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第2試合

 
 
『第2試合は、イーブンサイド、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)パイロットと、フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)サブパイロットの乗るグレイゴーストII
 対するオッドサイドは、ええと、アトラウア? という機体です』
「ちょっと、こんな機体、データに入っていた?」
 カフを下げて、シャレード・ムーンがリカイン・フェルマータと久我浩一に訊ねたが、二人とも肩をすくめるだけであった。なんにせよ、処理するデータが多すぎる。直前の変更にも対処できるように、クラウド上にあるデータベースには、現在知られているイコンのデータが全て収められていた。中には、ゾディアックの物もあるくらいだ。もちろん、シミュレータでの対戦用データに最適化されているため、仮想敵以上の情報はないはずではあるが。
 グレイゴーストIIは玉霞をベースとした機体であるが、デザイン的には和的デザインの鬼鎧ではなく、アメリカナイズされたシャープな機体となっている。カラーリング的には、イーグリットに近いとも言えるだろう。小型飛行ユニットも有し、第二世代機に迫る活動域を確保していた。
「戦闘データは記録しておきます。御武運を」
 シミュレータ横で、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)がスクリーンを見あげながら記録用端末を操作していた。
 さすがにシミュレータへの直接接続はデータの機密上許されなかったので、ローザマリア・クライツァールたちのバイタルデータと画像表示された戦闘経過を記録し、後で照合して分析するつもりであった。
 敵のイコンは、キラーラビットをベースとしたカエル型のアトラウアである。水中移動能力を有し、冷凍弾アイシクルランス用のランチャーと、舌状の突出槍タングランスを持ち、全体が対物理攻撃用のジェルアーマーで被われていた。
 
    ★    ★    ★
 
「ドック内注水開始」
「注水開始」
 パイロットスーツ姿のローザマリア・クライツァールに言われて、フィーグムンド・フォルネウスが復唱した。
 あおむけになった機体とほぼ同じ大きさのドックが海水で満たされる。上方ハッチが大きく開いた。遥か海面からの光が、淡くセンサーを照らす。
「繋留解除」
「ロック解除」
 固定していたアームが外れ、グレイゴーストIIが機体を起こしつつドックから離脱した。輸送艦としての潜水艇が、ハッチを閉めつつ遠ざかっていく。
「マップデータ照合するよ。フィールドは沿岸部。30秒後に浮上するから気をつけて。現在、敵はまだ捕捉していないからね」
「了解。フィーは、そのまま索敵を続行して」
 上半身が海上に出た時点で、ローザマリア・クライツァールは霧隠れを発動させて姿を隠した。両肩から噴霧されたミストが、視覚的にグレイゴーストIIの姿を隠すと同時に、レーダー波を吸収攪乱して捕捉されにくくする。
 機体から大量の海水を滴らせながら、グレイゴーストIIがゆっくりとホバリングしながら砂浜へと進んだ。さすがに、音までは消し去ることはできない。
 それに反応したのか、砂浜の一画が動いた。
「ローザ!」
 フィーグムンド・フォルネウスの声に反応したローザマリア・クライツァールが、大きくグレイゴーストIIをジャンプさせた。
 一瞬にして、グレイゴーストIIの機体が、纏っていた霧をかなぐり捨てて高空へと移動する。
 盛りあがった砂山の中から射出されたタングランスが、グレイゴーストIIのいた場所を深く貫いていたが、すでにそこには何もない。
「そこか」
 敵の位置を確認したローザマリア・クライツァールが、スナイパーライフルで砂山を狙撃した。その瞬間、砂が噴きあがって、中に隠れていたアトラウアが姿を現した。スナイパーライフルの実体弾をジェルアーマーで弾き逸らすと、ズンと砂浜に着地する。
 空中にいるグレイゴーストIIに狙いを定めたアトラウアのランチャーが薄氷につつまれる。周囲の水分が氷結し、大気中にキラキラとダイヤモンドダストが舞う。
 グレイゴーストIIが、自機を地面に叩きつけるようにして急速下降した。空中に留まっていたのでは、最大の武器である機動力を生かせない。
 氷片をまとわりつかせて発射されたアイシクルランスが、空中で分裂した。一弾が空中に弾幕を張り、もう一弾がグレイゴーストIIの着地地点に無数の氷の槍を降り注がせた。だが、着地と同時に、グレイゴーストIIが大地を蹴って横っ飛びに氷の雨を全弾避ける。
 横に回り込んだグレイゴーストIIが、ビームアサルトライフルを放った。だが、アトラウアのジェルアーマーがビームを受けて蒸発すると共に、攪乱幕としてビームを拡散する。
 一気に間合いを詰めてこようとするグレイゴーストIIに、アトラウアがジャンプして距離をとろうとした。だが、それを追ってグレイゴーストIIが素早くジャンプする。
 次の瞬間、アトラウアの底面に突き刺さったビームサーベルが、深々と背部へと貫通していた。いつビームサーベルが突き立てられたのか、目視できた者はほとんどいない。
「ファイナルイコンソードを使うとは。長期戦を避けましたね」
 データを取りながら、エシク・ジョーザ・ボルチェがつぶやいた。
 
    ★    ★    ★
 
『勝者、グレイゴーストIIです!』