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よみがえっちゃった!

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よみがえっちゃった!

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   むかしむかしではないですが。
   ある所にピーマンがいました。(※打ち間違っていません)
   ピーマンは野菜カゴのなかで、だれかが手に取ってくれるのをいまかいまかと待っていました。
   しかし伸びた手が掴み取っていくのはいつもキュウリやネギやニンジンといった、ほかの野菜ばかり。
   なんとナス!
   あの黒くて味気なくって水っぽくて煮ても焼いてもおいしく食えやしないナスにまで!(※120%私情入ってます)
   二者択一で負けてしまったのです。
   とうとうピーマンはカゴのなかでたった独りぼっちになってしまいました。
   ピーマンは思いました。
   世界じゅうのどこか。だれか、たった1人でいい。ぼくを好いて、手に取って食べてくれる人がいてくれたら。
   そうしたらぼくは独りぼっちじゃなくなるんだ……。


「――ね? ピーマンさんはかわいそうでしょう? そんなピーマンさんをみんな好きになってあげたいでしょう?」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)はニコニコ、いつものルイスマイルで幼稚園児たちを見下ろした。
 本当はかがみ込みたいのだが、今彼はピーマンになっているためひざを少し折り曲げるのがせいいっぱいだ。
「はい、どうぞ」
 ルイは腕にかけたショッピングカゴのなかに山盛り入ったピーマンのなかから1つを取り出し、幼児たちに差し出す。
 幼児たちはだれも受け取ろうとしなかった。
 それどころか、ピーマンを見てもいない。
 ぷるぷる震えた幼児たちがまばたきすることもできず凝視しているのはルイ――というか、ピーマンの着ぐるみのヘタ部分から飛び出している、ツルッパゲの岩石みたいないかつい男の顔だった。
 いくら格好が緑のタイツにピーマン着ぐるみでも、これではだいなし。

「む? 駄目ですよ、皆さん。また選ばれなかったと、ピーマンさんが悲しむじゃないですか。皆さんはイジメっ子ですか? 違うでしょう? 違いますよね。だからさあ、早く手に取っておあげなさい。
 さあ!
 さあ!!


 血の毛を失い硬直している子どもの手に押しつけ、無理くりピーマンを握らせようとするルイ。
 そのとき。

「お待ちなさい!!」

 ちゃっちゃっちゃらっちゃちゃ〜〜〜〜 ♪


 ヒーロー登場のBGMでも流れてきそうなタイミングで現れたのは赤いぼさぼさ髪にメガネをかけた、蒼空学園制服の男!

「そこのアナタ! 私のカワイイ教え子たちに狼藉をはたらくのは許しませんよッッ!!」

 指をつきつけ宣言をして、高柳 陣(たかやなぎ・じん)(当年とって23歳・ノーマル男子)は子どもたちに駆け寄った。
「大丈夫? みんな。先生が来たからにはもう大丈夫よ」(※彼はオネエではありません。念のため)
「……せんせい、ちがう…」
 幼児の1人がぼそっとつぶやいたが、しかしピーマン着ぐるみのいかつい大男よりこちらの青年の方がまだマシに思えたのか、幼児たちはルイを警戒しつつ陣にぴったりくっついた。

「むむっ?」
 当然ルイは面白くない。
「あなた、私のピーマン布教の邪魔をするというのですか。
 いいですか? あなたはどうも分かっておられないようですが、ピーマンはとても栄養価の高い緑黄色野菜なのですよ! 子どもの成長には欠かせぬ各種ビタミン、食物繊維が豊富な優れた野菜なのです!
 あなたは好ききらいのある子に育てたいというのですか!? 小さい今のうちに何でも食べられる子にしたいとは思いませんか!?」

「いいえ、そうは思いませんわ。ですが、本人の望まぬものを無理に押しつけるのはいけません! そんなことをしては子どもの純真無垢な心にトラウマという傷がついてしまいます! 水辺へ連れて行っても、無理やり馬に水を飲ませることはできないのと同じ! いつか自然と食するのを待つのです!」(※重ねて言いますが、彼はオネエではないです)

「甘い! いい歳をした大人がそのような考えでどうするのですか! あなたのような子どもをスポイルする親が、栄養の偏った現代のもやしっ子(死語)を生み出しているのだと自覚したらどうです!!」


「天は自ら助くる者を助くなのです!!」(もはや意味不明)


「むう……これほど言っても分からないのですか…」
 ルイの放つ不穏な気配を敏感に感じ取り、おびえてしがみついてくる幼児たちを、陣はぎゅーーっと抱き締めた。
「子どもたち、先生から少し離れてちょうだい。先生、こちらの方とちょっと大事なお話があるの。
 さあ、行って」
「……うん…」
 幼児たちが離れて行くのを確認して、陣は立ち上がる。

「……私は生徒を心から愛する純情可憐な熱血教師。愛と勇気と明日への希望を胸に、カワイイ生徒を全力で悪の手から守るのが私の使命…」
「言葉は尽くしました。それでも理解されないのであれば、もはや肌で感じ取り、その肉体をもって理解してもらうのみ!」

 ルイ・ピーマンが腰を落とし、かまえをとる。

「くらうがいい! わが思いのありったけを込めたピーパーーンチ!!」


 ――賢明な皆さんはすでに理解されているとは思うものの、念のためことわっておくが、ピーは放送禁止用語ではない。ピーマンの「ピー」であり、ピーパンチとは「ピーマンパンチ」の略である。



 ピーマン着ぐるみの放つピーパンチを、陣は華麗に、優雅に、ひらりと宙を舞って避けた。

「むむ! 私のピーパンチを避けるとは! あなた、ただ者ではありませんねッ」
「ふふっ。今度は私の番ですね。それでは私もまいらせていただきますわ!」
 外見はただのひょろりとした青年にしか見えないのに妙に自信満々の受け答えに、ルイは油断なく身構える。

「心配は無用です! 私は教師! 暴力は決してふるいません!
 そう、親にすら見放され、己を見失い、それでも愛されることを求めて苦しみ、荒れて暴走しているかわいそうな生徒は片っ端から抱きしめて、私の熱い抱擁で目覚めさせるの! 殴られても拒否られても絶対にめげない! それが私!!」


「みるるんの愛、いっぱい……あ・げ・る(はぁと)」



 陣は目をキラキラさせながら両手を広げ、ルイにとびかかって行った。




「ああ、あそこにいたでありますよ、セラ殿」
「ええ? どこです?」
 ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)の言葉にシュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)――通称セラ――が反対方向へ向かいかけていたのをやめて、駆け寄る。
「足りない食材の買い足しに出たっきり、いつまで経っても帰ってこないからもしや事故にでもあったのかと思ったら、こんな所で油を売ってたんですね!」
 これはもう、ひと言文句を言ってやらなくては!
 ぷんぷん怒りつつノールの元へたどり着いたセラは、そこで展開している光景にあっけにとられた。

 ピーマンの格好をしたルイが、赤いぼさぼさ髪の男と妙な追いかけっこをしている――ように見える。

 それはまるで反発する磁石同士のようだった。向かい合った2人は互いの間合いを測るようにじりじりとすり足で動いていたと思った次の瞬間、ばっと赤いぼさぼさ髪の男がとびかかる。そしてほぼ同時にルイがばっと後ろへとびずさる。
 とびかかる陣、とびずさるルイ。2人の間の距離は一向に縮まらない。

「あの2人は何をしているんですか?」
「さあ? 我輩にはとんと…」


「ああ、そんなに恥ずかしがらないで! アナタの頭(中身)がそんなにもカチコチの木の実のようになってしまっているのは、きっと愛を知らずに育ってしまったから! でも愛を知らないことは少しも恥ずかしいことではないのよ!! さあ、思い切って先生の胸に飛び込んでいらっしゃい!!」
「私の頭(外見)は関係ないでしょう!!」


「……うっわー、何あの人。きっもーーー。そりゃルイじゃなくても近寄りたくないわー」
「そうであるな」
 うんうんうなずき合っているそばで。
「義父さん…」
 マリオン・フリード(まりおん・ふりーど)ただ1人、深刻な表情で絶句していた。
 はたしてそれは街なかで戦っているからか、それともピーマン着ぐるみ姿を見たからか。
 しかしその反応はマリオンだけではなかった。

「お兄ちゃん…」

 遅ればせ、騒ぎを聞きつけて駆けつけたティエン・シア(てぃえん・しあ)が、目の前の光景に呆然とつぶやく。
「あれはあなたのパートナーですか?」
「う、うん…。
 なんかお兄ちゃん、『ねっけつ★みるるん』みたいなこと言ってる…」
「みるるん?」
「何であるか? それは」
「えーとね、深夜にやってるアニメだよ。ロリ甘フェイスの巨乳でどじっこ(服装は露出高め可愛い系)な主人公みる先生(♀)が、行き過ぎた教師愛と過剰な熱血で転任先の不良学校の生徒を次々と更生させていく、ソフトHなコメディアニメなんだ。
 もしかしてお兄ちゃん、みる先生になったつもりでいるんじゃ…」
「とすると、ルイは」
「見たまんま、ピーマンなのである」
 いやもう頭がイタタタタ。

 そこではっとした顔つきになったティエンは、くるりとなりのユピリア・クォーレ(ゆぴりあ・くぉーれ)に急ぎ向き直った。
「お姉ちゃん! 早くお兄ちゃんを止めないとすごい騒ぎに――お姉ちゃん…?」
 ユピリアはどこか夢心地な、ぼんやりとした顔をしていた。
「お姉――」
 おそるおそるそでを引いたティエンに、ユピリアのうつろな目が向く。

「ティエン、何を言ってるの? あれは陣じゃないわ」

「……え?」
「だってねえ。そうでしょう? 私の陣が、あんなオネエ言葉で、キラキラ笑顔を振り撒きながら華麗なステップ踏んだりするわけないじゃないの…」
 がしっ! 両手がティエンの肩をわしづかみにしてガクガク揺さぶる。
「ねっ!? あなたもそう思うでしょ!? あり得ないわよね!? あれ、絶対陣じゃないわ! 偽物よ!! そっくりだけど別人なの! 彼を愛する私には分かるのよ!! 信じてティエン!! きっと本物の陣は捕われて、どこかに監禁されているんだわ!!」
 ガクガク、ガクガク。
「お姉ちゃん、それ現実逃避っていう――」

 そこへ、スコーーーーンと何かがユピリアの後頭部に飛んできた。
 地面にへたり落ちたのは、陣愛用の緑のツッコミスリッパである。

「これは…!
 ――そう…。そういうことなのね…」
 ユピリアはそれを拾い上げ、ぎゅっと握り締めた。
「お姉ちゃん?」
「ああ陣! やっぱりあなただったのね! そうじゃないかと思っていたのよ!」

 ――えっ?


「これはあんなふうに変わり果ててしまった陣からのSOS!
 『これでツッコんで俺を元に戻してくれ! こんなこと、おまえにしか頼めない……俺の愛しいユピリア(キラッ☆』
 そうに違いないわ!!」
「それ、大分違うと思うー」

 ――またいつもの妄想大爆発ですか、ユピリアさん。


「待ってて陣! 今元のあなたに戻してあげるーーーっ!!」
「あっ! 待ってお姉ちゃん、僕もー」
 ドドドドド、と砂煙を巻き上げて2人は走り出した。


「ねえっ」
 ようやく衝撃から立ち直ったマリオンがセラのそでを引っ張った。
「これって、あたしがピーマンきらいで、この前ごはんでお皿に残しちゃったのがいけなかったの…? だから義父さん、あんな格好して、戦ってるの!?」
 それはどうだろう? かなり論理に飛躍があるような気がしたが、たしかに思い当たるフシといえばそれだけな気もして、セラもノールも答えられない。
「あたしがピーマン食べられなかったから……もっと小さいときからだったら好きにさせられるんじゃないかって、それで……それで…!」
 そこでマリオンは、くるっと再びルイへと向き直る。

「義父さん、ごめんなさい!! 今度からピーマンを出されても残さずしっかり食べます! 食べれないなんて言わない! あたしがんばるから! がんばってピーマン食べるから!!」
 だからもう戦わないでぇ…っ!!

 涙目で訴えたが、残念ながらマリオンの小さな叫びは戦いに集中するルイの耳まで届いていないようだった。
 セラはノールと視線を合わせる。
「私たちもこれ以上見てばかりはいられないですね。あれではどう見てもルイは悪役、ピーマン怪人です。あそこにいる子どもたちからうわさが広がって、これから街を歩くたびに「あっ! ピーマン怪人のパートナーだ!」「投げちゃえ!」「えいっ! えいっ!」なんて言われて後ろ指さされたり石を投げつけられるのはごめんですから」
 セラはかつんと大魔杖バズドヴィーラで地を打つ。
「ガジェットさん、全力であのバカを止めますよ!」
「了解なのである!」

 ノールはダッシュローラーで飛び出した。
 ユピリア、ティエンとともにピーマン怪人とみるるん先生に迫る!


 そのときルイはしつこい陣に業を煮やして、大技を出そうとしているところだった。


「ぬぬぬ……まさかこの私に奥の手を使わせようとする者が現れるとは思ってもみませんでした」
「私は決してあきらめない!! たとえアナタが何をぶつけてこようとも、先生としてッ! 全力で受け止めてみせるわッ!」
「あなたは私の師ではないッ! 私の師と言えるのは、ピーマン農家のおじいさんだけですッ!!
 くらいなさい! わが究極にして最大の秘奥義!!
 足を横にすべらせ歩幅を大きくとり、腰だめにかまえる。
 両手は手首をぴったり合わせて右の腰の高さで後ろ向きに。


「日光の力にて光合成! 湧き上がる力を両手のひらに込め、今必殺のっ!

 ピー! マン! 波あぁぁぁぁぁああ!!」


「アナタの熱い思い、すべて受け止めてみせる!
 そしてアナタも私の熱い抱擁で更生するのよ!!」
 
 カモーーーーンッ!!



 そこになだれを打って飛び込んだのが、ティエンの野生の蹂躙で呼び集められた野良ワンコや野良ニャンコの群れ。
 それがにゃーにゃーわふわふ言いながら川となって2人をわかつ。

「こ、これは…?」
 とまどう陣の後ろ、群れにまぎれて忍び寄った影が唐突に立ち上がった。


「みるるん! 時間がかかりすぎよっ!! もう放送枠の23分42秒は過ぎたわ!!」
 みるるん先生もプロなら放送の尺ぐらい体で覚えておきなさーーーーい!!


 スパコーーーーーンッ!
 とテニスのスパイク音のような音がして、ユピリアの緑のスリッパが陣の後頭部に決まった。

 そしてほぼ同時に、ノールが腕を掴み、発動しかけたピーマン波を寸前で食い止める。
 ノールはルイの鼻が触れる寸前で見つめ合った。
「……ル、ルイ殿落ち着くのである! 先の戦いで大破して、家計に影響与えちゃったのは正直すまんである! でも、いきなりこの場でバトルのはどうかと思うのであるよ! しかもあんなカワイイ子どもたちの前で――って、はっ!!」
 もしやこれがうわさの羞恥プレイ??

 ノールの胸のなかで期待と羞恥の熱い思いが激しく交錯し、一気に動悸が高まったときだった。

「よくやりました、ガジェットさん! そのままルイを押さえておいてください!」
 セラは悟っていた。
 あんな滑稽な姿をしているとはいえ、相手はルイ。へたに手心を加えれば返り討ちにあうのみ!!


「殺す覚悟で全力でいかせてもらいます!!」


 セラが召喚したバハムートとフェニックスが、同時攻撃を仕掛けた。


「ってセラ殿!? 吾輩も――
ぎゃあああああああああっ!!
「ピーマンは永久に不滅――ぴ、ピーーーーーマぁーーーンっ!!


大・爆・発・☆


 近くで観戦していたダンボール箱(大)も巻き込まれで吹っ飛んで行ったが、目で追う者はだれもいなかった。


 爆発の原因は、主に巻き込まれノールの機体のせいである。

「ガジェットさん……あなたの犠牲は無駄にはしません」
 これでセラの名誉は守ることができました。

 爆風にあおられながら、セラはくっと奥歯を噛み締める。
 マリオンはあまりの展開にとっくに泣くのを通り越して氷像のようにカチーンと固まってしまっていて、一音も発せなかった。


 ノールの修理費増加による家計の圧迫で彼らの食卓事情がさらに悪化したことに気付いたときにはあとの祭り。



 爆風と一緒に吹き飛んだガジェットさんの破片ともくもく上がった黒煙は、まるで戦隊物の悪役の爆発シーンみたいだったよ。と、後にティエンは語ったという。