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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!

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「へぇぇえ、アフタヌーンティーセットだって! 来てよかったね、マリちゃん!」
 白い蔦に覆われた鳥かごの中で、青と緑の羽根が綺麗なカワセミが──いや、鳥かごを仕込んだうず高い盛り髪が──いやいや、その盛り髪の主であるカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)が、そう言った。
 カワセミは機晶石で動く精巧なオルゴールの一種で、さっきネジを巻きなおしたばかりだ。今は綺麗な声で歌を歌っている。
 史実上にはもっと奇抜な髪型もあるというが、これもまた貴族の髪型だと言って彼女を仕立てたのはパートナーのマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)だ。
 彼女は上品なシルクハットの間から垂れるピンクの辮髪をピンとはじくと、目を輝かせてはしゃぐカナリーにこう言った。
「ドレスを見立ててもらうといいですな」
「うん、カナリーちゃん行ってきます! 衣装やアクセをキメてキメて、ふわーっと広がったスカートのドレス! だね!」
 カナリーは侍女の服を着たスタッフに連れられて、スキップでもしそうな勢いで、隣の更衣室用の部屋に入っていく。
 マリーの方はといえば、既に正装済みである。
 英国紳士を意識したタキシードにシルクハット。短いステッキ。
 袖から覗くピンクのカフスボタンは、長年髪の毛の色にあうシェルカメオのカフスを探していたが、ヴァイシャリーを訪れた際、近年のプライマリー・シーとの交易で入って来たものが見つかったというもの。
 シルクハットとコートを侍女に預けて、シノワズリであろうか、白に美しい緑の鳥が描かれたティーセットでお茶を頂いていると、ややあって出てきたカナリーもまた、すっかり貴族の令嬢になっていた。
 カナリーの要望(例の、「衣装やアクセをキメてキメて、ふわーっと広がったスカートのドレス」だ)と可愛らしい外見を引き立たせるため、フランスの宮廷風衣装、もっといえばマリー・アントワネットを思わせる衣装だ。
 胸元は大きく開き、コルセットで腰はすぼめてスカートはふんわり。ペチコートの上からこれでもかというくらい贅沢に布地を使ってボリュームを出している。ドレスのあちこちにはレースやリボンがふんだんにあしらわれ、お人形さんのようだった。
 古典的な衣装の形とは裏腹に、色合いはカナリーの髪の目の色、それにマリーとの対象性を意識して、白とベビーブルーで現代性を加えて。
 アクセサリーは何重にもなった真珠のネックレスとイヤリング、それにこれも必要ないと思われるほどリボンやフリルで飾りたてた日傘。
 香りは軽い菫の香水。
「ちょっと動きにくいなぁ……」
 カナリー身のこなしの指導を受けて、ロザリンドの手を借りながら席に着くと、席には丁度良いタイミングで、彼女の分のお茶が並べられた。
 貴族の城館、応接間を模した豪華な部屋の中にはこれまた豪華な丸い机とふかふかの椅子。
 マリーはお茶と、銀の三弾トレイに生花と共に芸術的に飾られた、サンドイッチとスコーン、ケーキ類というアフタヌーンティーを楽しみながら、それらを観察していた。
 ……単に道楽で、ここに来たわけではない。マリーは憲兵科所属の大尉だ。護衛任務などがあった時のためにも、守られる側の貴族がたや宮廷の、行動、振る舞い、考え方を知っておきたいと思っている。
 ──とはいえ。それは団長には秘密だ。
 薄く切ったスモークサーモンとクリームチーズにディルを添えたサンドイッチを摘まみつつ、
「このべんぱつ、元は英国紳士でありまして、香港返還前には警務で奉職し……、今は教導団の門番に毛が生えたようなものであります」と弁髪を揺する彼女は、団長の前で、単なる一団員のふりをした。
 大尉クラスの顔であれば、団長は知っている。マリーの以前のコンロンでの功績も。
 だがそのマリーの意図が──何故誘ったのか、何故身分を隠すのか──どこにあるかは、怪訝に思う部分もあったが、団長は表情も変えずに、
「任務ご苦労」
 とだけ、言った。
 マリーはキュウリのサンドイッチに手を伸ばしながら、彼女の皿からピスタチオの薄緑が綺麗なマカロンを奪い取ろうとするカナリーの指先を軽くいなしつつ、
「この肌年令の秘訣も香港在住の頃が元でありまして、おかげで教導団に入ってから磨きがかかりました、一部ではブラッディマリーと恐れられておりますが、なになに、18はお肌の曲がり角と申しまして、その前からの洗顔と適切なケアこそ……」
「……ほう」
「百合園のお嬢様方の出身が多い日本でいうとバブルを謳歌していたくらいといえば、おおよその年齢を察していただけるかと……」
 マリーはアンチエイジングの話題?を出しながら、軍隊について織り交ぜて話していく。
 人前だからあからさまな話題にはしていないが、マリーは軍隊と政治の在り方について、自分なりの考えがあるらしい。
 そんな真面目なマリーを余所に、カナリーはお替りのセイロンティーと一緒に、紅茶のアイスクリームを三人分、追加で頼んでいた。
「ね、ね、マジメな話は後にして、一緒に食べようよ。団長さんの深まる眉間の皺を和らげる係(自称)のカナリーちゃんとしては見過ごしておけないね」
「食べすぎでありませんかな?」
「ううん、美味しいから幾らでも入っちゃうよ! それに、マリちゃんと二人でお出かけするのはものすごーーっく久々だもんね」
 団長は、団長という立場に恥ずかしくないだけの振る舞いで、優雅にフォークを操っている。
 そして優雅にアイスクリームを口にして、それが何だかカナリーの目には面白く映るのだった。