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秋のライブフェスタ2022

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秋のライブフェスタ2022

リアクション

 
 
 
「おおおううい、ついにベルの出番が来ちまったぜ! 何だか俺様のほうが緊張してきちまったじゃねーか!」

 毛玉をヒステリックにかきむしりながらウォドー・ベネディクトゥス(うぉどー・べねでぃくとぅす)は同じく隣で応援している瀬乃 和深(せの・かずみ)にあたる。

「俺にそう言われても……そもそも出たいって言い出したのはベルなんだから俺に言ったって仕方ないだろ」

 ――わたくし、もっと大勢の人の前で歌いたいのです。

 機晶姫であるベル・フルューリング(べる・ふりゅーりんぐ)が言い出したので、ライブフェスタへの参加を勧めたのだ。
 出るからにはぜひとも優勝をかっさらってきてほしいと言ったのだが、とにかく歌いたいという彼女の前では優勝という文字が持つ意味は何の意味も持たないようだった。

「あああああ、本当だったら俺様とベル二人で出るつもりだったのによぅ。衣装まで買ったのに。見ろよ、悔しいから着てきちゃったよ」
「何回目だよ、その台詞は」

 金のラメ入りスーツに身を包み、ジャケットからは遠慮なく露出された上半身が見える。
 くどすぎない程度に胸を覆う毛は、頭と同じ白だ。

「大体、お前といるとイメージマイナスだろ」
「なんでじゃー!!」

 猫が怒るように毛を逆立てながら食って掛かるウォドー。
 ベルが参加申し込み用紙を持ってきた際に、最終チェックをしたのは瀬乃だ。
 もしウォドーがベルを言いくるめて参加でもしようものなら毛をむしってやろうと考えていたのだ。そんな自体にはならなかったものの、仮に二人で出るとしても他のやつと出させるくらいならいっそ自分で。
 そんなことを思い出していると、隣で騒いでいたはずのウォドーの姿が忽然と消えていた。

「もうすぐ始まるって言うのに、あいつどこ行きやがった……」

 カタン、と照明が落とされ、いよいよベルの出番となる。
 イントロが始まるまでに結局ウォドーは戻ってこなかったが、すぐに瀬乃の意識はウォドーの事などシャットダウンし、ステージに立つベルの姿に釘付けになった。

 最後の歌姫、ベル・フルューリング。
 古い機晶姫の彼女の顔は丹精に作られており、人間と見間違えてしまうほどだ。
 しかし、首から下は球体間接人形そのもので、ノースリーブのロングドレスからのぞく肩の関節が彼女が機晶姫であることを証明していた。
 白のワンピースに黒のリボンとレース。同じようにデザインされた白のロンググローブの中でそっと握られたマイク。ミニハットとコサージュは紅のバラをかたどったもの。

 今回のイベントの中では聞くことがなかったはゆったりとしたバラード。
 マイクを口元へと運び、閉じていた目をゆっくりと開いた。


 ――流れゆく時の中 愛する人に出会った
 夢の果永遠の旅に出た彼方へ この思い届けたい



 透明感のある伸びのよい声、静まり返った会場で、彼女の声とピアノの綺麗なメロディーが響いていく。


 ――眠れぬ夜を何度すごし 希望を求めて立ち上がる
 誰もが抱える悲しみ 夢を抱えどこまでも遠く
 忘れないでと願いをこめて 私は彼方の背を見送る



 あぁ、わたくしは今、歌っているのですね。
 こんなにも大勢の人の前で。

 静かに、だが心のどこかを揺さぶるような彼女の歌に、ステージ袖で彼女の背中を見つめながらウォドーは涙を拭う。

「あぁ、お前はいい歌を歌いやがるなぁ……今度は一緒に出てやりたいぜちくしょう!」

 ずずっと鼻をすすって、悔しそうにウォドーは呟いた。


 ――流れゆく雲を見上げ 私はここにいると
 変わらない日々の中 同じ空の下を生きる
 永遠の旅路を歩く彼方へ どうか届きますように



 瀬乃はウォドーが戻ってきたのにも気付かないほどに放心しており、なに泣いてんだと指摘されるまで自分の目から涙が零れていたことにさえ気付かなかった。

「いや、しかしいい歌だったなぁ」
「あぁ……」