ? 俺達からも応援を送らなきゃ、それこそ正義にもとるってもんだ。あくまで一時共闘にすぎないんだって!」
「……ちょっと後でお話をしましょ……」
「よっしゃああああ! いっくぜえええ!」

 気合いでウイシアの声をかき消し、勇平は冷汗をにじませながら発進した。


☆★☆★☆


 洋が、ラピュマルに催促の通信を入れる。

「イコン部隊はまだか!? 間もなくそちらに到着してしまうぞ!」
「あー、たぶん間に合わぬのう……」

 大佐は慌てるラピュマル上の様子を見ながら言う。
 ダイソウはイコンの準備状況を見ながら、

「異界属性のあるものは整い次第出撃せよ。洋、敵の数は?」
「およそ100体!」
「うーむ。駒が足らぬな。ラピュマル本土決戦も視野に入れねば」

 ラピュマルの外で戦えるのはわずか6機。残りは異界属性がないため、ラピュマルから地対空攻撃を強いられる。
 異界属性付きでまず飛び出したのはゲドー機。
 バリアの膜を通り抜けると、キラリと機晶姫の光の群れが見える。

「げっ、もうこんな近くまで迫ってんじゃん」
「よかろう! ならば私がダークサイズの危機を救う救世主となるまで! 参るぞゲドー!」
「仰せのままに、救世主サマ〜」

 ゲドーはやたらと皮肉めいた態度で、シメオンに返事をする。

「せっかくダークサイズに入るって決めたんだ。手土産に機晶姫を捕獲して、戦闘員にしてやりてぇとこだけど……数が多いぜ! 他の奴らはまだかー?」

 ゲドーは前進しながら振り返る。
 ちょうど綾香機とノーン機が追いついてくるが、

「この触手ども! こういう時くらい大人しく……あっ、ちょ///」

 綾香機に関しては、妙な動きをしていて、活躍できるか微妙である。

「ぜぇ〜ったいみんなで宴会するんだもん! 邪魔しちゃダメだよー!」

 と、ノーンはいきなりミサイルポッドを解放し、迫る機晶姫に全弾撃ち込む。
 ミサイルは洋機、ブルタ機、ユノ・ララ機とスレスレですれ違い、3体ほどに命中。
 外れたミサイルも機晶姫に迎撃されて爆発し、煙幕を張ることに成功する。
 ようやく援軍が合流したかと胸をなでおろした洋は振り返り、

「ふははははっ! 貴様らの進撃はここまでだ。今より反撃を開始する! つまり、ずっと私たちのターン! みと、【20ミリレーザーバルカン】【ミサイルポッド】片っ端から順次解放!」
「ダイソウトウもですが、洋様も本当にお好きですわね。準備はできておりますわ。いつでもどうぞ」

 みとのゴーサインを受けて、洋は足元から上ってくる痺れるような震えをぞくぞく感じながら、

「受けとれい! これは、我々からの宣戦布告の狼煙である!
ぅおおおおオオオルハイルッ! ダークサアアアアアイズ!!

 雄叫びと共に、洋機から次々とミサイルが放たれる。
 進撃の勢いを止められた機晶姫たちの隙を突き、ユノ・ララ機も引き返し、機晶姫の首級を一つでもあげようと、分離した単体を狙って回り込む。
 ブルタは、ビデオも撮りながら機晶姫パーツの回収も目論み、さらにワープで敵の背後を狙うなど、かなり忙しい。
 綾香機は、パイロットの混乱もあって、

「ひうぅ、こ、こんのおおお!」

 めったやたらにライフルを放ち、それが結果的に機晶姫を隊列から分離することに成功。

「くらいやがれあたーっく」

 時々タンポポがいたずらに操縦桿をいじって体当たりをするが、ゲドー機も【電磁万国旗】で機晶姫の捕獲を狙う。
 ただ、

「やっべ! 多すぎて捕獲どころじゃねえ!」

 単純攻撃を仕掛ける機晶姫に、生け捕りはかなりてこずっている。
 数の力に押されて、機晶姫は徐々にラピュマルに迫る。
 ラピュマル上のイコン達は、機晶姫が射程距離に入るまでは、砲を構えてじりじりと緊張感に覆われている。

「多少のリスクはあるが……ダイソウトウさま」

 アルテミスがダイソウに駆け寄る。

「異界属性のない者には、我のバリアを一部割くことにいたしましょう」
「そんなことができるのか」
「選定神たる我の魔力において、不可能などありませぬ。ただ、解放する魔力が増える上に、イコンの出力も7割ほどに落ちます。さらに時間制限が……」
「うむ、捜索隊の異界ブースターのようにはいかぬが、やむを得ん。異界属性のないイコンは、アルテミスの加護を受けよ!」
「ラピュマル外での稼働時間は2分から3分と心得よ。バリアの魔力が消えかけたら、ラピュマルに戻ってくるのだ」

 ダイソウとアルテミスから指示が飛ぶ。

「ダイダル卿、敵の群れを迂回しながら月を目指せるか?」
『もうそうしとるわい。タイムロスがあるからアルテミスが心配じゃのう』
「祥子、シシル、子敬! ご飯はどうした!」
「はぁーいっ、ただいまー!」

 アルテミスの食事の催促も、逼迫感が増す。
 この状況でも、マナは食べるのをやめない。
 というか、届いた皿がマナのお腹に直行するターンが続いており、アルテミスがほとんど食べれていない。
 向日葵はさすがに不安になる。

「ねえクロセルくん、中断した方がよくない……?」
「この調子で、ダークサイズとブラッディ・ディバインが潰しあってくれれば恩の字ではありませんか」

 と言うものの、クロセルの目は泳いでいる。
 一方で、待機組だったイコンがアルテミスのバリアに触れると、ちょうどその一部がイコンに乗り移るようにまとわりつく。
 シャボンの膜がイコンを覆っているような形だが、

「へえーっ、選定神の加護ってのはありがてえな。よしいくぜッ! ソードウィング/H!」

 ヴェルデ機は変形してラピュマルから飛び立つ。

「おおーっし! ここでダークサイズ助けてネネぱいとモモぱい! 後でダークサイズぶっ倒しておっぱい(向日葵)のおっぱい(おっぱい)! 色んなサイズを揉み放題だぜーっ!」

 ゲブーは皮算用をしながら出撃。
 泰輔も後ろに顕仁を乗せる。

「しゃぁないなー。茶の湯でけへんかったら困るし、行くで顕仁」
「泰輔。苦労して買った機体なのだ。あまり乱暴にするでないぞ」

 リアトリス機は、長距離射撃の用意をする。

「アリア、【高初速滑腔砲】の充填は?」

 リアトリスがライフルを放ちながらメアトリスに確認。

「よしっ、いつでもOK!」
「11時に5体固まってるよ。狙うなら今!」

 ベアトリスが照準を指示し、

「てえっ!」

 リアトリスが砲を放つ。
 ミーナは、前の席で考え事をしている淳二をせっつく。

「ねえ! 私たちも早く行かなきゃ!」
「……ダークサイズらしい戦い方、ダークサイズらしい戦い方……そうだ!」

 淳二は何を閃いたのか、踵を返してダイソウの元へ。

「ダイソウトウ! 一緒に出撃だ!」
「む? 私がか……よかろう!」
「ちょと待ったー!」

 例のごとく後先考えずに同意するダイソウを、菫が止める。

「あんたが行ったら逆にラピュマルぶっ壊しかねないわよ! さっき全然イコン操作できてないの、見てたんだからね!」
「大丈夫だ、菫。俺に考えがある」

 淳二が強引に菫を押し切り、ダイソウが乗ったDSI−LLを羽交い絞めのように後ろから抱える。

「でえーいっ!」

 淳二機はダイソウ機を抱えたまま、ジャンプしてバリアから出る。

「いいかいダイソウトウ。まずは歩くことだけを考えるんだ」
「歩く……歩く…………歩く……っ!」

 ダイソウは念じるように呟きながら、イコンを操作する。
 すると、やはり操作を間違えて、ダイソウトウキャノンが発射される。
 ごうっという音と共に、隊列を戻しつつあった機晶姫を数体破壊しつつ、分断する。

「よしッ!」

 と、淳二はダイソウ機をラピュマルに投げ捨て、今度は破壊されたDSIの頭部やらアームやらを投げ、機晶姫の判断を狂わせてバックアップを開始。

「こらー! 私のDSIをそんなふうに扱うでない!」

 綾香は悶えながら文句を言う。


☆★☆★☆


 ラピュマルは機晶姫隊との直撃を避けながら月を目指し、イコン隊は善戦しつつも、アルテミスの加護を受けている者はラピュマルとの往復を強いられるため、依然不利な状況が続き、機晶姫隊に囲まれそうになっている。
 流れ弾がいくつか、ラピュマルのバリアに弾かれる。つまり敵の攻撃が届く距離まで迫られている。
 気づけば、ラピュマルはニルヴァーナ捜索隊本隊とそう遠くないところまで来ていた。

「やれやれ、全くやっかいなものだ。流石のツヴァイも無傷とはいかないな……」

 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は、敵機晶姫との戦闘に明け暮れ、これ以上の連戦は危険だと、愛機{ICN0003887#シュヴァルツ?}のモニターを撫でる。
 修復と補給をしたいところだが、戦線の拡大でアルカンシェルとは距離をあけてしまった。

「機晶姫を突っ切って帰還するのは……危険か?」
「グラキエス様。どうやらロアが、味方らしき艦隊を発見したようでございます」

 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が後部座席から慇懃に声をかける。

「ロア。それはどこにある?」

 グラキエスに呼ばれたロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)は、魔道書の状態で機体の外に接続して(張り付いて)いる。
 活動は出来ないが会話はできるようで、

「ちょうど4時の方角を見てください。捜索隊の艦隊データにはありませんが、機晶姫と戦闘しているところを見ると、登録外の後続部隊のようですね」
「あちらなら近いな。丁度いい、あれに一時退避するぞ」

 と、グラキエス機はラピュマルに向かう。
 イコンの往復が必要になっているラピュマルでは、アルテミスが「イコンは味方」という認識でバリアの通りぬけを許可しているようで、グラキエス機もラピュマルに着地できた。

「すまないなツヴァイ、こんなに傷だらけにしてしまって。今補給と処置をしてやろう」

 グラキエスのイコンに対する愛情はけっこうなもので、愛おしそうにイコンの傷を撫でて話しかける。
 ラピュマル内に漂う、戦闘に似つかわしくない香りがグラキエスの鼻を突き、彼はふと周りを見る。
 それを見たエルデネストが微笑む。

「おやグラキエス様。空腹なご様子で」
「ああ、少しな」
「あちらに食事が用意されております。後続部隊はなかなか気がきくようですね。私が食後のティーを淹れましょう」
「ツヴァイは私に任せて、エンドは身体を休めることに専念してください。ヴァッサゴー、頼みますよ」

 と言い残し、ロアはイコンの補給物資を求めて去っていく。
 早速グラキエスは、アルテミスやマナが戦闘そっちのけで食事をしているのを大して気にも留めず、食卓の和に加わる。

「中華と和食が多いようだが……まあ悪くない」

 イコンの携行食よりはましだと、グラキエスはアルテミスの残り少ない肉じゃがを奪って、口に含んで目をつぶる。

「爆音と機械音をバックに、食事と紅茶か……なかなか乙なものじゃないか?」
「ふふ……左様でございますね。新たなお茶の楽しみ方を発見した気分でございます。近々、またこのような嗜み方もしてみたいものですな」

 と、ティーセットを整えながらエルデネスト。
 本人には全く自覚がないのだが、ダークサイズの本来の目的『戦場のティーパーティ』を先駆けてしまったグラキエス。

「あら、道理で質の良い紅茶の香りがすると思いましたわ」

 どこからともなくネネがやってきて、グラキエスの隣に座る。

「まあ、お茶会って月に着いてからじゃなかったの? ここでもやるならそう言ってくれればいいのに」

 続いてどこに隠れていたのか、白雪 魔姫(しらゆき・まき)がネネと挟む形でグラキエスの隣に。
 後ろに控えるエリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)は、少し怯えながら、

「ま、魔姫様……? この状況でお茶会に参加するんですか? 何だか落ち着かない気が……」
「このためにわざわざ宇宙までやってきたのよ? 何が問題があったかしら」
「いえ、あの、大丈夫ならいいです……」

 とにかくやるならばお茶の用意をせねばと、エリスフィアはエルデネストと並んで紅茶を入れる。
 ラピュマルがピンチを迎える中、何故か両手に花のグラキエス。

「……お主ら、いい加減にせい……」

 アルテミスの機嫌がかなり悪いが、実は空腹感がかなり増しており、制裁を加えるほど力が入らない。

「ずいぶんと、荒削りな要塞を用意したな」
「あの、アッサムティーはいかがですか?」
「そうそう、手ぶらというのも何だし、ワタシお茶うけを用意したのだけれど、どう?」
「こちらは茶葉を手作業で炒った、高級アールグレイでございます」
「ところで、どちらの方ですの?」

 などと、戦場のミニパーティをひとしきり楽しんだころ、DSIの残骸から回収した(パクってきた)使えそうな物資を抱え、ロアがやってくる。

「エンド、どうです? 身体のほうは?」
「ああ、俺はいつでも動ける」
「結構。まだ戦闘は続きます。食糧物資を少々積んで、出撃と参りましょう」

 エルデネストはティーセットを素早く片付け、さらにテーブルの上の唯一の食糧、ドラ焼きをひょいひょい取っていく。

「それは私のドラ焼きなのだっ!」
「待て、我のものであろうが……」
「ああ、お構いなく。こちらはこちらでやっておりますので」
「我の数少ないご飯を、勝手に持っていくな」
「勝手に? こちらは、捜索隊を支援する後援部隊なのでしょう? では問題ありませんね」

 エルデネストの良く分からない口車で、もはや力が入らないアルテミスは、食べ物をかっさらわれるのを止められない。

「では、ブラッディ・ディバイン撃破のため、ともどもに頑張ろう」

 と言い残して、グラキエスたちはラピュマルの物資を奪って去って行った。
 そうとは知らず、祥子とトマスが走って来て、

「アルテミスさま、次のお皿がダシに時間がかかってて……あれーっ! 何にもない!!」

 と慌てるが、アルテミスはうるうると目に涙を溜め、

「……」

 ぱたりとテーブルにうつぶせた。