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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 24−6

 デスティニーランドに併設されたショッピングモール。そこは上空から見ると、絵本の中にある世界みたいで。
 小人や妖精やホビットが今にも飛び出してきそうなファンタジー溢れた外観の建物は、精霊やアリスやハーフフェアリーが実際にいるこのパラミタでも、人々に“行ってみたい”と思わせる不思議な創造性を秘めていた。
 建物内は様々な専門店が並ぶ、創造性よりは現実性を感じる空間だ。だが今はクリスマスイブであり即ち、内部も創造性に溢れていた。各店舗ごとの個性ある飾りつけが何故か装飾過多にはならず、モール全体の雰囲気を盛り上げている。
「うーん、これぞクリスマスって感じね! 宮殿から出てきて良かったわ」
 雑貨屋やキャラクターショップ、そして今、お菓子の専門店を出た高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は、大きなクリスマスツリーの前で立ち止まり、言った。それから、「ね! 先生」と笑顔で酒杜 陽一(さかもり・よういち)を振り返る。
「ああ、護衛の人達も見守ってくれているようだし、ゆっくりとデスティニーランドを楽しもう」
 後方にも多少の意識を向けながら、陽一は笑顔で答える。何を隠そう、彼は今日、理子を宮殿から脱出させようと試みて失敗し、1度星になっている。だが、彼を気遣った理子が{SNM9998851#セレスティアーナ}や護衛を説得し、こうして外に出ることになった。
「でも、動きやすいからってこれで来たけど、ちょっと味気ないわよね」
 雪化粧の施されたツリーには金銀のふわふわしたオーナメントに丸い耳のついたボール、点滅するカラーライト等が飾られている。理子が着ているのは蒼空学園の制服で、動きやすく目立たないという利点はあるがあまりクリスマスっぽくはない。
 それに……と、理子はちらりと陽一の方を見た。彼女ももう19歳だ。せっかくだし、遊園地を好きな服でまわりたい、と思う。
「そうだ! デスティニーランドには衣装を貸してくれる場所があったはず。そこに行ってみませんか?」

「どうかな? これ」
 夜空を模した外観のその店は、貸し衣装兼写真スタジオになっていた。中には多種多様な衣装が用意されている。通常ならスタジオ内のみでの着用だが、数時間単位ならそのまま遊園地内を歩けるということで、理子は白いボタンがついたサンタをイメージした赤のワンピースを選んだ。丈が短めの白のフード付きコートを着て、胸元に朱色と白の混じった石のペンダントをつけている。
「そのペンダント……」
 誕生日プレゼントとして陽一が贈った、サードニクスのペンダントだ。
「実は、持って来てたんです。制服にアクセサリーはつけれないけど、これなら良いかなって」
 そう言って、理子は照れたような笑顔を浮かべる。
「似合ってますか?」
「うん、とても似合ってるよ」
「……先生はいつもとあんまり変わらないですね」
 夏祭りの時、彼女にペンダントを贈った時のことを思い出しながら答えると、嬉しそうな明るい顔で理子は言う。陽一は衿元に少し意匠が凝らされたジャケットスーツ姿だった。
「これも、キャラクターのコスチュームらしいよ」
 彼女に苦笑を返し、スタジオで写真を撮ってもらう。お互いの表情にコメントをしあってから2枚の写真をそれぞれの鞄にしまって外に出る。
「次はどこに行こうかなー。やっぱりジェットコースターとか……あれ?」
 きょろきょろしながら遊園地内を歩いていた理子が、ふと足を止めた。彼女の視線を追って、陽一も気付く。
「あの人は……いつぞやの女装男性じゃないか」
「あ、やっぱりそうですよね。あのインパクトは見間違えようがないし」
 2人が発見したのは、ホレグスリを売り歩くむきプリ君だった。彼女達は以前、女装むきプリ君が主催したバレンタインパーティーに参加したのだが――
「あの時はなんか、近寄りがたいヤバい感じがして挨拶しそびれてしまったんだよな」
 今も多少の下心的ヤバさは感じるがあの時に比べれば云百倍はマシだ。女装していなければただの筋肉である。
「今、お礼を言っておこうか」
 尤も、むきプリ君が2人の事を覚えているかどうかは分からないが。参加費はスタッフの少年に払ったし、陽一もあの時は理子の姿をしていた。ともあれ、彼はむきプリ君に近付いて声を掛ける。
「こんにちは」
「お? ……お前達まさかカップル……。!? そっちの女は……!」
 むきプリ君はリア充めいた2人に嫉妬の炎をメラメラと燃やした。が、理子を見て目を飛び出さんばかりに驚き慌てた。媚薬無許可販売でしょっぴかれると思ったのだ。
「バレンタインパーティーの時はありがとうございました」
「お? ……おお! あの時に来ていたのか!」
 話の内容に思い至った途端、むきプリ君は満面の笑みを浮かべた。今にも、『苦しゅうないぞ近う寄れ』とか言いそうな殿様的な空気を放散させる。
「随分と間が空いてしまいましたが、はい、ショッピングモールで買ったチョコレートですけど、よければどうぞ」
「な、なんだ、バレンタインの友チョコか! 貰っておくぞ!」
 安心して、むきプリ君は礼チョコを受け取った。ついでとばかりに、理子に言ってみる。
「ところで代王よ! ホレグスリをシャンバラ国公認の薬にする気はないか!?」
「え!? ……ううん、それは絶対に無いわ」
 ……まあ、今のところ中の人にその気が無いのでまず有り得ない夢であろう。
 だが、むきプリ君の野望は尽きないのだ。

              ◇◇◇◇◇◇

「気になるあの人との仲を進展させたい? 最近恋人とマンネリ気味? そんなことは、この沙幸サンタ(むしろホレグスリ)にお任せ!」
 その頃沙幸は、売り子のアルバイトをしながらホレグスリの小瓶を指に挟んでアピールする。ミニスカサンタな彼女の姿は、むきプリ君達とは違い異色さ0パーセントだった。クリスマスキャンペーン中のデスティニーランドにぴったりと調和している。
「……ん?」
 そこで、遠野 歌菜(とおの・かな)と歩いていた月崎 羽純(つきざき・はすみ)が売店の前で足を止めた。沙幸が小声でこっそり挟んだ『むしろホレグスリ』という声が聞こえたのだ。
 売店を見ている羽純を、歌菜が不思議そうに見上げてくる。
「どうしたの? 羽純くん」
「ああ、いや……歌菜、売店に寄ってくるから少し待っててくれ」
「売店? うん、いいよ♪」
 笑顔で頷く彼女から離れ、羽純は沙幸の前に立った。沙幸はちょうど、
「カップルの皆さんのキューピッドになっちゃうんだもん」
 とさりげなくホレグスリをPR中だった。
「ホレグスリを1本くれ」
「はい! 500Gだよ」
 沙幸は売り場から小瓶を取って羽純に渡した。仕入れ値はタダだが、むきプリ君が500Gで売っているのだから500Gなのである。そして、何気に――
(売れ残ったり、ばれて回収しなきゃいけなくなったりしたら、少しくらいもらってっても……いいよね?)
 とか、思っていた。その彼女に、羽純は小瓶をしまいつつ1つ聞いてみる。
「しかし、こんなものを売って……危なくはないのか?」
 イルミンスールで幾度となく騒ぎを起こしてきたホレグスリについては彼も聞いたことがある。薬を拡散させた張本人は、その度に成敗されるという末路を辿ってきたはずだ。
「うーん……きっと、むきプリ君のようにそこらじゅうで売り歩くよりは安全じゃないかな?」

              ◇◇◇◇◇◇

「クリスマスの遊園地で変質者を放し飼いにしてるってどうなのよ……。さくっと退治しちゃいましょ!」
 その頃、デスティニーランドに到着した藤林 エリス(ふじばやし・えりす)は、アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)と一緒にむきプリ君を探していた。2人共、ミニスカヘソ出しのサンタ服だ。
「アイリ、その格好も結構似合ってるわよ? 真面目な優等生も、たまには勝負服着ないとね★」
「そうですか? ありがとうございます。着慣れないので少し落ち着かない気もしますが、頑張りますね。これで、むきプリ君という変態を誘い出すんですね」
「そう、痴漢退治は現行犯の正当防衛が基本よ!」
 エリスは、力強くアイリに言う。2人でセクシーな格好をして自ら囮となり、わざと迫られるというのが今回の彼女の作戦だ。
「襲われたら逆襲して、一気にお仕置きするわよ!」
 まじかるぶれすれっとを着け、ディテクトエビルを使って更に邪念――文字通りのヨコシマな念を感知し逃さないようにしながら遊園地内を巡回する。
「むむ、何故ホレグスリが売れない! 飲まない! 俺はこんなに魅力的だというのに!」
 むきプリ君がエリス達を見つけたのはそれから数分後、道往く女性達に声を掛ける端から逃げられ、ホレグスリが全く売れずに1人マッスルマンショーをしていた時だった。
「! あの女達……!」
 むきプリ君の下半身がぴくりと反応する。
 今日は、夜には雪が降ると予報されている程に気温が低い。その中でヘソを出し、生脚を出して扇情的な格好で遊園地を歩いているというのは――
「さては、男に飢えているなっ!!」
 ――そう。そうに違いない。100%間違いない。
 女性に飢えているから殊更に扇情的に見えるのかもしれないが、本能が下す命令のままにむきプリ君は両手に花ならぬ両手にホレグスリでエリスとアイリに襲い掛かった。
「さあお前達っっ! 俺を求めろ!」
「掛かったわね! 変態筋肉!」
 直後に振り返ったエリスは口にホレグスリを突っ込もうとするむきプリ君の極太の腕を避け、キレのある動きで股間に膝蹴りを食らわせた。
「ぬぉわあああ!!」
 準備万端になっていた股間が別の意味で絶頂に達し、むきプリ君はごろんごろん転がった。「あぁぁぁあ……」という野太い声が周囲に、空にこだまし消えていく中、エリスはアルティメットフォームで魔法少女に究極変身する。
「愛と正義と平等の名の下に! 革命的魔法少女レッドスター☆えりりん!」
 空色の、レオタード風魔法少女戦闘服姿に変身したえりりんに続き、アイリも魔法少女に変身する。
「魔法少女アウストラリス!」
 そして、ハートの杖先をむきプリ君に突きつけて彼女は言った。
「えりりんさん、よくわかりました。この筋肉は倒されるべき怪人です」
 肯定する事が基本理念のアイリでも、否定することはある。
「愛の心を弄び、乙女を襲う不埒な輩には天罰よ☆ 覚悟なさい!」
 エリスはまじかる☆くらぶに口付けし、それを2本に分割して両手に構えた。
「ま、魔法少女だと……!?」
 ごろんごろんしていたむきプリ君は驚愕の目でえりりんとアウストラリスを見た。魔法少女には、以前にも成敗されたことがある。早々やられてたまるかと、むきプリ君は急いでとんずらしようとした。
「逃がさないわよ! 全身叩きのめしてあげるわ!」
 その彼に素早く接近し、えりりんは古代シャンバラ式杖術でむきぷり君をぼこぼこにした。彼女が離れると、アウストラリスが杖から光り輝く魔法を迸らせる。
「ぬおおおおおお!!」
「脂ぎった身体でよく燃えそうね。愛の炎で汚物は焼却よ☆」
 えりりんはさーちあんどですとろいでトドメを刺す。冬空の下に、クリスマスチキンならぬ筋肉の丸焼きが提供された。
「――お仕置き完了☆」
 えりりんとアウストラリスは、ギャラリーとなっていた来園客にポーズを取った。

「……さてと」
 変身を解いたエリスは、同じく変身を解いたアイリに笑顔を向ける。
「悪も滅ぼしたし、ついでだから少し見物して帰ろっか?」
「見物、ですか?」
「クリスマスに女2人で遊園地ってのも色気の無い話だけど……たまにはここにもお金落としてあげないと、あの社長がまた潰れそうだ何とかしてくれって泣きついてきそうだし……」
 エリスの言葉に、アイリはメディアで何度か見た、ヴォルト・デスティニーの顔を思い出した。
「そうですね。何箇所かまわってみましょうか」
「決定ね! じゃあ、どこからまわる? あたしはね……」
 2人はデスティニーランドを歩きながら、次の行き先についての相談を始めた。

              ◇◇◇◇◇◇

 一方、美味しくいただく者がいないまま冷めていく筋肉の丸焼きは――
「息子よ! ホレグスリの売れ行きはどうだ!? 息子よ……! う、美味そうではないか!」
 別の場所で薬を売っていたチッチーに回収された。