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今日は、雪日和。

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 ■ ほろ酔い雪見酒 ■



 雪に覆われた白い世界を月が照らす。
 いつもと違って見える庭を眺めていた月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、雪見酒をしてみたいからと遠野 歌菜(とおの・かな)に酒とつまみをリクエストした。
 歌菜が用意している間に羽純は、ソファを窓辺へと移動させ、料理が載せられるようにサイドテーブルもセットする。
「おまたせ。わあ、なんだか本格的だね♪」
 お盆にお酒とつまみを載せて持ってきた歌菜が、セッティングを見て嬉しそうに言った。
「こういうのは気分だからな」
「うんうん、なんだか凄くロマンチックでいいね、こういうの」
 歌菜は準備してきた熱燗とつまみをサイドテーブルに載せてゆく。
 つまみは湯豆腐、寒ブリと寒平目のお刺身サラダ、牛すじの煮込み。
 並べ終えると、2人でソファに腰掛けて、月に照り映える雪景色を眺めながらまずは乾杯。
「この牛すじの煮込み、旨いな」
「お味噌を隠し味に入れた、ママ直伝のレシピなの。羽純くんの口に合ったなら良かった♪」
 ほろほろに柔らかく煮込んだ牛すじも、湯気をたちのぼらせている湯豆腐も、さっぱりしたお刺身サラダもどれも熱燗によくあって美味しい。
 歌菜には熱燗の味は正直まだよく分からない。けれど、身体がほかほかしてくる感覚が気持ち良い。
 それに何より、雪見酒をしている羽純が穏やかにくつろいだ表情でいることに幸せを感じた。

 しんしんとまだ降り続いている雪はとても冷たそうだけれど、羽純くんといるここは、とても暖かい。
 月明かりもとても綺麗で……お酒を呑んでる羽純くんも……綺麗で。
 なんて贅沢なんだろう。

 そんなことを考えて、ふふっと歌菜が笑みを漏らすと、それに気付いた羽純がどうした? と尋ねてきた。
 けれど本人に話すのは恥ずかしいから、
「えへへ……秘密♪」
 と歌菜は笑ってはぐらかした。
「秘密にされると余計に気になるな。……教えろよ」
 ずいと身を乗り出してくる羽純に、歌菜は慌てて手を振り回す。
「きゃー秘密なのは秘密なの! 羽純くんに迫られても、口が裂けても言えませんっ。羽純くんが綺麗過ぎて、ドキドキしたなんて」
「俺が綺麗?」
 羽純に聞き返されて、歌菜はえっと自分の口を押さえた。
「って、嘘? 今の、私、口に出してた!?」
「ああ。それも思い切り」
「はわわわー!」
 歌菜の頬が一気に熱くなる。
「どどどどどうしよう。男の人に『綺麗』って面と向かって言うの、どうなの? そりゃあ綺麗っていうのは素直な感想で、いつも思ってるけど……って、これも口に出してた!?」
「歌菜……酔ってるのか?」
「酔って……そうなのかな。私、酔っぱらうと心の声が口に出ちゃうっぽい?」
 ほわほわ気分が楽しくて、ついつい熱燗を飲み過ぎてしまったかも知れない。自分では酔っている感覚はしないけれど……というか、頬が熱いのは酔っている所為なのか、恥ずかしさの所為なのか、さっぱり分からない。
「そうか、歌菜は酔うとより素直になるんだな」
 面白い、と言う羽純に、歌菜は叫ぶ。
「聞かなかったことにして〜ッ」
 羽純の顔を見ていられなくなって歌菜は真っ赤になった顔を伏せる。
 と、その肩が羽純に抱き寄せられた。
「聞いてしまったことを聞かなかったことには出来ない」
「でもでも、そこを何とか。だいたい、綺麗すぎる羽純くんにも原因はあるんだから〜」
 酔いの所為で照れ隠しも出来ないでいる歌菜の耳元に、羽純の笑みを含んだ声がそっと吹き込まれる。
「バカだな……お前の方が……綺麗だ」
 顔が熱い。
 頬が痛いほど紅潮しているのが自分でも分かる。
 夫婦になってからも、歌菜は羽純にドキドキさせられっぱなし。そしてそれはきっとこれからも続くのだろう。

 外は雪景色。
 けれど今なら、すっぽり積もった雪もすぐに溶けてしまいそうだと、歌菜は熱の中に目を閉じた――。