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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』
サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』 サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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【2022年12月24日 08:55AM】

 ついでだから、ということで、フレデリカは更に簀巻き組を見て廻ることにした。
 更に東へ移動すると、裏椿 理王(うらつばき・りおう)桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)杜守 三月(ともり・みつき)湯浅 忍(ゆあさ・しのぶ)一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)といった面々が簀巻きにされて転がっていたが、中でもフレデリカが思わずぎょっと仰け反ったのは、月詠 司(つくよみ・つかさ)の姿に対してであった。
 実はこの司、昨晩はフレデリカの手伝いとしてパーティー会場に足を踏み入れていた筈なのである。
 それが何故こんなところで、簀巻きにされて転がっているのか。
 フレデリカは、何となく嫌な予感を覚えた。
「ねぇ、司さん……簀巻きにされた理由、覚えてる?」
「いえ……それが、さっぱり」
 司は見ている方が気の毒になる程の狼狽ぶりで、半分涙目になっている。
 ただ単に簀巻きにされているから、というだけではなく、簀巻きの下の衣装がミニスカサンタだったことも追い打ちをかけているのだろう。
 しっかり無駄毛処理まで施した艶めかしい両脚が簀巻きから伸びている様は、女のフレデリカが見ても、色っぽいと思う程であった。
「まぁ、あなたが何をしてたかは他のひとからの証言も組み合わせて、色々推測してみるわね」
「はい……なるべく、私が無実である方向でお願いします」
 懇願する司に対して、フレデリカは流石にそこまでは約束出来ないと、無碍に断るしかなかった。
 フレデリカが次に注目したのは、理王と屍鬼乃であった。
「で、あなたは昨晩、何をしていたの?」
「知れたこと。オレは正子の部屋を探し求めていたのだ」
 正子とはいうまでもなく、馬場正子のことである。
 理王の着想が今ひとつ理解出来ず、フレデリカは思わず小首を傾げた。
「ふぅん……で、馬場さんの部屋に行って、何するつもりだったの?」
「勿論、正子と会い、触れ合い、そして言葉を交わす為に決まっておろう!」
 堂々と、そして何故か爽やかにいい切った。
 傍らの屍鬼乃は無表情のまま、隣の理王の熱い言葉を何となく聞き流している。
 一体、何なのだこのふたりは――フレデリカはますます分からなくなってきたが、しかし少なくとも、秘宝とは直接的な関連はなさそうである。
 この場は、適当に流して次に行った方が早いという判断が、フレデリカの中で働いた。
 フレデリカが次に声をかけたのは、三月だった。
「僕は、何してたかなぁ……何となくだけど、誰かを簀巻きにしたような気がするんだけど」
「それがどうして、自分が簀巻きにされちゃってる訳?」
 心底呆れた表情で、フレデリカは三月の顔をまじまじと眺めた。
 三月もよく分からないといった様子で、簀巻きにされた窮屈な姿勢ながらも、小さく肩を竦めた。
「それは僕が訊きたいぐらいだけど……でも、僕のパートナーが、僕が簀巻きにしようとしてた相手に、何かを渡してたのは覚えてる。秘宝だか何だかいってたような気がするけど」
 その瞬間、フレデリカの表情が一変した。
 まさか三月の口から、秘宝のふた文字が飛び出して来ようなどとは、思っても見なかったからである。
 三月の証言は、フレデリカにとっては思わぬ収穫となるかも知れない。
「じゃあ、あなたが簀巻きにした相手っていうのが、かなり怪しいわね。調べる価値があるわ」
 ひとりで勝手に納得しながら、最後に顔を向けたのは忍と悲哀の両名であった。
「俺、何やってたんだっけなぁ?」
 忍は簀巻きにされているという現状をあまり深く考えてはいない様子で、どこか呑気な調子で明後日の方角を眺めている。
 対する悲哀は、さめざめと泣き崩れる乙女の如き様相を呈していた。
「おかしいです……こんなの、有り得ないです。どうして……どうして私が、簀巻きなどに……同じ簀巻きにされるなら、せめて耀助さんと一緒が良かったです……」
 ところが、である。
 フレデリカは忍と悲哀が簀巻きにされている理由を、よく知っていた。
 というより、その経緯について、多少ならずとも関わっていた、というのが正しい。
(このふたりからは、詳しく聞く必要はないわね)
 フレデリカはやれやれと、小さくかぶりを振った。


     * * *



「あらぁん、理王ちゃんじゃない! これから正子さんの部屋で酒盛りするんだけど、一緒に来ない?」
 客室階の廊下で、馬場さんの部屋を捜し歩いている理王さんを、理沙さんが弾んだ声で呼び止めてる。もしかして、少し酔ってる?
 サンタ仕様のワイヴァーンドールズ衣装が、この時はセクシーっていうより、ちょっと卑猥なくらいいやらしく見えたのは、何故かしら。
 隣のセレスティアさんはハンディカムなんか持ってるけど、女子会ってやつを、ビデオ記録に撮るつもりなのかしら。
 それはともかく、馬場さんん名前を聞いた理王さんの顔つきが、一瞬で物凄い形相に変わったのが印象的だわね。
「正子の部屋に行くというのか! ならば是非! 是非是非是非!」
 何もそんな気合入れなくても……でもまぁ、よっぽど馬場さんに会いたかったんだね。
 隣の屍鬼乃さんが妙に無表情なのが気になるけど……きっと、元々がこういう性格なんだね、うん。
 とかいってたら、廊下の向こうから走ってくる影が。あれ、馬場さんじゃない?
「おぉ! 正子! 君の方から来てくれるとは! さぁ、オレの胸に飛び込んでくるが良い!」
「邪魔だ!」
 折角両手を開いて目を輝かせてた理王さんは、哀れ、馬場さんの剛腕に薙ぎ倒されて、白目剥いちゃってる……それを冷静に眺めて観察している屍鬼乃さんって、ちょっと怖い。
「あらら、正子さんどぉしたのぉ?」
 理沙さんが妙にしなだれかかるような仕草で問いかけると、馬場さん、物凄く難しい顔で奥歯をぎりぎりと噛み締めてるじゃない。本当に、何かあったって感じで。
「古代ローマ風大浴場の女湯が、大変なことになっておる。わしは今から、生徒達の安否を確かめに行かねばならん」
「え〜? 折角酒盛りしようと思ってたのにぃ〜」
 残念そうに身をよじる理沙さんだけど、そこはセレスティアさんが分別を利かして、穏やかになだめてる。
「正子さんも校長という立場なんだから無理はいえないわ……行ってください、行ってください、正子さん。理沙は私が面倒見ますから」
「うむ、すまんな。この埋め合わせは必ずする故、今夜だけは許せ」
 そういって、物凄い勢いで走り去っていった馬場さん。
 その馬場さんが向かった先の女湯こそ、この夜最大の難所だったのよね。
 さっきもいったけど、非リア充エターナル解放同盟の連中がホテル内にリア充爆発テロを仕掛けた上に、女湯の一角を自陣として占拠しちゃったのよ。
 到底、許せる話じゃないわよね。
 この少し前、仁科耀助さんが忍さんにそそのかされて、女湯を覗きに行くという暴挙に出てたの。
 でもって、たまたま一緒に居た悲哀さんも何故か同行することになっちゃって、女が女湯を覗くっていう、物凄く異常な光景が展開されてたって訳。
 でも悲哀さん、可哀想っちゃあ可哀想だよね。
 折角耀助さんにプレゼントした手編みのマフラーが、素面がバレないようにとのことで、臨時のデバガメマスクにされちゃったんだもん。
 まぁでも、耀助さんが嬉しそうに使ってるんだから、案外悲哀さんにとっては本望だったかもね。
 女湯覗きは、全然本望じゃないかも知れないけど。
「あぅぅ……どうして私がこんなことを……あ、でもあのひと、凄くスタイルが良い……私も、負けてられません!」
 ……結構真剣に覗いてんじゃないの。
「いやー、絶景絶景……って、ん? 何だか妙に騒がしいな」
 忍さんがいうように、覗かれて悲鳴を上げてる女性達とは別に、違う方角から妙に騒がしい音が。
 しばらくして、武装した連中がいきなり女湯の一部と脱衣所を占拠し始めたわ。
 そう、こいつらが……非リア充エターナル解放同盟。
 女湯に居た裸の女性客の大半は、こいつらに衣服を没収された為に、湯船から出ることも出来なくなっちゃってる。
 本当に女の敵だよね、こいつら。
 女湯だから監視カメラもほとんど設置されてないし、堂々と潜伏するにはもってこいの場所ってことね。

「こら、そこ! 何やってるの!」
 忍さんと悲哀さん、そして耀助さんの女湯覗きを発見した美羽さんが、鬼のような形相で三人に迫っていくけど、三人ともまだ、女湯が占拠されている事実を知らないし、美羽さんもこの時はまだ、例の通信を受けて到着したばかりだから何も気づいてない。
 ただとにかく、女湯を覗いている三人に対し義憤を発してるってとこかしら。
「あちゃ、こりゃやばい。逃げよう」
 耀助さん、全然危機感がない。
 相手は足技の大御所だよ? そんな呑気なこといってたら……って、もう遅かった。
 三人とも、美羽さんの舞うような蹴りの嵐にノックアウトされて、そのまんま簀巻きにされちゃった。
 ついでにいうとね、エヴァルトさんを簀巻きにしたのも、どうやら美羽さんだったみたい。
 たまたま非リア充エターナル解放同盟の騒ぎに気づいたエヴァルトさんが、女湯に走り込んできたのを、
「この女の敵め!」
 とか何とか叫んでる美羽さんの凄まじい剣幕に圧倒され、そのまま為す術もなく簀巻きにされちゃったんだって。
 エヴァルトさんこそ、本当にただのとばっちりだよね。気の毒な話。
 でも、非リア充エターナル解放同盟の連中って、案外頭が良いのかも知れない。
 リア充なひとびとを襲っては簀巻きに仕上げてホテルの外に放り出すという、一見すれば他の簀巻き被害者と何ら変わらない状況を装うことで、自分達の存在を見事に消し去ってるんだもの。
 実は、司さんや三月さんが簀巻きにされたのも、こいつらが原因。
 まず司さんだけど……あれ、フィーアさんと一緒になって、リア充爆発テロ仕掛けてるんじゃない?
「うわー、何故だー、何故ですかー。どうしてリア充爆発テロなんかを……」
「つべこべいわずにキリキリ働く!」
 フィーアさんに引きずり回される形で、リア充爆発テロやっちゃってるよ。
 まぁ何をするかは本人の自由だけど、せめてミニスカサンタ衣装ぐらい脱ぎなさいよ。こっちまで怪しまれるじゃないの。
「こら〜! 待て〜!」
 少し離れたところで、三月さんの声がした。
 どうやら、キロス君を追いかけてたみたい。
 キロス君、相当へばってるみたいで、本来なら三月さん相手に不覚を取るような腕じゃないけど、もう面倒臭くなってるって顔で、為されるがままに簀巻きにされちゃってるわ。
 あのキロス君を簀巻きにしたんだから、大したものかも知れないけそ、その直後、三月さんも簀巻きにされる運命なのよね。
 リア充の象徴たるミニスカサンタ衣装を身につけた司さんが、非リア充エターナル解放同盟に目を付けられたのは当然として、三月さんまで巻き込まれたのは、もう完全に運が悪かったとしかいいようがないかしら。

 この時、私の時計は2022年12月24日の02:00頃を差していた。