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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−11

「ルドルフさん、これからデスティニーランドに行かない? 俺の特訓に付き合ってほしいんだ」
 窓から見える空の色が変わる頃、ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)と向かい合って軽食をつまんでいた。それも殆ど無くなり、席を立つ頃合になってヴィナは話を切り出した。自然と、身が低くなる。
「特訓?」
「そう、明日の俺を助けると思って」
 25日のクリスマス当日、ヴィナは家族でデスティニーランドに行くことになっていた。それを説明してから、実は……と、告白する。
「俺は、絶叫マシーンが苦手なんだ……」
 1度、ルドルフは瞬きした。紙コップを口に運ぶ手も、同時に止まる。からかいを含んだ微笑が、その顔に浮かんだ。
「……ほう」
「うちの奥さん達が絶叫マシーンを外す訳がないんだ。でも断ったらその瞬間、俺の物理的生命の危機と精神的生命の危機が訪れる訳で。いや、断らなくても本番で絶叫を上げたら俺の物理的生命の危機と精神的生命の危機が訪れる訳で……だから、今日のうちに特訓しておきたいんだ」
「…………」
 ルドルフはヴィナから目を離さずに紅茶を一口飲んだ。迷ってはいなかったが、もう少し話す彼を見ていたい気持ちで答えを保留にしてみる。
「頼めるのは……ルドルフさん、あなたしかいないんだ」
 ヴィナは真剣な表情で迫ってくる。どうやら、あまり余裕はなさそうだ。
「信頼している戦友と思ってるなら、付き合うよね。というか、お願い、付き合ってください」
 懇願するように言い、見つめてくる。必死のようだ。
「俺は、体裁を保ちたいんだ……!」
「分かった、付き合うよ」
「え?」
「仕事も片付いたし……何より、面白そうだからね」
 微笑を湛えたまま立ち上がる。そうして、2人は薔薇の学舎校長室から空京へと向かった。

「う……」
 デスティニーランドに着き、ヴィナは頭上で超高速移動しているアトラクションを見て、一瞬、足を止めた。
「今日は、片っ端から絶叫マシーンに乗るよ」
 それでも勇気を奮い起こすように歩き出し、一つ目のコースターの列に並ぶ。やはり平静ではいられず、声が上ずった。
「ちょ、ちょっと、いや、かなり怖いんだけど、ルドルフさん、その、笑わないでね、ホント」
「……そうだね、気をつけることにするよ」
 声を抑えつつ笑っていたルドルフは、直後に真顔になって前を向いた。――また口元が緩むのに、そう時間は掛からなかったが。
 やがて順番が来て、ヴィナはルドルフと最前列の席に座った。安全バーを降ろしてぎゅっと握る。思わず、本音が出た。
「何だってこんなのに夢中になるんだ、うちの奥さん達はさあ」
 我ながら情けない声だった。だが、とても今はしっかりした声を出せそうにない。
「あ、ルドルフさん、仮面飛ぶといけないから外した方がいいかもよ」
「ああ、そうしようか」
 素顔を見せたことがある相手だからだろうか。ルドルフは特に抵抗なく、仮面を取った。
 そのうち、ゆっくりとコースターは動き出す。屋内から外へ、ローラーがレールの上を進む音が規則的に聞こえ――
「うわああああああああああああああああああ!!!」
 声の限りに、恥も外聞もなくヴィナは思い切り絶叫した。
「……………………」
 そして、コースターが一周した時、彼はルドルフの腕を思い切り掴んでいた。強く目を瞑り、カタカタと震えている。念のために言っておくが、寒いからではない。
「……終わったぞ、ヴィナ」
「え! あ、うん……」
 目を開けて状況を確認する。後ろに座っていた客が、次々と席を立っていた。ルドルフは、掴まれた腕の辺りを見て苦笑している。
「あ!」
 慌てて手を離してルドルフと直接目を合わせ、恥ずかしさを誤魔化すように抗弁した。
「こ、怖いのは怖いんだから仕方ないだろ!!」
 安全バーを握っていた筈だったのに、それがいつルドルフに変わったのか自分でも分からない。
「で、でも、こんな姿を主に娘に見せる訳には……」
 最悪、妻達に見られるのは有りらしい。
「そうだな。じゃあ次に行こうか」
 ルドルフは仮面を付け直し、風で乱れた髪を簡単に直すとバーを上げた。
「ルドルフさんは平気なのか?」
「ああ、全く問題ないな」
 驚くほどに涼しい顔で言い、彼は立ち上がった。
「……明日は、本当に俺、大丈夫だろうか……かなり心配だ……。あ、ルドルフさん、俺が散ったら骨は拾ってね。うん、マジで」
「……そうならないよう健闘を祈っているよ」
 機嫌良く笑いながらルドルフは答える。随分と面白そうだ。
「さあ、急ごう。閉園時間までまだあるとはいえ、ここは絶叫マシーンの数が多いからな」