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第一課題 資料提出

「さて、まとめるか」
 そう呟くと、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は机に向かう。
 シャンバラ大荒野のドラゴン牧場についての資料をまとめようとしているところだった。
「ドラゴン牧場は、元エリュシオン帝国の第七龍騎士団のヴァシリオスが経営している牧場であり、近年のパラミタでは減少傾向にあるドラゴンやワイバーンを真近で見られる場所として龍騎士を志すパラ実生の育成にも役立っている」
 そこまで作成し、折角の機会だからこそただの紹介だけでなく、自らの意見についても述べておこうと考えたジャジラッドは続ける。
「エリュシオン占領時に龍騎士科の話が持ち上がり立ち消えになったパラ実だが、ドラゴン牧場とパラ実が提携すれば龍騎士科の設立も可能であると考える。ドラゴンだけではく恐竜もヴァシリオスに預けて恐竜の繁殖にヴァシリオスの専門的な知恵を借りられれば良いのではないだろうか。大荒野の賢者でありその力を恐竜騎士団の為に活用して欲しいと考え、恐竜騎士団に勧誘を続けている」
 そこまで記録し、しばし悩んだ後、恐竜騎士団に関わる情報についても念のため記載しておくことにした。
「シャンバラ大荒野はドラゴンの育成に適している場所であり、育ったドラゴンの一部はエリュシオン帝国に買われている。これが戦時下であれば真っ先に利敵行為としてシャンバラに狙われると考えられる。エリュシオン帝国に属する恐竜騎士団としてはドラゴン牧場の警備の任も帝国から密かに託されているという噂があるが真偽のほどは不明である。幼いドラゴンやレアなドラゴンは闇市で売買されるなどの希少価値がある為にドラゴン牧場を狙う盗賊が跡を絶たない。そのため、個人単位では広大なドラゴン牧場を守ることは限界があり、恐竜騎士団が牧場の警備の任に当たっているというのは、パラ実では半ば公然の事実として伝わっている状況である」
 報告書を書き上げたジャジラットは一息つくと、見回りのためドラゴン牧場へ向かった。

「お勧めスポット? もちろんここだよね」
 ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)が楽しそうに資料をまとめはじめたのは同じくシャンバラ大荒野にあるシャンバラ刑務所だ。
「五千年前の古王国の頃の巨大な牢獄を改造して今も尚、利用されている施設。最近建てられた新棟(通称パラ実プリズン)と五千年級の囚人も収容されている古王国時代の牢獄の二つに分かれている。この二つは同じ刑務所ではあるが、パラ実プリズンの方はキマクからほど近い場所にあり、本棟であるシャンバラ刑務所とは同じシャンバラ大荒野でも距離が離れている。所長はマイケル・キム大佐。新棟の所長はジャスティシアの南門 纏」
 そこまで書いてにやりと不穏な笑みを浮かべると、空恐ろしい補足を始める。
「本棟であるシャンバラ刑務所には五千年級の囚人3人が収容されていたが(ブラキオ、ビートル、カリアッハ)とある事件によりカリアッハは脱獄。現在に至っても捕まっていない」
「オアシスの市場に集まっていた二千人以上の人間を一瞬にして殺し尽くしてしまうくらいの力を持つ魔女だから、今も捕まっていないというのはかなり危険だよね」
 そう呟くとブルタは一層楽しそうに笑った。
「シャンバラ刑務所はパラ実の影響の強い施設であり締め付けが強すぎると囚人、看守を含めた暴動に発展する恐れがある。その他、シャンバラ刑務所本棟にはウゲン・タシガンの遺体とシャムシエルが厳重な警戒態勢で管理されている」
 報告書を提出したブルタは再び満足そうな笑みを浮かべた。

「皆を紹介できる良い機会だ!」
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は張り切って葦原島の豊中山、通称「妖怪の山」の紹介文を書き始めた。
「正式名称である豊中山よりも、通り名の『妖怪の山』の方が定着しており、地元の人でさえ正式な山の名を言える人はほとんどいないという実態になっている。その名の通り妖怪たちの住まう山だが、中には妖怪の他にも妖怪のきぐるみを着たゆる族や変わり者の人間、幽霊や仙人、果てには宇宙人までもが住んでいるとの噂も。彼ら独自の文明や形態を敷いており、時に喧嘩などしながら共に仲良く暮らしている」
「基本妖怪たちは人間たちに対して無害であり、せいぜい悪戯して困らせたり驚かせて喜んだりする程度で、こちらから攻撃を仕掛けたり敵対行動をとったりしなければ被害にあう事はまずない。それどころか妖怪の中には葦原の人たちに崇められながら一緒に暮らして恩恵をもたらしているものもおり、共に共存共栄の間柄が構築されているほどである」
「無闇に山に立ち入ろうとすると悪戯されたり惑わされて追い返されたりするが、妖怪たちに気に入られたり認められたり友達になったりすると一緒に遊んだり食事に誘ってくれたりと、とても気さくに対応してくれる。また夏には妖怪だけのお祭りが開かれており)妖怪に変装して紛れ込めば、妖怪たちのお祭りを一緒に楽しむ事が可能」
「ま、バレたら大変なことになるけどな」
 妖怪たちのことを考えながら楽しそうに呟くと、アキラは次の一文で紹介文を締めくくった。
「このヘンテコな生きものたちとの不思議な出会いに、貴方も葦原島を訪れてみませんか?」

「なんだよリリト、アシャ、エリィ、らしくもなく難しい顔して?」
 不思議そうに首を傾けるセシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)月の泉地方の精 リリト・エフェメリス(つきのいずみちほうのせい・りりとえふぇめりす)は端的に財政難を告げた。
「あー……まぁなー……。空団の経営どうすんだってのは俺も随分悩んでた。かといって、お前らの家……ユグドラド家やリリト家から支援を受けるのも嫌だったからさ」
 困った表情のセシルを横目に、アシャ・カリス・ユグドラド(あしゃかりす・ゆぐどらど)は兄であるセディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)へと知らせを送っていた。
 知らせを聞いたセディの様子を見たルナティエール・玲姫・セレティ・ユグドラド(るなてぃえーるれき・せれてぃゆぐどらど)が声をかける。
「どうしたセディ? アシャから知らせ……? え? 経営がヤバい? 交易してる工芸品とかの物価暴落とか色々で?」
「さすがに長く離れすぎたか……」
 ルナティエールの言葉にセディは静かに頷いた。
「そうか、あのプライドの高いアシャが言ってくるくらいだ、いよいよヤバいんだろうな」
「すまないルナ、今は私の務めを支えてくれるか?」
「わかった、ツァンダへ戻ろう。いつも俺の我儘に突き合わせてるんだ、こんなときくらい妻として務めを果たすさ」
 二人はすぐにツァンダに戻るとセシルたちと合流した。
「この私としたことが、よもや兄上に面倒をかけることになろうとは……。己の力量不足を呪うばかりです」
「ごめんなさいお兄様、本当はご面倒をおかけしたくなかったのだけれど……」
「アシャ、エリィ、気にするな。そもそも私が務めをお前たちに任せきりにしてしまったのが悪いのだ」
 うなだれるアシャとエリティエール・サラ・リリト(えりてぃえーる・さらりりと)にセディは優しく声をかける。
「お前が二家のために働けばそれは正当な報酬ってことだ。そういう形にするのが、二家のためにも空団のためにもベストだろ」
「てかお前らが勝手に居つくから食費その他かさむんだろーが!!」
「え? 食費? ちゃんと、たまーに提供してやってるだろ? てか、頭領がそういう細かいことをいうのはどうかなー」
「あーもー……わかった。そうだな、安定した財源確保は必要だ。よし、こうなったら月の泉地方を徹底的に盛り立てるぞ! 実はちょうど、シャンバラガイドを充実させようってことで各地のお勧めスポットの資料募集依頼がきてるんだよな。これにのっかろう。リリト、月の泉はなかなかの観光名所になる。俺としても思い出の場所だし、たくさんの人があの景色を見て感動してくれたら嬉しい」
「ふむ……。泉の紹介は私も考えていた。数千年静かに暮らしてきたが、いい加減飽いたのでな。これからは少々騒がしいくらいの方が楽しかろう」
 しれっと言ってのけるルナティエールにセシルは頭痛を押さえながら自身を鼓舞する。
 リリトも頷いてみせた。
「あぁ、各地の資料募集の話なら俺も聞いた。月の泉を紹介するのは俺も賛成だ。泉だけじゃなく、泉を囲む森自体も森林浴に最適なとこだしな。けどそれだけじゃ観光客はそうそう集まらないだろ」
 そこまで言ってルナティエールはふと言葉を切る。
「……そうだ、そういえばもうすぐ『水鏡祭(みかがみまつり)』の時期じゃないか? 一年に一回、月の泉に参拝して、お供えして、一年の健康と死者の冥福を祈るアレ。街じゃ小さな出店とか出てたよな。あれをもっと大規模な祭りにしたらどうだ? 俺、奉納舞とか踊るし。てか、ツァンダに戻って普段から働くかな。」
「あぁ、水鏡祭な。それ賛成! なんか小規模ってか、住民各自でやってるってカンジだったし、もっと盛大にやればいいのにって俺も思ってた。どうだよリリト、異論はないか?」
「水鏡祭を盛大なものにするのも良いな。何か催しをするなら、私も民衆の前に姿を見せてやろうぞ。神輿でも出すなら私が直々に乗り込んでやろうか?」
「よしOK! ルナもツァンダに戻るなら……」
 リリトの返答を聞いたセシルは月の泉に関する情報を箇条書きでまとめると、エリティエールに渡した。
「よしエリィ、アシャ、これで提出資料を書き起こしてくれ。お前らが一番得意だろ?」
「ふむ、泉の公開に水鏡祭の改訂か。それは良い案だな。資料編纂には私も加わろう。ルナ、セシル、本当に感謝する」
「あとはそうだな、PVでも作って資料につけるか。文面だけじゃわかんねぇことあるもんな。今から作るぞ!」
 セシルの声を合図に、紹介書類およびDVDの作成が始まったのだった。
「月の泉地方とは、ツァンダ東部に位置する『月の泉』周辺の、水と緑豊かな土地。質の良い生糸や染料が取れ、『月陣織(つきじんおり)』と呼ばれる反物が名産品である。月の泉は古くから月の加護を受けているといわれ、月光を受けると様々な色彩に輝く。冬は泉が過冷却状態になっており、石などを投げこむと一気に凍りつく。凍り付いた形がまるで一面に花を咲かせたように見えるため、その結晶は『氷晶花(ひょうしょうか)』と呼ばれる。月陣織のモチーフにされることも少なくない。泉の水には神聖な力があるとされ、事実、魔物などがあまり寄り付かない。周辺は霊気に包まれた深い森になっており、森林浴に最適」
「1年に一度、9月に『水鏡祭』という、月の泉に参拝して1年の健康を願い死者の追悼を行う祭典がある。古くから行われてきた行事だが最近は大規模なものに改良され、神輿を担いだり奉納舞の舞台が設けられたりするようになった。現在、祭を主催するのはユグドラド家当主セディとその妻ルナティエールで、ルナティエールは奉納舞も舞っている。当主夫婦とそのパートナー達は普段から『月華一座』として物語を舞歌で表現する芸術活動を展開しており、最近は月の泉や月陣織に並ぶ地方の名物となりつつある」
 かくして、一同は短時間で資料を纏め上げたのだった。

「「獣人文化歴史資料館」の創設者として、ここは一つパラミタや地球に広く宣伝してあげないといけませんねっ」
 今回の話を耳にしたサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は獣人文化歴史資料館の紹介資料を作るべく、白砂 司(しらすな・つかさ)とともに資料館へと向かった。
 久しぶりに館内を歩きながら映像を撮影し、提出しようと思ったのだ。
「「獣人の村」はツァンダ東の森にあり、契約者が主体となって開拓した新しい村だ。もともとその近くに獣人の住む村があったのだが、ある事件で村は崩壊・村人は離散してしまっていた。そこでパラミタ情勢が落ち着いていた昨年夏、契約者を募って近くに改めて村が作られることとなった。それが「獣人の村」だ」
 説明を映像に収めながら司が館内を進んでいく。
 サクラコも順番に見て回っているが、しばらく来ない間に少し展示方法に工夫が施されている展示物などを見つけると、どことなく嬉しそうだった。
「「獣人文化歴史資料館」はその際に作られた施設のひとつで、その名の通り獣人文化と歴史に関する資料を収集・保管・展示している。もちろん「獣人の村」とその前身となった村についての資料が中心だ。新しい「獣人の村」の存続に必須の建物というわけではなかったが、かつて滅びた村の歴史を散逸から守り、後世に伝えるためというサクラコの強い主張が幸いにも支持され、創設された」
 そこまで言うと、司はサクラコにカメラを向ける。
「私自身は最初に図を描いただけで館長の座にもついてないのですけど、そこそこ慕っていただけてるよーでなんか照れちゃいますねー。でも大切なのは資料館の建物とか仕組みとか館長の椅子とかじゃなくて、みんなが昔の話に思いを馳せて、未来に活かしてくれることですから」
「そうだな。……後に空京万博で「獣人文化歴史資料館」は万博の催し物の一環として行われたドラゴンレースのゴール地点となったり、万博のイベントの後援をしたり、パラミタはもちろん地球に向けても獣人のアピールを重ねた。最近は本来の静かな資料館として運営しているようだ」
 そこまで喋ると、司はカメラの電源を落とす。
「サクラコ、向こうの展示場で配置変更の検討をしているようだが……」
「たしかに、私もアマチュア民俗学者のはしくれですけど、お手伝いはあんまりしないことにしてるんです。私頼りじゃあいつまで経っても離れられませんからねっ。見学に来たんですから、お茶でも飲んでゆっくりしていきましょう」
「そうだな」
 思い入れの深い施設だからこそ、色々と考え動くサクラコの姿に司はふっと笑みをこぼすと、二人でゆったりと館内を回るのだった。