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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【もう少しだけ】


「あ、破名さん。どうしました? 何か探しものですか?」
 ぬいぐるみ班の机に近寄ってきた破名に気づいた豊美ちゃんは作業の手を休め、席から立ち上がった。
「否、用ではなく、これを返しに」
 と差し出されたのはぬいぐるみ用の型紙類。
「それとこれを」
 と、もう片方の手も差し出すと、掌を開く。握られてるのは、いつの間にか消えていた手芸道具達だった。
「すまない」
「大丈夫ですよー、ちゃんと分かってます。一日も早く安定するといいですね」
「クリスマスまでにはなんとか調整するつもりだ。でないと折角のプレゼントを直前で消してしまう」
 瞬間移動を意のままにする転移の能力は現在不安定というより設定の調整中である。加減がわからずあっちこっちに物を飛ばし散乱させている現状に破名は申し訳ないと豊美ちゃんに頭を下げた。


*...***...*


 少しの時間を置いて、空気抵抗を受けてゆっくりと降り落ちてくる雪を背景に背負い、パートナーを迎えに来た三井 藍(みつい・あお)は、外から見える工房内の様子に足を止めた。
 窓に近い机で慣れていくラッピング作業に幾らか余裕の出てきた静が、助言を欲しくて近場の紺侍に質問を投げかけて、会話を交わす後ろ姿が見える。
 窓一枚とは言え、物理的に区切られた空間であり、外にまで会話など聞こえるはずもなく、藍の目には、大人しい静が他者と交流しているという絵面として映った。
 積極的な静の姿は純粋に嬉しいと感じる反面、今静が親しげに言葉を交わし助力を得ているのが同性であると知ると、真実何をしているかわからないというのに、それだけで言い表しにくいもやっと感を覚える。不安に揺れる自分に藍は無意識に右腕を左手で掴んだ。
 まだ、彼が静との間の距離が一人ひとり分開いているだけ、大丈夫、と唇が音もなく開き自分を慰める。静を守りたいと思う藍の願いは、傍に居たいという気持ちに似ている。負けず嫌いな性格も相まって、傍で守るというスペース――言うなれば自分の居場所に、静が他者を歓迎し許すのはどうしても踏み荒らされているような気分で、勝手とわかっていながら嫉妬せずには居られない。居場所を奪われるかもという不安と恐怖が上手く表現できず嫉妬という形として現れる。
 やや乱暴に工房の扉を開けた藍は、工房の主人リンスから挨拶を受けて、返し、パートナーを迎えに来た旨を伝えた。
 扉が開き一度作業の手を止めて顔を上げた静は、それが藍だと知ると、あからさまにほっとした表情になった。もうずっと緊張しっぱなしだった所に、心を許しているパートナーの出現は静にとっては知っていても願ってもないものらしく、静の安堵する姿は、花の顔が綻ぶようなはっきりとした変化だった。
 偶然にもその変化を見た藍は軽く目を見開いた。
 藍は自分が静に与える影響の強さを垣間見て、驚き、抱いていた嫉妬心が霧散した自分に気づいた。
「帰るぞ」
 刺が含むかと思われた声は予想よりも優しかった。
 投げるように言うと、静は頷くが、ハッとするように包みかけの箱を見下ろした。
「あ、でも、もう少し居ても大丈夫かな? あと、二個か三個だけ。駄目かな?」
 厳密に帰る時間があるわけもなく、甘えられ、藍は頷いた。