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海の都で逢いましょう

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●ビーチでビッグなBBQ!(1)

 白い砂浜には、白い煙がよく似合う。
 すでに会場では、派手にバーベキュー大会が行われているのだった。火格子式のグリルや焼き網がずらりとならび、肉や野菜、魚介類を燻してもくもく、空の雲に負けぬほどの煙を立てている。
 寄せては返す波が、ビーチの砂を運んで戻した。
「これが人工的に造られたものだとはね……本物と区別がつかないな」
 潮騒が耳に心地良い。湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)は制服姿――それも、天学の白い詰め襟姿だ。本来は教導団員であり、天学に所属しているのはあくまで『出向』の扱いなのだが、どうも最近、この制服のほうが自分に合っているような気がしてならない。
 亮一に相づちを打つのは、英霊坂本 竜馬(さかもと・りょうま)だ。
「そもそもこの陸地がすべて作り物ちゅうことだが……ふーむ、これだけの陸地が人工物とは、いやはや、時代の流れとは凄まじいものじゃのう」
 竜馬は着物姿。懐手して立ちつくしている。人工物としての海京の見事さに舌を巻いているようだ。
 竜馬が人として生存していた時代、日本はようやく世界に眼を向けようとしているところだった。それが現在、日本はメガフロート海京を造り出し、ここを地球側のゲートとして、軌道エレベータを用いて天のシャンバラに繋がるに至った。
 そのようなハイテクの極みにあるこの海京に、ごく自然な(ように見える)砂浜があり海と調和しているところに、いたく興味を惹かれたらしい。竜馬は、手近な生徒会の人間に問うのである。
「そこのお嬢、どうしてこのような砂浜が造られているのか、よければちっくとわしに説明してくれんか?」
「お嬢……? まあ、この格好じゃ女ってバレても当然ね」
 竜馬に呼びかけられたのは十七夜 リオ(かなき・りお)だった。
 本日、リオは上品な青いビキニの上に、白い天御柱学院制服の上着を羽織っている。制服のボタンは留めていない。そのため、豊かなバストが歩くたびフルフルと揺れていた。なんとも華やかな格好ではあるが、それでもリオは生徒会役員として仕事中なのだ。
「これどうぞ。湊川くんもちゃんと付けてね」
 と、彼らに名札を手渡した。交流会なので互いの名前がわかるように、との配慮である。
「そうそう、竜馬さんの質問にもお答えします」
 リオは、時空超えて蘇った英霊に丁寧に説明した。たとえ技術の粋を集めたメガフロートであっても、そこに生活する人間は本能的に自然の光景を求めるものであるということ、しかも、心を癒すためのレジャー施設であればなおのことだということを語ったのだ。
「だから人工的なものとはいえ、このビーチも本当のビーチと比べても違和感のないものにするよう造られたってわけなんです」
「学が身につくのう。いや、しょうえい世界じゃきに」
 かっかと竜馬は笑った。しょうえい、とは、面白い、くらいの意味の土佐弁だ。
 そんな亮一と竜馬、それにリオに対して、高嶋 梓(たかしま・あずさ)が盆を差し出した。銀のプレートの上には、小皿に分けられた焼きたての海産物が乗っている。
「どうぞ召し上がって下さい。飲み物もありますわよ」
「サンキュ。海岸でバーベキューの醍醐味だな、いいねぇ」
 受け取ってさっそく舌鼓を打ちつつ、ふと亮一は気づいて梓を改めて見た。
「……待てよ、俺たち今日は一般参加者じゃなかったか? どうして梓が給仕してるんだ?」
「そういえばいつの間に……? これが私の体質なのかもしれませんわね。けれど悪い気はしませんよ」
 梓は青いブラウスに赤のフレアスカートという扮装だが、無意識のうちにエプロンをその上から身につけていた。
「そうそう。青空の下で働くのは悪い気がしません!」
 元気な声はソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)のものだった。彼女もまためかし込み、白のブラウスに紺のフレアスカートというお嬢様風の扮装なのだが、バーベキューの設備を運び設営するなど、きびきびと働いていた。
 武器を外していると身が軽い、とソフィアは笑った。
「そうか」ぽんと亮一は手を打った。「どうも今日のソフィアに違和感があると思ったら、いつもあれだけぎっしり身につけている武器がないのか」
「いつも重装備でいるわけにもいかないしね」
 と微笑するソフィアの足取りは、確かにそよ風のようなのである。
「楽しんでるか?」
 リオにひょいと片手を挙げ、山葉 聡(やまは・さとし)がやってきた。
「山葉会長、ぼちぼちやってるよ」ぐっと拳を突き出してリオは答えた。「会長も水着なんだね?」
「まあな」
 と答える彼は常識的なデザインのトランクス水着をはき、ヨットパーカーを着ていた。
「レオが『今日は水着着用令発動だ!』とか言ってな……あ、別に義務じゃないから亮一はそのままでいいぜ」
「そうか、それは助かる」
 水着の参加者が多いので、自分も着たほうがいいのかと、亮一は思い始めていたところだったのだ。実際、水着になりたいくらい暑くなってきた。
「それはそうとここらへんの肉、焼けてきたぞ」
「いいねぇ、もらおうか」
 聡としばし亮一は語らうのだった。聡は開放的な性格だからか、亮一とはウマが合った。話は食べ物の話題からいつの間にか、天学の技術に関する話へと移行している。
「この先、活動場所が宇宙や深海にも広がってくだろうし、そういった環境下でも活動出来る装備の開発は無駄じゃないと思うんだ」
「新型のパワードスーツ、ってことか」
「リクエストさせてもらいたいな。そんなパワードスーツ作ってくれ、って」
「そうか、パワードスーツを作ったら、亮一はずっと天学にいてくれるのか」
 ニヤリと聡が笑った。
「……え? 俺はあくまで教導団からの……」
「出向、ってんだろ? けど、別に天学としてはいつまでも在籍してくれていいんだぜ」
 聡は屈託なく笑っているので、どこまで本気でどこまで冗談なのか亮一には測りかねた。なので彼も穏便に答えておく。
「ああ、まあ、考えとく」
 本当に一度、ゆっくり検討してもいいかもしれない。