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 緋影は詩歌の体を洗った後、続けて詩歌の乳白金の長い髪を洗っていた。
「お互い、髪が長いといつも時間がかかってしまいますね」
「……うん」
 詩歌の目の前の鏡には、髪を優しく洗う緋影の姿があった。年齢は詩歌の方が上だし、身長も緋影よりちょっぴり高い。ただ……違和感を感じる。
「なんだか、やっぱりひーちゃんのほうがお姉ちゃんみたいです。あ、でもでも私のほうが年上ですから私がお兄ちゃん……あれ、お姉ちゃん? ……になるのかな?」
「急にどうしたんです?」
「……」
 正面の鏡に映る緋影の上半身。プールの更衣室の時にも再確認させられた緋影の豊かな胸が詩歌の視界に入ってくる。
 詩歌が自分の胸元に目線を向けると、成長の兆しが見られないぺったんこな胸があった。
 詩歌は「胸が大きくていいなぁいいなぁ」という羨望の眼差しを鏡越しに向ける。
 そんな詩歌の悩みなど知らない緋影は、詩歌を励ます。
「ふふふ……しーちゃん? 姉妹でも妹の方が背が高いことなんてよくあります」
 確かに、街を歩いていてもよく年齢の上下を間違われることがあった。だが、詩歌をしーちゃんと呼び可愛がる緋影にとっては、全て些細な事なのだ。
「さ、目を瞑って下さい。シャンプーを落としますからね?」
「うん」
 頭頂部から温かいお湯が流れていくのを感じる詩歌。そして、時折、緋影の胸の感触を背中に感じる。
「……」
 髪を洗ってもらった詩歌は、また緋影と体勢を入れ替えようとする、と、その時にまた揺れた緋影の胸を今度は真っ直ぐ見つめる。
「ねー、ひーちゃん?」
「はい? どうしたんです?」
「どうしたら、胸って大きくなるのかな?」
「……え!?」
 緋影は初めて詩歌が自分の胸を見つめている事に気付く。
「しーちゃん……そ、それは……」
 困った顔の緋影が先に湯船に浸かるセリティアを見つめるが、セリティアはニヤニヤしているだけである。
「(ふむ……面白いことになってきたようじゃな)」
 セリティアは、入浴中に始まった詩歌と緋影のやり取りを観察しながら、緋影がどう答えるのだろうとニヤニヤしながら見守るつもりであった。
「ひーちゃんは、胸が大きくていいよね。私なんて、一向に……」
 シャンプーの泡みたいに簡単に流せぬ空気を感じ取る緋影。
「(ど、どうしましょう……しーちゃん、結構本気で悩んでますし……)」
 緋影は意を決して真正面から答えることにした。
「だ、大丈夫ですよ。これは、成長期になったら……ほら、勝手に大きく……」
「私の方がひーちゃんより歳上だよ?」
「え、えーっと……その、成長期っていうのは人によってそれぞれ違いますし」
「このまま、大きくなることなく終わるって事もあるの?」
「……ま、マッサージ! そうマッサージです! 毎日お風呂でマッサージすると大きくなりますよ」
「ひーちゃんもしてたの?」
「え!? えー……ワタシは特に……」
「……やっぱり自然にそうなるんだよね」
「で、でも。大きいって大変ですよ? 下着も中々サイズないですし」
「無いよりはマシだと思うもん」
「……」
「(ぷぷぷ。緋影が詩歌に押されておるようじゃのう……)」
 セリティアは、緋影が必死に詩歌を納得させようとしている姿に笑いをこらえる。
 絶体絶命の緋影は、フゥと溜息をつき、優しく語りかける。
「ねぇ、しーちゃん? 最近胸がドキドキした事あります?」
「え? う、うーん……」
 不意を突かれた詩歌が今度は防戦に回る。
「ひーちゃんはあるの?」
「ワタシはありますよ」
「え? え? 何?」
「ワタシはしーちゃんを見ていると胸がドキドキします」
「へ?」
 緋影は詩歌の手を取り、自らの胸に当てる。
「ほら? ドキドキしているでしょう?」
「う、うん」
 掌に伝わる緋影の柔らかさを感じる詩歌。
「ワタシは、こうやってしーちゃんと毎日を過ごしているんです。だから、大きくなったんですよ?」
「そうなの!?」
「はい……」
 優しく笑う緋影。
「だから、しーちゃんも胸がドキドキする毎日を送って下さい。それはどんな事でも構いません。しーちゃんがドキドキした分、胸も大きくなります」
「本当!?」
 目を輝かせる詩歌。
「だって、ワタシがしーちゃんを見てこういう大きさになったんですから。素直で無邪気しーちゃんは、ワタシより、もっと輝くような、胸がドキドキするような、そんな体験を一杯できます。そうしたら、きっと、気付けば大きな胸になっていますよ?」
 緋影の言葉に詩歌は「うん、うん」と何度も頷く。
「納得して頂けましたか?」
「うん! 私、もっと色んな体験するよ! そして、一杯、いーっぱいドキドキして、ひーちゃんと同じ位大きな胸になってみせるもん!」
「ふふふ、ワタシより大きくなるかもしれませんね? ……ヘプチッ!?」
 ずっと話をしていたせいか、緋影がくしゃみをする。
「あ、ひーちゃん! 風邪引いちゃうよ! ほら、私が髪洗ってあげるから!!」
 詩歌は緋影の髪を大慌てで洗い始める。
 様子を見ていたセリティアは、小さく苦笑する。
「(緋影め……自分を見てドキドキしろと言わないところが、いじらしいと言うか、おぬしらしいと言うか……)」
 その後、髪を洗い終えた詩歌と緋影も湯船に浸かる。
 胸が大きくなる秘訣も緋影から聞いた詩歌は、温泉に浸かる緋影とセリティアの気持ち良さそうな姿を見て、「温泉に入りに来てよかったー」と、へにゃへにゃと顔を綻ばせて嬉しそうにする。そして、明日からまた、もっと胸がドキドキするような体験をしていこう、そう強く思うのであった。