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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
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 第18章

 涼介は、ミリィとミリアと並んで花火を見上げていた。あれから程無く空いた場所を見つけ、そこにシートを敷いて落ち着いている。
 最前の位置とはいかなかったが、川向のほぼ正面から、次々と花火が上がるのが見える。空に描かれる綺麗な円は正に見事で、花火師が丹精込めて造った、ということが伝わった。
「大きいですわ〜……」
 ミリアが感嘆の声を上げる。刹那の華が彼女の横顔を照らし、消えていく。最近はバイトも雇うようになったようだがそれでも忙しそうで、こういう休みの時はゆっくりと疲れを癒してほしい。そう思っていた涼介は、花火に見入るミリアの様子に目を細めた。
「家でやる線香花火も乙なものだけど、やっぱり打ち上げ花火の華やかさも粋でいいものだね」
「今度また、3人で線香花火もしましょうね〜。まだ少し、残っていた気がします〜」
「そうだね。また3人で、親子水入らずで花火をしよう」
 涼介とミリアは穏やかな表情で、それが普通で、当たり前の日常として『3人で』という言葉を織り交ぜて話をする。そんな会話に、ミリィは、彼女達の間で心が温かくなるのを感じた。
「こうして、3人で花火を見ていると未来のことを思い出しますわ」
 かつていた未来でも、夏は家族や友人、涼介のパートナー達皆で花火大会や夏祭りに出かけていた。
「あの時代で見た花火も綺麗でしたが、ここで見る花火も素晴らしいですわ。……そうだ、お父様、後でりんご飴を買ってくださいませんか。わたくしの大好物ですの」
「大好物? うん、わかった」
「良かった。ありがとうございます」
 涼介は笑顔で頷く。ミリィのためにも今日はいい思い出を1つでも作りたい。それが、今の彼に出来る父親らしさなのかもしれないから。ミリィは、彼の応えに嬉しくなって微笑みを返す。
「わたくし、この時代に来た当初は凄く不安でした。いきなりあなたの娘ですって言っても信用してもらえないかと思ったから。……けれど、お父様たちは暖かくわたくしを迎え入れてくれました。だから、今は凄く幸せなんです」
 花火に背を向けて、改めて涼介とミリアに向き直る。
「……お父様、お母様これからもよろしくお願いします」

              ◇◇◇◇◇◇

「海くんには、どんな花火の思い出があるんですか?」
 浴衣を着て、ちょっとおめかしして、杜守 柚(ともり・ゆず)高円寺 海(こうえんじ・かい)と2人で花火を見ていた。途中で買ったトロピカルジュースを、それぞれに持って。
 ――カップルが多い場所だと目のやり場に困って、きっと、とっても気になってしまう。
 そう思っていたから、比較的人が少ない通りから離れたそこは、柚にとってとても落ち着く場所だった。家族連れの姿が所々にあって、穴場の1つなのかな、と感じる。
 夜空を見上げて海に話しかけながら、彼の里帰りに同行した時の事を思い出す。その時に会った彼の兄弟達の顔を思い浮かべ、彼等と一緒に見たりしていたのなら、賑やかなひとときだったのだろうと考える。
 ――それとも。
(……こ、恋人と一緒に見たりだったのかな?)
 だとしたら、落ち込みそうだ。海はカッコいいから、モテそうだし。
 ちょっと、緊張してきた。
「ああ、家は海が近いから、毎年家族総出で花火をしてたな。コンビニとかで沢山入ったやつを買って、みんなで浜に行ってな」
「家族みんなで、ですか……」
 懐かしみながら話しているのが口調からわかる。何となく、ほっとした。
「なんだか、楽しそうですね」
「地球に居た頃の、いい思い出だよ」
「私は、花火は地球に居た時あまり見てないから、見れるの嬉しいんです」
 海がこちらを向く気配を感じた。それから、ちょっと勇気を出して付け加えてみる。
「……海くんと一緒だと、もっと嬉しいです」
「え……」
 驚いたらしき声を漏らした海と目を合わせ、柚は照れて慌ててジュースを飲む。
「ほら、友達ですから」
「ああ……ありがとう」
 しばらく柚を見ていた海は、また空に目を戻す。戸惑っているような、そんな空気の揺れを感じて、だが、彼は多くは語らなかった。その戸惑いが彼女の思い出話に対してなのか、後の一言に対してなのかは分からないけど――
 友達だけど、彼に片想いしているのは確かだから。
 少しでも、伝わればいいな、と思う。
 花火が上がる。笛の音に似た音と共に小さな光が連続して空に上り、広く広く、弾けて消える。どんっ、という音が、一瞬、身を揺るがす。
「凄い大きいです!」
 大きい音はちょっと怖いけれど、空いっぱいに広がる花火はそれ以上に綺麗で、柚は素直にわくわくした。次々に上る花火に喜び、声を上げる彼女の目に海の横顔がふと映る。彼は花火に、何の忌憚もない楽しそうな笑顔を浮かべていて。
 ――誘って良かった。
 嬉しくなって、柚は幸せそうに微笑んだ。

「海くん、また誘ってもいいですか?」
 楽しい時間を、また一緒に過ごしたい。そう思って、帰り際に聞いてみる。
「そうだな。時間が合ったら、またどこかに行くか」
 答えは気安い笑顔と共に返ってきた。面白そうなことがあったら、また、誘ってみよう。

              ◇◇◇◇◇◇

「あっ、あそこがいいんじゃない?」
 花火を見る前に先にご飯にしよう、と樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)と協力して出店で買った食べ物を持ち、食事が出来そうな場所を探していた。
 それぞれが皆浴衣姿で、月夜は芍薬の花、玉藻は牡丹の花、白花は百合の花が描かれた浴衣を着ていた。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花……といったところか。
 月夜は休憩所らしき場所を見つけ、足を速めた。行ってみると、ちょうど4人で座れそうな席を見つけた。2人ずつ、対面する形式だ。白花も続いて、中に入る。
「ああ、ここなら落ち着けそうですね」
「刀真、ほらこっち」
 後から来た刀真に月夜が隣の席を勧め、白花の隣に玉藻が座る。全員が落ち着くと、4人は机の上に屋台のパックを並べた。
 焼きそばとお好み焼きが1パックずつに、たこ焼きが2パック。プラス、ビール。
「……ん?」
 だが、そこで刀真は気付いた。
 皆で分けようと思って買ったから、食事に必須な箸が足りない。
 ――具体的に言うと、たこ焼きが爪楊枝仕様故に、2人分足りない。
(……貰ってくれば良かったな……)
「あっ、箸が足りない……」
 そして月夜も、その事実に気がついた。
「そうだ、食べさせてあげるよ。……刀真、はいあーんして」
 彼女は箸を割ってお好み焼きのパックを引き寄せると一口大にして、極自然に刀真に差し出した。一瞬だけ戸惑いを見せてから、刀真は素直に口を開ける。
「え? えっと……あーん」
「美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「じゃあ、次は私〜」
 月夜は、箸を刀真に渡した。お返しに、と、彼は何の疑問も持たずにお好み焼きを食べさせてくれた。間接キスになっているのだがそれには気付いていないようで、言わぬが吉、と月夜はお好み焼きを美味しく頬張る。白花も続けて、焼きそばと箸を取って刀真の口元へ持っていく。
「刀真さん、こちらもどうぞ。……あーん」
「……あーん」
「美味しいですか?」
「うん、こっちも美味しいよ。じゃあ白花にもお返しだな。ほら、あーん」
「えっと……あーん。はい美味しいです」
 焼きそばを食べ終え、白花は刀真に穏やかに微笑んだ。そうして食事が進む間、玉藻は大人しくたこ焼きを食べていて――
「では、そろそろ行こうかの?」
 パックが空になった頃に、にっこりと笑って3人を促す。
「そうだね。花火が始まりそうだ」
 刀真は笑顔で彼女達と立ち上がり、休憩所を後にする。
「リア充……」「リア充め……」「爆発しろ……」
 女性3人を連れ、そのうちの2人と食べさせあいっこをしていた刀真に、その場の男達がうらめしげな声を送る。爆発しろ、と念を送っていた者も多数だったが、刀真は、それらには最後まで気付かなかった。