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 第40章 平和への決意

 そして、季節は冬になる。
 山々の頂は雪で白く染まり、ヒラニプラの山岳地帯もそれは例外ではなかった。
「イイ山だなー! ここでスキーすんのか」
 スキー場までの山道を歩きながら、ナオキ・シュケディは初めて見て、触れるヒラニプラの山に嬉しそうに、若干興奮した声を出した。シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)を挟んで最後尾を歩いていた金元 ななな(かねもと・ななな)が、そんな彼に不思議そうに訊いてくる。
「山に良い山と良くない山があるの? シューさん」
「あるぜ! まあ、俺らが言う『良い山』ってのは、登るのに歯応えのある山ってことだな。ここは、スキー場は多少整備されてるみてーだけど、それ以外の場所は登りがいがありそうだ」
「俺ら?」
「ああ、ナオキも俺と同じ山岳愛好家なんだ。昔は、よく2人で山を登ったもんだぜ」
 なななを振り返り、シャウラは陽気な声で言った。加えてナオキは、スキーが好きだ。彼からパラミタに来ると連絡を受けたシャウラは、それなら一緒にスキーをしようと考えたのだ。その時に「そうだ! なななも誘おう!」と思い立ち、彼女が二つ返事でOKした結果、こうして3人で山を訪れている。ナオキは山に魅せられたようだし、なななも楽しみにしていたのかレンタルではなく、スキーセットを持参している。2人に楽しんで貰いたいと思っていたシャウラは、上機嫌だ。
 ちなみに、ななながナオキをシューさんと呼ぶのはまあ……何をかいわんやだろう。お互いに自己紹介した時、彼女は特に迷わず、彼をシューさんと命名した。

 ――この少し前、麓にて。
「こいつが、一緒に来るって言ってたマブダチのナオキ・シュケディだ」
「金元なななだよ。M76星雲からやってきた宇宙刑事だよ!」
「は? 宇宙刑事?」
「そう、宇宙を守る刑事だよ!」
 突然出てきた斜め45度くらいズレた言葉に、ナオキは面食らい、ご多分に漏れず驚いた。彼はなななをまじまじと見て、にこにこと浮かべられている笑顔に“宇宙刑事”とは“平和を守る”という意味なのだと解釈した。電波だとか厨学2年生だとかではなく。
(そう……だよな?)
 なななの頭頂部でみょんみょんしているアホ毛を見ながらも、そう思う。
「……成程。俺は地球の平和を守ってるナオキだ」
「ニューヨーク市警に居るんだぜ、ハイスクール時代からのダチさ」
 シャウラがそう補足し、ナオキは改めてなななに言う。
「よろしく、金元さん」
「そんな丁寧に呼ばなくても、なななでいいよ。シューさん」
「シューさん?」
 宇宙刑事と聞いた時ほどではないがナオキはきょとんとし、シュケディの『シュ』だと気付くと声を出して笑った。エピゼシーの『ゼ』だけ取られたシャウラよりは普通の呼び名だ。
「オーケーオーケー、わかった、ななな」

「んで、なななってさ、お前のコレ?」
 スキー場が間近になった頃、ナオキは興味のままにシャウラに小指を立ててみせる。すると、シャウラは渋い顔になった。聞かれてまずい話と思っていないらしく、ナオキは特に、声を潜めてもいない。
「まだ……、ダチだ」
「手を出さないなんて珍しいな。だってお前って……」
「ちょ、待て待て」
 シャウラは慌てて話を遮った。なななの前で、なんという話題を出してくるのか。
「ホンキで好きになった子が出来たんだ、だから、もうソレはしないって」
「ホンキで好きに……? それって」
 ちらり、とナオキはなななの方に目を遣った。ん? という表情になった彼女と目が合い、話が聞こえていたのか「えへへー」と、困ったような笑顔が返ってくる。シャウラは特に隠しているような言い方ではなかったし、彼女のこの反応は……
 だが、告ったのかと訊く前に、シャウラは話題をスキーに戻した。
「着いたぜ! なななはスキーは得意なのか?」
「うん! ななな、スポーツにはちょっと自信あるよ。ゼーさんは?」
「ナオキも俺もスキーは得意だ!」
 それから3人は、それぞれのスキーの腕を見せ合ったり、同じコースを一緒に滑ったりと、和気藹々とスキーを楽しんだ。シャウラとナオキは、雪が溶けるのではというくらいのやる気と熱気を放っている。
「おい、リフト乗ろうぜ」
 ナオキは2人をリフトに誘う。1人ずつ順に乗って難易度高めのコースに行く最中、彼は雪の積もった山を宙高くから見下ろすことになった。山肌を見ているうちに、彼の心は高揚してくる。頂上まで登ってみたい。この山だけではなく、山岳地帯にある山々の峰へも。
 そして、何より――
 1つ後ろのリフトに乗るなななを、ナオキはそっと振り返った。
 
「ナオキとなななと一緒できて、俺は超ハッピーだ!」
 それからも存分にスキーを堪能し、心から楽しそうに、シャウラは大声でこの日1日を総括した。
「なななも楽しかったよ! じゃあ、またねゼーさん、シューさん!」
 満足したらしいなななは、スキーセットを担いで明るい笑顔で帰っていった。2人きりになって、シャウラはナオキに声を掛ける。
「じゃあ、俺達も帰るか! ……うん? どうした? ナオキ」
 つい今までなななに浮かべていた陽気な笑みが消え、真剣な顔に変わっている。表情の温度差に、少なからずシャウラは驚いた。その彼に、ナオキは言う。
「俺もパラミタに来る事にした」
 彼の視線は、なななが歩いていった方に向けられている。ある予感がして、シャウラは不安になった。
「……どうして」
「平和を守らないといけないからな」
 なななは宇宙刑事だと名乗った。それは世界の平和を、世界だけではなくもっと大きく広い範囲まで守りたいという意味だろう。
「へ? 平和?」
 予想していた答えと違ったのか、シャウラは些かきょとんとしている。何を考えていたのかは分からないが、それは大した問題ではない。
「俺も刑事だからニューヨークの平和も大事だけど、今は、騒乱の最前線である此処で活動したい。パラミタが崩壊するかもしれないんだろ? そしたら……」
 この美しい山岳地帯も、崩壊してしまう。スキー場や駅のスタッフ、此処に遊びに来た人々、すれ違った人々。そんな、今日、旅路の中で出会った人々も無事でいられるかは分からない。
「そうか。パラミタの平和を……」
 神妙な顔になるシャウラに、ナオキは少し明るい声で続ける。それが、なんでもない事のように。
「んで、どうせなら親友のお前とチームでやりたいんだ。装置無しで済むようにしてくるから、その時はまたチームを組んでくれ」
「装置無し? ……お前、それって……!」
「メンタルリスクは知ってる。けど、お前と組むにはそれが一番だろ」
 顔色の変わったシャウラを遮り、ナオキははっきりと言い切った。地球人である彼が、契約者になれなかった彼が小型結界装置無しでヒラニプラに滞在する方法。
 それは、強化人間になる他にない。
「……俺がやるって決めたんだよ」
 真っ直ぐに、強い眼差しでナオキは言う。その瞳を見て、シャウラは悟った。こうなったら、彼はもう何を言っても意志を曲げない。こう、と決めたら譲らない一面を持っているから。久々に会っても、長く付き合ってきた仲だ。それくらいは、解る。
「……分かった。待ってる」
 だから、シャウラも覚悟を決めてそう応えるしかなかった。
「ああ、なるべく早く戻ってくるから」

 パラミタから帰国後、ナオキは強化人間になる為の処置を受け、戻ってきた。そしてシャウラと契約し――彼のパートナー、ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)として生きることになったのだ。

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

シナリオを担当させていただきました、沢樹一海です。
まず、シナリオ公開が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
様々な友人だったり、家族だったりを書かせていただきました。とても楽しかったです。
あ、むきプリ君はガイドにいなかったことにしてください。本文中には出てきていません。とはいえ、このマスコメの更に下の枠で新情報を書いていたりするので、マスペ更新時にその辺りは全体公開させていただきます。

今回、アクション提出にあたり『小型結界装置』の装備、というものを組み込みましたが、期間内ドロップが出来なかった場合や、多く回数を回さないと出なかった場合等があったようで、大変ご不便をおかけする結果となってしまいました。
次回、また、来年のいつになるかわかりませんが……もしシナリオを出せる機会があったら、また「Welcome.new life town 2」をやりたいと思います。その時は、ルールを大幅に改編して、アイテムはプラスアルファ要素程度に留め、装置が無くても参加可能になるように調整して公開できればと思っています。装置ドロップするのが大変だったと思うので、今回の参加者様には申し訳ないのですが……><

また、基本的に今回、個別コメントは連絡事項のある方、私信返信のみとさせていただいております。メッセージ等、全て読ませていただいております。いつもありがとうございます。

シナリオの雑感、今後の予定等は、改めてマスターページにてお知らせできればと思います(多分20日以降くらいになるかと)。
さて、ではこれから、クリスマス劇の作成に入ります(わわわわわ。……大丈夫、間に合わせる)。クリスマスの良い記念となるカオスなキャラクエになればと思っていますので、楽しみにお待ちください。

それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

12/14 一部キャラクターリンクを修正いたしました。