校長室
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
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25−15 「スイートな部屋は風呂の広さも段違いだな。正に、俺に相応しい!」 男2人で泊まるにしては部屋の内装が少々メルヘンチックではあったが、それはデスティニーランドの特色であり、昨日も男3人でメルヘンであったむきプリ君はやむをえない部分としてあまり気にしていなかった。 入浴を終えてバスルームから出ると、部屋ではバスローブ1枚の『闘神の書』が酒とつまみを大量に用意して彼の事を待っていて、白い歯を見せて手招きする。 「さあどんどん飲んで食いねぇ!」 テーブルは窓際に寄せられていて、全面硝子張りの窓からは灯を落としたデスティニーランドの夜景が見える。夜の暗闇に沈む遊園地は光とエンターテイメント性を失って、ある意味本来の姿を晒していた。 向かいに座ると、闘神は早速ぐい呑みに日本酒を注いで渡してくる。何度か一緒に晩酌を共にし、お互いに酒豪であることは分かっている。量や味の嗜好について細かく考える必要もなく、ホテルは瞬く間に気楽で気ままな飲みの場になった。 「我も飲ませてもらうし、勿論遠慮はいらねぇぜ!」 風呂上りということもあり最初は緩めに嗜んでいき。徐々にペースを上げていく。むきプリ君に酒とつまみを勧めつつ、闘神は自身も豪快に飲んだ。 飲みながら、闘神は上機嫌でむきプリ君に言う。 「どうでぃ? 今日の遊園地は中々のもんだったろい?」 一日中遊園地で遊び、『遊び』といっても彼にとってはデートのようなもの――というかデートだ。闘神の気持ちを知っているむきプリ君としても、意識の上ではただの遊びとは言えなかったが。 「ああ、そうだな……」 黒髪長髪の女に殴られたこと以外は実に平和で悪くない1日だった。遊園地に来たことはあっても、これまでターゲットの舞台として選んでいただけで遊んだことのないむきプリ君にとって、こうして普通に回るのは初めての体験であり。 「さすが、あれだけの人が集まるだけはあるな。どのアトラクションも良い出来だった!」 そしてむきプリ君は、窓の外の寝静まるアトラクションを指差しながら1日の思い出を大声で語った。 やがて持ち込んだつまみも尽き、思い出も一通り語り尽くし、闘神は何となくまったりと日本酒を飲む。いい景色は、それだけで酒が進むものだ。 「ムッキーとクリスマスを一緒に過ごせて、我は幸せだったぜ?」 夜の景色を前に、静かな空気の中で2人でいるこの時をしみじみと感じて闘神は言う。たとえデートではなかったとしても、好きな相手とこうやってクリスマスを過ごせるだけで儲けものだ。 「ほう、そうか……」 酒が深めに入って心地良いのか、むきプリ君は微妙に空気の方向が変わったことにも無頓着に、夢うつつな顔で相槌を打った。穏やかで柔らかな雰囲気は保たれたままに時は流れ、「そういやぁ……」と、闘神は思い出したように口を開いた。興味本位の部分が大きいが、聞いてみたいことがあった。 「ムッキーひとつ聞きたいんだが……仮に女子と付き合って何がしたいんだ?」 「む? 何がしたい……とは?」 しまりのない顔をしていたむきプリ君は、我に返った顔で質問の意味が分からない、というように眉をひそめた。何がも何もないだろう、という感じだ。その彼に、闘神は簡単に補足を入れる。 「恋人が出来たとして、その先の事だな」 「その先……、そうだな……」 難しい表情でむきプリ君は腕を組んで考え始めた。 「彼女が出来たら、思う存分に俺の欲望を満たしたい。好きだと言われている状態で、独り身の連中から爆発しろと言われたい。本気の愛を俺だけに向けてくれる相手が欲しい……そんなものか」 夢の恋人ライフを想像してたまににへらと笑いながらも、全体的には真面目な表情を保って彼は答えた。 「無論、付き合い出したら色々変わることもあるだろうが、実際に出来るまではこんなことしか言えないな。俺のただの妄想であり、欲望だな。答えになっているかどうかもわからん」 後半に行くにつれ相手が女である必然性が無いと思われそうだが、むきプリ君の想像の中にいるのは全て女性だった。相手が女性であるのは彼の本能がそれを求めているからで、それ以上でも以下でもないのだろう。理由はあって、ないようなものだ。子供の頃からそれが当たり前の価値観であり、他の選択肢を考えたことがなかったのだ。 「その上で、俺もその女を心から愛せれば万々歳だな。お父様ではないが、愛は素晴らしいものだ。ホレグスリを飲み、惚れる感覚を知り、更にそう思うようになった」 「そうかぁ……んで、好みのタイプはいねぇんだよな? ……そうだムッキー、なんなら我を好みのタイプにしてみてはどうでぃ?」 闘神は聞いた答えをむきプリ君の恋愛観として整理しながら、冗句混じりに彼に言ってみる。すると、ぎょっとしたり警戒したり驚いたりすることなく、むきプリ君は日本酒を一口飲んでから闘神に言った。 「好みのタイプは加えようと思って加えられるものではないが……検討してみよう。好きだと思うことで、友とは違う魅力を感じることもあるかもしれないからな!」 「? む、ムッキー……?」 まさか前向きな返答が来るとは予想していなかった闘神は、その言葉に驚き、少し慌てた。1日遊びまわり、疲れてしまったのだろうかと心配する。 「おいおい、らしくねぇなムッキー? でぇじょーぶか?」 「闘神……」 むきプリ君は、闘神に向き直った。その表情には、バレンタインのホテルで見せたような真剣さがある。チッチーのアドバイスの影響もあるが、クリスマスという日の誘いを受けた時から、むきプリ君は彼に対して以前より積極的になろうと思っていた。肉体的にというよりは、欲を満たすべき相手として。今までは、友人関係を保つ事ばかりに気を取られていた。だが、それは、その行為は、あの時の自分の言葉にすら反するものなのではなかっただろうか。 「闘神、俺からも質問がある。お前は、俺が女を襲わなくなったり女に薄い反応をしたりすると心配するが……それは、男好きを望む闘神としては喜ぶところではないだろうか。俺が俺らしくあるのが好きだ、というのは解らないでもないのだが……」 どうにも、むきプリ君にはそこが矛盾しているように思えるのだ。 「もし俺がお前を本気で好きになったとしたら……お前は、俺にどんな男になってもらいたい? 女好きな俺が俺らしいというのなら……付き合い出しても、俺は女を見たら見境のない男のままでいいということか?」 「む、ムッキー、それはだな……」 彼の問いに驚き、闘神はすぐには答えを返せずに絶句した。ただ、真面目なむきプリ君を見ていると、その魅力に性欲が湧いてくるのは確かで―― 「その答えを聞いて――俺は、前に進みたいと思う」 むきプリ君は闘神の元気な股間をきっちりとその表情で捉えながらも、また日本酒に口をつけた。