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レターズ・オブ・バレンタイン

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レターズ・オブ・バレンタイン
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12)

水上の町アイールにて。
「繊月の湖」を眺めていた、
博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)
リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)の夫婦は、
さわやかな風を受け、ゆったりと佇んでいた。

「リンネさん、ボートに乗って見ませんか?」
「本当?」
博季の言葉に、リンネは瞳を輝かせる。
リンネは、きゅっと、博季の腕に自分の腕をからめた。
「リンネさん?」
「ふふ。博季くんの言葉がうれしかったから、ひっつきたくなっちゃった。
……ダメかな?」
「もちろん、ダメじゃありませんよ」
博季は、リンネの髪をくしゃっとなでると、腕を組んだまま、ボート乗り場に歩き出した。

小さな、カラフルなボートに、2人で乗って。
博季が、ゆっくりとオールをこいでいく。
「湖の上は、もっと風が気持ちいいね!」
リンネが、湖の水面に手を伸ばし、ちゃぷちゃぷとふれて、博季に笑いかけた。
「ええ、そうですね。リンネさんに喜んでもらえてよかったです」
博季が、にっこりとうなずく。
「あ、お魚!」
透明な水面の下に泳ぐ魚を発見して、リンネがはしゃいだ声をあげる。
「本当だ。綺麗ですね」
「うん、とっても綺麗」
赤と青緑の鱗の魚は、宝石のように、日光の下、きらめいていた。

2人でオールをこいで、湖の真ん中にやってきたとき。
「あー、気持ちいいなあ」
リンネが、大きく伸びをした。
「こんな素敵な場所に連れてきてくれて、ありがとうね、博季くん!」
「いえいえ、こちらこそ。リンネさんの笑顔を見ることができて、僕はとっても幸せです」
しばらく、日の光を受けて、のんびりしていた2人だが、
ふと、博季が、バスケットを取り出した。
「リンネさん、お腹すきませんか?」
「わ、お弁当!」
リンネが、瞳を輝かせる。
「ありがとう! 博季くんのお料理、こんな綺麗な場所で食べられて幸せだよ」
「どういたしまして」
2人は、なかよくお弁当箱を広げた。

「このサンドイッチ、おいしい!」
「ありがとうございます。今度、作り方、教えてさしあげますね」
「うん、私、お料理は苦手だけど、
博季くんにいつもお料理作ってもらうだけじゃなくて、
おいしいもの食べさせてあげたいから、がんばるよ」
「ええ、ありがとうございます」
博季は、優しい微笑を浮かべた。

「ほら、博季くん、あーんして」
リンネが、タコさんウインナーをフォークにさして、博季に差し出す。
「あーん」
博季がそれをぱくりと受け取る。
「美味しいです。ありがとうございます。……では、お返ししましょうね。はい、あーん」
「あーん」
リンネは、博季にから揚げを食べさせてもらった。

「ふふ」
「あはは」
博季とリンネ、2人の顔に同時に笑みがこぼれる。
夫婦の幸せな時間。
いつまでも、こんな時間が過ごせますように……。
そう、博季が思っていると。
頬に、柔らかい感触がした。
振り返ると、リンネが笑っていた。
キスをされたのだと気づいて、博季も笑った。
「おかえしです」
「きゃ……」
2人は、今度は、唇にキスを交わし、お互いを抱擁した。

夕日が暮れる頃。
「私、博季くんと結婚できて、本当によかった」
リンネが、赤い太陽を背に、そう告げた。
「僕もですよ、リンネさん」
そして、そう答えた博季は、リンネに手紙を差し出す。
「恥ずかしいから、今ここでは開けずに、後で読んでくださいね」
博季が、頬を染めて言った。
「えっとその、改めて、何を書いたらいいかわからなかったんですが……笑わないでくださいね」
「笑わないよ」
リンネが、穏やかにうなずいた。
「大切に読むね。そしたら、私もお返事書くから……待っててね」
リンネが、照れくさそうな、
それでいて穏やかな笑みを浮かべ、手紙を受け取る。

夕日が、2人を、ずっと照らし出していた。